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来期から還元率下げます ~ 還元率競争に終止符を ~

この度、エージェントグローは『来期から還元率を下げる』という決断をしました。

多くの議論と熟考を経てこの決断に至ったわけですが、この決断により『SES業界で働くITエンジニア』、『SES企業』、『SES企業の経営者』それぞれにおける『中長期的視点におけるメリット』や『還元率の最適値』が見えてきました。

この記事では、『還元率』に関して私たちがたどり着いた『答え』や『その答えに行き着くまでの過程』についてお話しさせて頂きます。


基本方針を見直します

エージェントグローが創業してから今日に至るまで、段階的に還元率を上げてきました。

エージェントグローの還元率推移

しかし、それも「これまで」の話。この基本方針を下記の通り見直すことにしました。

  • 来期(2025年11月期)から還元率を2%下げる

  • 福利厚生の一部をカット

仮に「単価60万円」のITエンジニアがいたとした場合、賞与が10万円ほど下がる計算になるにもかかわらず、何故このような決定を下したのか。

その背景について、ご説明したいと思います。

すべての水準を高い状態に維持した上で実現するために

私は以前、「SES業界が本当に求めている高還元率企業のありかた」という記事を書きました。

この記事の中でも言及していますが、エージェントグローでは『ITエンジニアの還元率を、2025年までに80%にする』という目標を掲げ、社内にも周知してきました。

しかし、私たちはこの計画を無条件に実現するわけではなく、『誰かを犠牲にして達成することはしない』という大前提を定めていました。

つまり、「本社メンバーの給与」や「会社の利益」、そして「役員報酬」……と、「ITエンジニアの給与」だけではなくすべての水準を高い状態に維持した上で実現しようと考えていたのです。

しかし、そのようにはできませんでした。

現状の還元率を維持するために、会社の利益を削減している状況です。この『会社の利益』は、本来であれば『採用予算』などの未来を見据えた投資の原資となるお金です。

このような背景があり、『還元率を下げる』という決断に至ったのです。

予測とは異なっていた『現実』

この理由や背景について、もう少し詳細に説明をしましょう。

エージェントグローでは、『還元率を上げた分、採用人数増加&離職率低下が見込める』と予測を立てていました。

エージェントグローにおける採用人数と離職率の推移

結果からいえばこの予測通りにはいかず、還元率をアップしても『採用人数増加』や『離職率の低下』といった効果は見られず、『利益率が大幅に下がる』という状況になりました。

エージェントグローにおける売上比率とエンジニア人件費の内訳(2023年11月期)
エージェントグローにおける売上比率とエンジニア人件費の内訳(2024年11月期)

上記のグラフを見ると、『還元率:78%』に対し『福利厚生を含めたITエンジニアの人件費:81%』と大きく膨れ上がっています。

これでは、今後『還元率:78%据え置き』にしたとしても、営業利益率は4%ほどしかでない計算になります。

エージェントグローと競合他社の状況比較

では、他の新SES企業はどのような状況なのでしょうか?

状況分析の過程で、新SES企業の中でもエージェントグローがベンチマーク対象としている優良企業3社とエージェントグローの状況を比較してみました。

その比較結果によると、『採用状況』や『離職率』には大きな差はありませんでした。反面、『還元率』と『利益率』には大きな差が出たのです。

先の資料で示したように、エージェントグローにおける『ITエンジニア人件費(福利厚生を含む)』は81%です。

エージェントグローの還元率計算方式で計算すると、3社とも『75%前後』となります。また、営業利益率は各社とも『10%前後』となります。

エージェントグローと競合他社3社の状況比較

踏まえた上で、エージェントグローと競合他社3社の状況を比較してみると……。

『還元率』については『エージェントグローの方が6%以上高い』という状況であり、『会社の営業利益率』は『競合他社3社の方が8%以上高い』という状況であることが分かります。

この状況を、分かりやすい例で例えてみましょう。

例えば、『売上高:50億円』の会社が2社あり、『A社』は『還元率75%』、『B社』は『還元率:78%』に設定しているものとします。

B社と比べ、A社の還元率は3%ほど低く設定されており、年間の粗利は『1億5000万円(3%分)』ほど多くなります。

還元率の違いによる粗利の違い

A社はその資金を採用予算などに割り振ることができるため、ITエンジニア採用などの面において圧倒的優位となります。

反面、B社の方はA社と比較して『年間1億5,000万円(3%分)をITエンジニア給与に投資している』という構図になるわけで、その投資をした分、『採用人数の増加』や『離職人数の低下』などの効果を期待します。

『1億5,000万円』もの投資をしているわけですから、A社と比較して『ITエンジニアを100名以上多く採用できた』とか『A社よりも離職率を15%以上低くできた』などの大きな成果がなければ割に合いません。

しかし、そのような『大きな成果』を得るのは容易ではありません。

これからは『資金力』の重要性が増す時代

新SES企業が年々増加している現在、『資金力』というファクターの重要性は今後さらに重要なものとなります。

これまで、新SES企業における採用手法は『採用媒体』や『SNS』がメインであり、費用をかけるにしても『年間3,000万円』までが限界でした。

しかし、この状況は2024年になってから変貌を見せます。『ダイレクトリクルーティング』という新たな採用方法が活用されるようになったのです。

このダイレクトリクルーティングは採用人数に応じて成果報酬を支払う形態であるため、投資できる金額は青天井。

年間数億円単位で使うことも可能な時代が到来したのです。

そのような情勢の中で、ITエンジニア採用で成功を収めるためには『いくらお金を使えるか』の勝負に勝つ必要がでてきます。

『資金力に乏しい中小企業』や『過剰な高還元により利益が出てない企業』は淘汰されてきます。

『利益率』の重要性が、これまでとは比べものにならないほどに高まってきているのです。

私たちの決断がSES業界に及ぼす良い影響


SES業界のパイオニアである当社が『高還元(還元率)』というファクターにメスを入れ、『還元率を下げる』という決断をした。

その意味――SES業界に及ぼす影響とはなんでしょうか?

