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2021年のお気に入りアルバム10枚

毎年の習慣で、今年の新譜で良かったアルバムについてまとめました。

年間ベストアルバム選び、やってみるとその年の自分の気分が振り返れて結構楽しいので、全人類やったらいいと思ってます。自分はもう11年もやってて習慣化しています。無意識を遡る日記のようなものとして不思議な総括ができ、習慣化するとやらないと一年が終われない体になります。

今年聴いたアルバムは510枚。例年より少し少なめな気がします。
聴いている音楽の傾向は割とはっきりしていて、環境音じゃなくメロディと歌に癒やされたいな という嗜好がはっきり見える10枚になりました。

それでは一枚ずつ短文コメントとともに紹介していきます。



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#10
Rejjie Snow - Baw Baw Black Sheep

実は今年、しばらくヒップホップを聴こうと思えないような気分になっていた時期がありました。原因は正直よくわかりませんが、自分がそんな気分から戻ってくるきっかけになったのがこの作品でした。会社から帰る電車で気分が切り替わった瞬間がとても思い出深い。

今作の主役レジー・スノウはメロディへのこだわりが強いラッパーという印象があります。R&Bとラップを行き来するというより、トラックもフックもラップも使ってきれいなメロディをラップソングに溶けさせるのが上手い。今作はその側面がかなり良い形で出ていると思います。たぶん音楽の歴史を振り返ったときに重要な作品は他にもいくらでもあると思いますが、パーソナルなアルバムを選んでこその個人の年間ベストだと思うのでこれを!

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#9
Rostam (Rostam Batmanglij) - Changephobia

ヴァンパイア・ウィークエンドの元メンバー、ロスタム・パトマングの2ndアルバムです。凄まじく風通しが良いアルバム!! 全力で薦めたい作品。

メロディが綺麗とか打ち込みが自然に入ってるとかチャチな言葉では今更説明する必要ないと思いますが、他ジャンルというか世界中の音楽を縦横無尽に取り込みながらもアコースティックに爽やかに流れてく感覚が「これこれぇ〜!」ってなって最高です。特にサックスが風通しの良さを作ってて超効いてます!! 
どんな音楽が好きな人にもオススメしたい作品です。

バンドを脱退し、プロデューサーに転身してからも活躍目覚ましいロスタム。ソロでもこんな作品出してくれるなら、ソロアーティストとしても今後も期待しちゃいます。もっともっと話題になっていいと思うし、実は大好きって人も多い作品なんじゃないかと思ってます。



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#8
FNCY - FNCY BY FNCY

今年、自分が一番聴いた日本の作品はおそらくこれです。自分にとっての2021年のアンセムがいっぱい入ってます。

表題曲のFU-TSU-Uが、今年自分が求めていたものを完全に表してるなぁと感じます。ニューノーマルっていう若干かっこいい言葉を、この曲みたいにあえてもう一回「普通」って言い換えたくなるような気分になることの多い一年でした。何もかも、そんなに大仰なことじゃないことを確認したかったというか。
変にカッコつけるでもなく、不安を掻き立てるでもなく、できるだけ地に足ついた感覚が欲しかった。それもポップに。
このアルバムは、ノスタルジックな感覚も覚えるファンキーな音に乗った歌詞を通して、かつての生活や好きだったものを思い出し、また未来に備える確認作業ができるような作品でした。

また、このアルバムは音の統一感も大好きです。今までの三者の作品がとても綺麗に一つの作品にまとまったようなきれいな着地を見せてると思います。カシーフ、Grooveman Spot、BTBなどなどゲストも最高!


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#7
Nick Schofield -  Glass Gallery

ロックでもポップスでもクラシックでもヒップホップのトラックでもなんでも、音楽を聴いて情景が浮かぶような感覚になるときがあります。自分はこのアルバムを聞くとイントロから雪が降ってくるシーンが明確に浮かびます。光や空気みたいなものを豊かに伝えてくれてるような、情緒的なアンビエント作品です。

自分はこのアルバムをRPGで雪の街に訪れたときのBGMのように聴いています。瞑想的で広がりのある世界観なのに、意外と音自体はシンプルで認識しやすく、とても親しみやすい。そういうところが好きです。調べるとどうやらシンセ一台で作った作品らしく、あとで知って納得しました。

