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2020年 お気に入りアルバム10枚

今年もまとめました。

友人たちと「その年のお気に入りアルバム10枚」をお互いに発表する毎年恒例の催しも、今年で10年目。

今年の選盤はみんなコロナ渦の影響でかなり聞く音楽に影響がでていてなかなか興味深かった。もちろん自分も多少の影響はあったきがする。なんというか、若干選曲がスピってるような気がする、、笑

まぁ、あまり気にせずまとめてみます


・・・

#10

Conway The Machine"From King To God"

(Griselda records/Drumwork/EMPIRE)

コンウェイ・ザ・マシーンは、ニューヨークのバッファローという都市を拠点にしたラッパー。

ウェストサイド・ガンとベニー・ザ・ブッチャーを含めた3人で、グリゼルダ・レコードというコレクティブとしても知られている。2016年あたりからジワジワとその名を聞くようになってきて、2019年、2020年は彼らの快進撃が特に目覚ましかった。ハードコアなストリートライフを綴った歌詞と、三人共にキャラの立ったフロウが人気のコレクティブで、客演するベテラン勢も久しぶりに生き生きしている。

1年通してグリゼルダの音楽をかなり楽しんだので、その中でも一枚上げるなら という感じでこれを選んだ。ウータンクランなどの影響も強いハードコアでダークな伝統的なNYスタイルのラッパーで、目に見えてすごく新しいというわけではないが、やはり主役のスタイルが立ってることがヒップホップの一番の正義だと再確認した作品。

ただこのアルバム、ヒットボーイ作でDej Loafが客演した2や、DJプレミアが最高なビートを提供した14なんかのマジで素晴らしい曲を聞くと、これ曲数をもっと絞ったら本当にすごい名盤になれたのでは・・・?と思えてくるところが勿体ない点だったりする。絞ったら絞ったでもっと聴きたくなったような気もするけど、、、!



#9

Haircut For Men"1989"

(Not On Label)

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今年は自宅での仕事が多くなり、BGMを求めて自分はヘアカット・フォー・メンの音楽を無限に聞くようになった。

この人、『大理石のファンタジー』でちょっと話題になったときはヴェイパーウェーブの人というくくられ方をしていたように記憶しているが、2020年になってもこういう追求をしている姿をみて、この人が求める没個性はコンセプチュアルなそれではなく、快楽を追求するための美学としての没個性のようにも思えてきた。ウォーホルではなくラッセン、みたいな。世にあまねくヴェイパー鑑定人たちにこれはヴェイパーなのか判断してもらいたい。

無限ループするシンプルなドラムの上で、ひたすらノスタルジックでロマンティックな音色が広がりのある音像の中で繰り返される。自分は中学生の時に初めてケニーGを聞いたときみたいな気持ちで聞いている(これ捉え方によっては問題ある書き方かもしれないけど、、、)。複雑さはほとんどないが、それ故にいつでも聴ける実用の音楽、に聞こえる。まるで飽きないように作ったスクリーンセイバーのような作品。

ヘアカット・フォー・メンはミックスも含めると今年8枚も出しており、どれもおすすめ。特に『Corona Mix 2020』はBGM難民に勧めたいミックスなのでぜひ。



#8

Yuksek"Nosso Ritmo"

(Partyfine)

はいマジ最高。フランスの人気DJユクセックの4枚目のアルバム。

前作リリース時には音楽業界に嫌気がさしてもうアルバム作らんとか言ってた気がするが、ここに来て彼の良さが全全全開になったアルバムを届けてくれて安心した。フレンチハウスとニューディスコの中間地点にあるエレポップみたいな音楽を作る人という印象だったが、今作はそこにボサノヴァやサンバのパーカッションを介してラテン音楽の要素が入っていて、楽しさと開放感が溢れ出てくる。

しかもモダンでノスタルジックでソウルフルな70年代80年代ディスコを、今回はフレンチポップのフィルターでポップソングに変換する手前くらいのところで止めているところが良くて、家聴きとダンスフロアの中間くらいの塩梅が最高。家から出れない人間に必要なのはこういう音楽ですよまじで。

さらに15曲中12曲に客演が参加しているところにも現れているように、曲ごとにアプローチが結構違うアルバムでもあるので終始とにかく楽しい。2020年に必要なユクセックは、エレクトロポップなユクセックじゃなくて半ダンスフロアでカラフルなこういうユクセックでしょう!

