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キネマの神様 2021年 日本

山田洋次監督は落語を題材としたり、落語からインスピレーションを受けた様な作品をたくさん作った人だ。

昔作られたそれらの映画が大好きだった。

そしてこの映画は、1986年の「キネマの天地」との兄弟映画で、

「キネマの天地」も昔の松竹撮影所を舞台にした映画だった。


この映画、当初、主役は志村けんさんの予定になっていたのだけれど、

志村さんが亡くなってしまい、沢田研二さんが演じる事になったのだった。

ええ? 志村けんさんの代わりに沢田研二さん? とちょっと驚いたのを覚えている。

けれど、ジュリーもこの年で75歳、すばらしい爺さんを演じてくれている。


さて、この映画、見始めて暫くの間は、山田監督の映画らしくない雰囲気で進んでゆく。

もしかしてこの映画って、つまんないの? と思いながら見続ける。

この沢田研二さんが演じている役を志村けんさんが演じるはずだったのか、、、。

それにしては随分、沢田研二さんがぴったいりハマっているなあ、と思った。

きっと、そういう風に脚本を書き換えたのだろうか、、、。

さて、映画の中盤から、山田監督の真骨頂だ。

ずんずん引き込まれてゆく。

このストーリーはあれだ! そう、あれなんだよ! と思った。

あれ、というのは、「火炎太鼓」という落語なのだ。

古今亭志ん生の「火炎太鼓」で、大金を手にした亭主が帰宅して、

女房に金を見せる時に、

いいか、驚くな、びっくりして座りションベンなんかするなよ

なんて事を言うのだ。

そのセリフがそのまま映画にも登場している。

いやー、やっぱりこの映画は山田監督の映画なのだ! と嬉しくて涙が出てきた。

山田洋次さんは本当に凄い人だ。


主人公が若い頃企画した映画、スクリーンの中から主役が飛び出してきて、、、

というのをラストシーンに持ってくるところは本当に痺れる。

そして、ラストでそれが描かれる。

さあ、一緒に行きましょう、と、手を差し出す女優にハッとさせられる。

ああ、ここで命が尽きるのか、、と。

1986年の「キネマの天地」でも、最後に渥美清さんが娘が出演した映画を観ながら

映画館で亡くなるのだった、、、。


本当にお見事な映画です。

映画の後半に、主人公が歌を歌うシーンが有る。

そこで歌われたのは「東村山音頭」。

沢田研二さんに代わったのだからタイガースの歌でも歌えば良いところを、

これは志村けんさんへのオマージュなのだろう。


ラストに小津安二郎が東京物語を撮影しているシーンが登場する。

さて、小津監督は誰が演じるのだろう、と思う。

「キネマの天地」では岸部一徳さんが演じていて、

これが爆笑してしまうほどそっくりなのだった。

さて、小津監督役は誰だろうと注目して見ると、ああ、そうか!

なんと、山崎貴さんではありませんか。

この映画のVFXを担当している山崎貴監督が特別出演しているのですね。

(映画のクレジットには出てきません)


実は個人的に、山崎貴さんは、山田洋次さんの後を継いでくれる監督ではないか、

と思っています。

そんな訳で、最終シーンで感激してしまいました。


山田洋次作品が大好きな人には欠かせない映画です。


ところで、冒頭で紹介した落語「火炎太鼓」は、古今亭しん生の持ちネタで、

それはそれは楽しく仕立て上げてくれている。

現在でも、録音や動画などが残っているので、ぜひご覧になって見てください。

江戸時代のエンタメって、本当に凄いな、と思います。

古今亭志ん生「火焔太鼓」
https://www.youtube.com/watch?v=t6en9P27LlQ


キネマの神様 予告編
https://www.youtube.com/watch?v=IuaK2ZZvB68


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