作者のニック・スコフィールドはカナダのモントリオールを拠点にするアーティストで、タイトルの「グラス・ギャラリー」はどうやらオタワにあるナショナルミュージアムのようです。いつか行ってみたい気もするけど、妄想の中で描いたグラス・ギャラリーを大切にしたい気持ちもあります。


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#6
Sufjan Stevens & Angelo De Augustine - A Beginner's Mind

ジャケットが意味不明すぎて気になって聴いたので、最初に聴いたときはアーティストがあのスフィアン・スティーブンスだってことを意識しないで聴いてました。

禅や仏教の概念であるSHOSHIN(初心)を持って作られたアルバム、らしいです。映画からインスピレーションを経て、アンジェロ・デ・オーガスティンと二人でタンデムに曲を書いて、コード進行と歌詞を混ぜ合わせ、映画の主題とは別のところに着地させる哲学的探求、らしいです。正直そのへんはよくわかりません。
ジャケットを描いたのは、ガーナのアーティストDaniel Anum Jasperで、80年代のガーナでは映画について僅かな情報だけでポスターを書いて宣伝しないと行けなかったらしく、彼の作風を生かしたものみたいです。このあたりはタワレコのこの記事を参考に調べたので、気になる方は元記事を是非。

制作背景が色々複雑な作品ですが、アウトプット自体はめちゃくちゃ素直で良い曲ばっかりのアルバムです。
あと、自分がたまたまジャケの意味不明さに惹かれて聞くところから触れれたのがとても良かった。それこそSHOSHINを大切に聞くことができて幸運だったと思ってます。

この作品はたまたまそういう触れ方をしましたが、2021年に聴いた音楽は、あえてコンテキストを完全無視して楽しんでいるところがあります。もしかしたら、それが自分にとっての地に足をつける作業だったのかも。


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#5
Puma Blue - In Praise Of Shadows

明け方、眠れない時に無限ループしたいアルバム。

サウスロンドンのアンダーグラウンドヒーローの何気に初アルバムです。もう長いこと話題になっていた感もあるのでこれがファーストというのはちょっと意外です。

か細いとも言えるほど繊細な歌声に、抑制されたエレクトロの要素と、意識しないと気づかないくらいの音量のアコースティックなギターの音や鍵盤の音でとことんパーソナルな空間を作ってくれます。これ録音するとき鼻歌くらいの音量なんじゃないかと思ってしまうくらいの繊細さです。

本当に極端に繊細で音の数も少ないので、適当に聞くとももったいない作品だと思います。この作品が持つ「信じないと感じ取れない」ようなミニマリズムと歌詞の切なさからある種ブルースのようにも聞こえてきます。

タイトルは谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の英題らしいです。10年も不眠と鬱を患ってたってところは心配にもなりますが、そういった陰の部分をこういう形で結実させるのは表現者として憧れてしまいます。


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#4
Serena Isioma - The Leo Sun Sets

すみません、これだけ実は2020年12月発売の作品です!
でもたぶんほとんどのメディアで漏れてると思うし、このタイミングじゃないと紹介しないから無理やり入れました!

シカゴを拠点にする、ナイジェリア系アメリカ人シンガーソングライターの作品です。

とにかく明るくて楽しい! このセレナ・イシオマ(でいいのか?)は軽やかなジャンル横断をするアーティストです。ヒップホップやソウルR&Bを元にネオソウルっぽい曲も良いですが、あまりそこにもとらわれず普通のポップスみたいなのもやってくれるのが聴いていて痛快です。痛快なのは彼女の明るい雰囲気や歌詞の影響も大きいかもですが!
こういうジャンル横断のスタイルのアーティストも最近は結構増えてきているようにも思いますが、中でもキャラクターもスタイルもとても好きなアーティストなので、このまま大ブレイクしてほしいところ。


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#3
John Carroll Kirby - Septet

今年まで全然意識してなかったんですが、最近自分が思った以上にダフト・パンク・ロスなことを自覚し始めました。

ダフト・パンクの新譜が聴けないことへのロスではなく、高校生の頃にダフト・パンクのディスカバリーを聴いて衝撃を受けた「再編集の妙」のような価値観を無意識に求めてしまっている自分に気づいたというか。またダフト・パンクの最終作「ランダム・アクセル・メモリーズ」がそれを超こだわり抜いた生演奏で作り直すという試みで最高の具体化をしていたのもあり、あの極地の続きが聴きたい と無意識化でずっと欲求がくすぶっていました。