ていうか、そういうの抜きになんでこういうのを早く作ってくれなかったんだろうかこの人は。Partyfineからリリースする音楽は好きなのに、何故かこの人のアルバムは今までハマりきれなかったんですよね。

ようやくドンズバなアルバム出してくれた。。。



#7

Meritxell Neddermann"In The Backyard Of The Castle"

(HALLEY RECORDS)

メリチェイ・ネッデルマン、と読むらしい。

スペインのカタルーニャ地方出身で、今はバルセロナで活躍するピアニスト/シンガーソングライター。今作は5曲が英語、4曲がカタルーニャ語の全編自作のソロ・デビューアルバム。優しいピアノと繊細なボーカルが気持ち良い作品。様々なジャンルを横目に現代的な解釈でAORを再定義したような名盤、と断言しちゃいたい。

ジュークの影響も、エレクトロ、ヒップホップ、R&Bからの影響も見えるが、過剰に飾り付けること無くあくまでメロディを主に置いた作りが控えめでとても心地良い。ボーカルのエフェクトが意外と幅広いところがこのアルバムの好きなところで、特に後半2曲がウィスパーボイスの多重コーラスからシンプルで優しい歌唱で締めるのがたまらない。

また、今作はCDで買うと2枚組で、エクステンデッド・エディションとしてピアノのソロを足したバージョンのアルバムもついてくる。リミックスではなく再解釈で、交互に聞いてもそのコントラストがまた良くて甲乙つけがたいバージョン違いなのでぜひ聴き比べてほしいところ。

うーん 素直に良いからどう褒めていいのかわかんない。。

とにかく良いので聴いてほしい。



#6

Kaitlyn Aurelia Smith"The Mosaic Of Transformation"

(Ghostly International)

今年6人で年間ベスト発表会やったら、6人中3人がこのアルバムをTOP10に入れていた。

でもこれこそがコロナ渦を乗り切るのに必要なアルバムだったってことでしょう。

これこそが音の波の中の涅槃。あるいはシンセの作る温かい海の中のおだやかな水流と気泡、もしかしたら魂の疲労を無くす浮力を生み出すそよ風。なんかそういう気分になるくらいのスピリチュアルなパワーを持った癒やしのアルバム。

わざと怖い感じでスピった言い回しで印象から書いたが、シンプルで優しい電子音と、即興のような有機的な音の構造に異様な愛嬌を感じてひたすら癒やされる。

催眠的とも言えるくらい、身を委ねたくなるシンセサイザーの快楽がこのアルバムにはある。一部の人に永久に愛されるタイプのアルバム。

しかもこれ、10分以上ある最後の曲を聞いてから1曲めに戻ってくると始まりが素朴でまたすごい良いんですよね、、、、すでに何らかの催眠にハマってるような気がする。



#5

Ras Michael"Live By The Spirit"

(Hen House Studios)

恥ずかしながら、自分はレゲエにあまり触れずにここまで来た不勉強な人間で、ナイヤビンギの父と呼ばれるこのラス・マイケルも今作で初めて触れた。

そもそもナイヤビンギ(ラスタファリアンの宗教的な集会で演奏される音楽。「ケテ・ドラム」と呼ばれる太鼓を低音、中音、高音とパート分けし、複数人でたたき演奏し、讃美歌を乗せたもの。らしい)自体、恥ずかしながら今年になってちゃんと意味を知ったくらい前提知識がなかったが、それでもこの作品はやたら気に入ってしまって繰り返し聴いたアルバムだ。

シンプルで自由な生楽器の上で語るように歌う音楽で、それがとても爽やかで開放感があって心地よい。この音楽は、最高にエレガントでスマートなミニマリズムなんじゃないかと思えてきた。

主張しすぎない存在感で漂うフルートがやたら好きです。



#4

Pop Smoke"Shoot for the Star Aim for the moon"

(Victor Victor Worldwide/Republic Records)

若干20歳で今年この世を去ってしまった、2020年の期待の星だったNYのラッパー、ポップ・スモークの遺作にしてデビュー作。ブルックリンドリルの旗手としても知られていた人物。

今作は50セントがエグゼクティブ・プロデューサーを務めていて、ブルックリン・ドリルをわかりやすく示すというより、たくさんのゲストと主役のいろいろなフロウを絡めて主役の変幻自在っぷりを見せつけるようなアルバムだ。50セントの影響丸出しの5や、レゲトン歌手のカロルGとの12、お得意のブルックリンドリル全開の9とかとかが特に耳を引くが、懐かしのネタの使った14や15、50セントの曲の再解釈的な10、17なんかがまた良くて、ビギーの1stやGユニットの諸作のようなポップさとハードコアさをこのあたりでバランスとってるようにも聞こえる。特に50セントを再評価・再解釈する試みが自分にぶっ刺さる。

こういうラッパー、ここ数年あまり多くなかったのでポップ・スモークに期待してた部分が結構大きく、彼の死が残念でならない。トラップも経由してるけどそれ以前のヒップホップもかなりガッツリ受け継いでるところが良き。ちなみにこのアルバム、元々19曲と大ボリュームなのに、デラックス・エディションではさらに15曲増えて全34曲になってます。



#3

Le Makeup"微熱 Slight Fever"

(Pure Voyage)

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2020年一番聴いた日本の音楽でした。Le Makeup待望の1stフルアルバム!

