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佐藤康光//変態発/剛腕経由/殿堂行き

佐藤康光は日本将棋連盟の棋士。
1969年10月1日生まれの54歳。
竜王戦は1組、順位戦はB級1組。

一言でいえば凄い棋士だ。
何が凄いかといえば直近の成績を刮目すれば一目瞭然である。

佐藤康光・直近10戦の戦績
2024/4/30 ● 瀬川晶司
2024/4/25 ● 羽生善治
2024/4/10 ○ 伊藤匠 竜王戦1組
2024/3/27 ○ 佐藤天彦 王座戦
2024/3/7    ○ 糸谷哲郎 順位戦B1
2024/2/29 ○ 青嶋未来 王座戦
2024/2/16 ● 澤田真吾 順位戦B1
2024/2/2    ○ 佐々木大地
2024/1/18 ○ 屋敷伸之 順位戦B1
2024/1/11 ○ 広瀬章人 竜王戦1組

伊藤匠、佐藤天彦、糸谷哲郎、広瀬章人 といった一線級を退けて勝率は7割。
若手には一つたりとも取りこぼさないというのも難易度の高い離れ業だ。
54歳でこれは凄い。

今日は色々と凄すぎる佐藤康光九段について語っていこう。

緻密流、剛腕の目覚め

佐藤康光を語る上で外せない対局がある。
それはタイトル戦なんて生半可なものではない。
まさに負けられない戦いがそこにはあった。


それは2004年の将棋NHK杯・佐藤康光-中井広恵戦だ。
下馬評では佐藤康光棋聖が圧倒的有利。
だが蓋を開けてみれば中井女流が勝勢で終盤に突入。
普通なら投げる局面が延々と続くが佐藤は投げない。
いや、投げられない。
女流棋士には負けられない。
ましてやA級棋士で現役タイトルホルダーの佐藤が負けるわけにはいかない。
そんな空気が今よりも強かった2004年にあって佐藤は顔を真っ赤にしながら粘る、ひたすら粘る。
怪しい一手、誤魔化しの一手、アマチュアみたいなイモスジの一手、加藤一二三顔負けの盤を叩き割るかのような一手。
緻密流で1秒間に1億と3手先まで読めると謳われた佐藤康光の姿はそこになかった。
そこに居たのは野生動物・佐藤康光。
そして迎えた最終盤。
将棋のカミは佐藤の気迫にびびった。

中井女流が痛恨のミス。

一瞬の間隙をとらえ佐藤が鬼神のような手つきで決定打を盤に放ち込んだ。
佐藤康光、薄氷の上で勝利を手繰り寄せた。
剛腕・佐藤康光誕生の瞬間である。



変態経由剛腕行き


だが2004年の「死闘」によって剛腕へと覚醒する前にも、佐藤には紆余曲折があった。
佐藤康光といえば羽生世代であり、ことあるごとに羽生善治が佐藤の前に立ち塞がっていた。
1秒間に1億と3手読む設定の佐藤だったが、どうにも羽生には分が悪い。
最後の最後で羽生に阻まれタイトル獲得数が伸びない。
そこで佐藤はフォーム改造に取り組んだ。

不意をつく振り飛車。
一手損角換わりからの肉弾戦。
端に3本香車をお供え。
角交換してまさかの振り飛車。

居飛車正統派からビックリ箱に早替わりだ。
このモデルチェンジは衝撃的だった。
ど真ん中ストライクの正統派だった佐藤がヘンテコな振り飛車を指し始めたのだ。

佐藤康光の将棋は何が起こるかわからない。
そんな佐藤を畏怖してオンラインの御仁たちはこう呼んだ。


「変態」


居飛車正統派  →    変態  →      剛腕

こうした変態迂回経路を経て剛腕は誕生したのだ。


積読があれば棋士の素顔が見える

佐藤康光積読シリーズ


書籍はその人物の鏡となる。
佐藤康光九段は多著ではないが相応に著書を上梓している棋士だ。
若い頃の棋書からは生真面目さがヒシヒシと伝わってくる。

NHK講座の内容をアレンジした「寄せの急所 囲いの急所」

中でもこの「寄せの急所 囲いの急所」は最も人気を博した棋書だろう。
寄せの書籍として中級者でもわかるように丁寧に丁寧に練られた構成になっている。
緻密流・佐藤康光の面目躍如だ。

今、ちょっと本書を読み直している。
・・・いや正確を期せば初めて読んでいるのかもしれない・・・
・・・書籍はわんさかと積読となり将棋書籍は特に・・・
・・・いっぱいありすぎてもう何が何だかわからんのじゃ・・・

緻密で、
繊細で、
生真面目で、
メガネかけてて、
早口で、
根暗で陰湿で、
無愛想で、
どこまでも仏頂面で、、

というステレオタイプが昔の棋士にはあるが・・・

1995年11月30日初版発行


ムッチャ笑ってんじゃねえかよ。


本当は、
帯表紙裏の「ムッツリ笑い写真」をアップしてやろうかと思ったが、武士の情けで勘弁しておこう。



剛腕経由殿堂行き


佐藤康光は日本将棋連盟の棋士。
1969年10月1日生まれの54歳。
竜王戦は1組、順位戦はB級1組。

これは凄いことだ。
54歳のベテラン棋士が若手中堅を終盤でねじ伏せる。
序盤AI研究ナニソレそれがどうしただ。
しかも対戦相手は一線級だらけで勝率も高い。
ひいてはヘンテコな振り飛車でファンを意図せずに楽しませてしまう。
誰も真似しようとしない振り飛車を確信を持って指し続ける。
こちらののほうがむしろ凄いことだ。

若い頃は「将棋星人」だったが、もう将棋星人とはいえまい。
佐藤康光九段には一風変わった振り飛車を指し続けてほしい。

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