幸い、2021年はそういった基準で聴いても素晴らしい作品が多く楽しかったです。シルク・ソニックのアルバムなんかもある意味で自分にとっては"そうとも聞こえる"作品でした。中でも2021年にそんな自分の欲求を最大限満たしてくれたのがジョン・キャロル・カービィのこの作品でした。

ストーンスロウ発の、ジャズ/ソウルプロデューサーの二作目でインスト作。シンプルで超メロウ、超スピリチュアル。
音自体がヴィンテージっぽいので70年代や80年代やの空気も感じるけど、ちょっぴり感じるサンプリング以降の編集のような雑味がまた最高の味を出していて、ベタすぎるようにも聞こえる作りの意図が読めるようで読めず、そこがまた不思議なフレッシュさも感じさせます。

彼の鍵盤と、サックス、木琴の優しいアンサンブルが、気持ちいいベースとドラムとパーカッションの中に溶けていく感じ、クセになります。(すんごい音楽として当たり前のようなことを書いてる気もする)

秋になったら毎年聴きそう。



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#2
Cleo Sol - Mother

SAULTの数々の作品や、リトル・シムズの新作なども含めて、ここ数年インフローの関与作がすごいです。

リトル・シムズもUSとは別角度からネオソウルの先を提示してくれているようで明らかな重要作だし、順当に行けば色んなメディアが一位にしてもおかしくないよなと思いつつ、自分の今年の気分に一番ハマったインフロー関連作はクレオ・ソルこのこの作品でした。

アコースティックな音が目立つことから、ソウルシンガーの作品というより、ソウルシンガーと共振した往年のシンガーソングライターの名盤のような佇まいの作品で、こういうソウルやR&Bにこだわり過ぎない広い引き出しを使いつつとんでもない完成度に達するのがインフローの良さですね。素直に名曲ばかりで何度も再生した作品。

母になり、母性をテーマにしての作品というわけで「Mother」というタイトルの本作。歌詞には多幸感がある場合も葛藤が描かれる場合もありながら一貫して美しく、万人に勧めたい作品です。

オーガニックで最高に優しく、きっとずっと聴く作品になると思ってます。


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#1
Landon Caldwell - Bicycle Day

Landon Caldwell - Bicycle Day

これ書いてる時点で、Youtubeの再生回数124回しかないし、二曲目のBicycle Day IIはspotifyの再生回数ゼロだ。。。。

自分もどうやって出会ったのかマジで覚えてないのです(たぶんいつかbandcampが取り上げてた気がする)。これは本当に出会えた奇跡に感謝したくなる。2021年最高のアンビエント作だと思ってます。

インディアナポリスのアンビエント作家の作品で、 リリース初期は自転車にスピーカーつけて、このカセットの音を放送して近所を走り回ってたらしいです。そういう話を聴いて納得するような、他の作品にない身近さを感じる作品でした。

インタビューなどを読んでいると、これはスタジオでの音作りのアンチテーゼから作り始めた作品らしく、録音中敢えて窓も開けるし、子供や犬が録音中に入ってきてもそのままにするし、公園で録音して小鳥とフルートでコールアンドレスポンスできたなど語っていました。

これこそが真のアンビエント!(=環境音楽)と言いたくなるような美学と、なんだかんだでメロディアスなところがとても好きで、今の自分が求めているのは、もはや現代の汚染でかつての身近なつながりのような、気軽さと雑さなのかもしれないと聴きながら思い返していました。

ただ、こういうアンビエント作品を一位にするのは決定的な理由がないと難しくて悩むところもありました。こんな記事、個人でやってるんだから好きにすればいいじゃん!というセルフツッコミもいれつつ、、、その「好き」を言語化するのがアンビエント作品は特に難しいというか。毎年アンビエント作品への「好き」をどういうふうに捉えたらいいのか悩みます。今回はシンプルに「繰り返し聞けた」「何故か無限リピートしてしまった」という自分の感覚の強さを信じて、一位にしようと思いました。

こんなに一年中聴いてるのに今聞いても最高だから、きっと自分はこれがとても好きなんだと思います。まだカセット買えるから、気に入った人は是非今のうちに買ってみてください。


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パンデミックも2年続いて、なんだか適当なアンビエントでは癒やされない様になってきてしまい、歌やメロディがとても恋しくなるような2021年でした。
この状況がどれくらい続くのかわかりませんが、音楽を通して自覚する感覚の変化が多少楽しくもなってきた2021年の年末でした。