海外のビートシーンと共鳴するような素晴らしいトラックに、朴訥とした言葉を乗せた音楽。音として前衛的に感じるのに、実直でパーソナルな言葉の選び方もあって普遍性も感じさせる。Tohji好きな人とかにも聴いてもらいたい実直さとエモさ。エモって言葉全然好きじゃないけど、この音楽で現れるエモーショナルなところはすごく好き。歌っているテーマのせいか歌い方のせいなのか、どことなく物悲しさを帯びているところも2020年の気分にあっていました。

こうやって年間ベストをまとめていて気づいたが、自分が2020年に好んだ音楽は、フォークとソウルとエレクトロニックを、ヒップホップ的な感性で再度まとめたものが主だったのかも。今作はそういった枠組みの中に入れても、(自分が触れた音楽の中では)2020年の日本からの最良の回答の一つだったように思う。懐かしいようで孤独なような、あらゆるジャンルを横断して生み出されたジャンル名に頼らないシンプルな音楽。技工より実直さが前に出た結果オリジナルになったようなところが好きにならずにいられない。



#2

altopalo"farawayfromeveryoneyouknow"

(Not On Label)

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アコースティックでエレクトロニックな、繊細でいて破壊的なNYのアートバンドの二作目。全体的にメロディアスながらに、テクノロジーもカルチャーもジャンルも、あらゆる要素をクロスオーバーすることを目的としたような音楽で、あらゆる相反する要素をどう両立させるか試みた実験の結果のように聞こえる。

でもこれ、複雑なことを考えてバランスを取りながら詰め込めるだけ要素を詰め込んだと言うより、あらゆる要素を発散させて収束させずに一枚のアルバムとしたような印象もあり、それが故に作り込みすぎない素直さや素朴さを作品全体に与えているように感じる。

なんというか、大変な2020年だったからこそこういう素直な音楽が聴きたくなりました。メロディアスで美しい実直な混沌といった感じ。情熱的なボーカルと不協和音がエフェクトを経由して混ざり合うところが最高。

いろいろ書いたけど、なんていうか言葉で説明できる類の音楽じゃないのでとりあえず聴いてほしい笑



#1

Mac Miller"Circles"

(Warner Records Inc.)

自分の一位はやっぱこれでした。

自分が信じるヒップホップってマック・ミラーの作る音楽のことだったんじゃないかと思えてしまうほど、ひたすらに素晴らしいアルバム。

彼の遺作『Swimming』も素晴らしかったが、今作はあそこからさらに簡素化され、ラップというよりほとんどが緩やかな歌唱になっていて、更に優しくかつ新鮮な音楽になっている。彼のことを知らない人が聞いたら、フォークやソウルと近い音楽という認識は持ててもヒップホップだとは到底思えないんじゃないかと思うくらい、シンガーソングライター然としたアルバム。

今作は元々『Swimming』と対になる作品として作られていたらしく、マック・ミラーとの会話を元にジョン・ブライオンが完成させたらしい。だとすると、今作は仕上げたジョン・ブライオンの手腕が素晴らしすぎる。死者の音源に手を加えてリリースする類の作品で、こんなに素晴らしいもの中々出会えない。

ジョン・ブライオンは『エターナル・サンシャイン』や『レディ・バード』などの映画音楽を手掛ける作曲家としても知られる人物で、彼が今作で提供している音楽は全体を通してとても優しくパーソナルな世界にまとまっているように感じる。インディーロックやカントリーを基盤にしたような少し懐かしくオーガニックな音色に、暖かくエレクトロニックな音やエフェクトを乗せたような優しいトラックで、ここにマック・ミラーの死を予感してたような歌が乗るともはや泣ける、、



2020年は、いよいよ年間ベストの意味を問われはじめた年でもある。実際、今やほとんどの人がストリーミングサービスやYouTubeで音楽を聴く状態になっていて、アルバムという単位にどういう意味があるのか、選びながらも自問自答してしまう。

でも、自分はやっぱりアルバムという単位が好きです。

 2015年のグラミー賞で、プリンスも「Albums, Remember Those? Albums still matter. Like books and black lives, albums still matter. (アルバムって皆覚えてる? アルバムはまだ大事だ。本とか黒人の命と同じようにアルバムって重要だよ)」みたいなこと言ってたじゃないですか。

もう5年も前で、今はあの時から更に状況が変わっているから、この頃の発言を引っ張り出して一概には言えないと思うけど、少なくとも自分にとっては、「アルバム」というフォーマットはまだ大事。曲と曲の間に編集的な意味を与えるところが好きで、こんなに音源集めている人間なので、本気で限界を感じるまでは続けて見ようと思う。