SES企業の経営者、そこで働くITエンジニア。そして、SES業界そのものに、下記の観点で『良い影響』があると考えています。

SES企業の経営者に与える影響

『高還元し過ぎてしまっているSES企業』が還元率を下げやすくなります。

ITエンジニア想いの経営者が高還元率に設定し、会社の利益が少なくなってしまっている。それどころか、会社運営上問題が出てしまっている……という、SES企業が散見されます。

今回私たちが決断したように還元率を下げればバランスが取れるようになるのですが……そのレベルの重責を伴う決断は、おいそれとできるものではありません。

私自身、決断してから数日間はなかなか眠れませんでした。

SES業界に少なからず影響力を有しているエージェントグローが『還元率を下げる』という決断を下したことにより、みなさんの心理的ハードルが少しは下がったのではないでしょうか。

もし『還元率を下げるべきタイミングの見極め方』『還元率を下げる決断をする際の合理的な理由』について確認したい場合は、本note記事を参考にして頂ければと思います。

SES企業で働くエンジニアへの影響

『最悪の事態』を回避することができます。

ITエンジニアにとって、『還元率が高いこと』は確実に良いことです。

しかしそれは短期的視点での話であり、『高還元にした結果、会社の利益が少なくなっている』という状況に陥っている場合、その煽りを受けるのは他ならぬITエンジニアです。

中長期的視点で見れば、マイナスであると言えます。

不景気は10年に1度は訪れるといわれています。

もしも会社の財務状況が不健全な状態で不景気が来てしまったら、どうなってしまうでしょう。

一般的に、不景気なときは一個人としての備えや余裕が欲しくなります。

もし、そんなタイミングで減給や給与遅延・未払いなどが起こったりしたら、不安に苛まれるかもしれません。

もしそれを回避するために転職するにしても、不景気な状況での転職は厳しい状況を強いられてしまうことでしょう。

だからこそ、目先の『還元率』に右往左往するのではなく、会社の利益が出る『適正な還元率』となったことを中長期的視点で捉えましょう。

SES業界への影響

『高還元の適正値』が判明しました。

恐らく今回、SES業界における『高還元』について、その適正値が判明したと捉えて差し支えのない状況となりました。

その結果、今後は還元率75%前後の企業が増えていくでしょう。

新SES企業の経営者の多くは、『ITエンジニアの待遇改善のため、還元率を高めたい』との思いを抱いている方が多くいらっしゃいます。

今は新SESの黎明期れいめいき――どの程度の還元率が適正なのかわからず、計算方式も各社で違う状況です。

そんな状況は過去のものとなり、『適正な還元率』が少しずつ分かり始めてきています。

『高還元』と『会社の利益』を両立させつつも急成長を遂げている新SES企業の共通項は、『還元率75%前後』となることでしょう。

変化するITエンジニア採用を見据えて

繰り返しとなりますが、今後ITエンジニア採用は『いくらお金を使えるか』の勝負になってきます。

『資金力に乏しい中小企業』や『過剰な高還元により利益が出てない企業』は、遅かれ早かれ淘汰されていく運命にあります。

新SES企業の増加に伴い、激化の一途を辿る『還元率競争』。

『一番有効な還元率』が見えてきたことにより、そんな状況にピリオドを打てるようになったのです。

その有効性が見いだせない以上、還元率を上げ過ぎれば競合他社に負ける。

還元率の適正値がわからないまま試行錯誤していた時代は終焉を迎え、『適正値』と想定される還元率を企業努力によりどこまで上げていくか。

勝負のフィールドがこれまでとは大きく変わってくることでしょう。

エージェントグローの目指す未来

『還元率を下げる』という決断が、最終的にはこの日本で働く数十万人のITエンジニアの待遇改善に繋がる。

私たちはそう考えています。

もし仮に、還元率競争に歯止めがかからず、『SES業界におけるデファクトスタンダードの還元率』があまりにも高い割合となったらどうなるでしょうか?

『還元率は高いけど財務状況が不健全な企業』ばかりとなり、いざ不景気が訪れたときに困る人がたくさん出てくる業界になってしまうことでしょう。

不景気になったときに減給、転職することになってしまう人を増やしてまで、高還元にするべきでしょうか?

私がそう問われたならば、答えはノーです。しかし、『低い還元率』がよいわけでもありません。

目指すべきは、

  • ITエンジニアの給与

  • 会社の利益

  • 本社メンバーの給与

  • 役員報酬

そういったすべての要素が『高い水準で維持/実現』できる還元率こそが、『高還元』のあるべき姿なのです。

そうすることでSES企業で働くすべての人が安定して高待遇を得ることができる世の中になる。

これがエージェントグローの目指す未来です。