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佐藤康光 vs 中井広恵の衝撃 04年、将棋NHK杯

もっとも女流棋士に立ち塞がってきた棋士は佐藤康光九段だ。
女流棋士のガラスの天井を支えているのは佐藤九段だといっていい。
昨今では、西山女流が朝日杯本戦入りをかけた大一番で、佐藤九段に洗礼を浴びたことが記憶に新しい。

だが、20年前に佐藤康光九段は、もっとえげつない形で女流棋士に立ち塞がったことがある。
その対局は、

2004/10/18  ○ 佐藤康光棋聖 vs 中井広恵女流二冠 (NHK杯)

本日はこのえげつない立ち塞がりかたを、少しだけ掘り下げて紹介しよう。


2003年 中井広恵、A級棋士を撃破 

話しを、まずは2003年まで遡ろう。
当時は、「まだまだ女流棋士の棋力は男にはまったく及ばない」、というのが定説だった。
確かに、女性では奨励会の入品者すらもいなかった時代だ。

だから、
例年恒例となっていたNHK杯への女流棋士参加枠も、客寄せパンダのような風情だった。
だが、この空気を一変させたのが、中井広恵女流だ。

2003年のNHK杯に出場した中井女流二冠は、1回戦で畠山慎六段に勝利。
これだって、たいへんにエポックメイキングな出来事だが紙幅の関係で先を急ごう。
続く2回戦は、A級棋士の青野照一九段が相手だ。

下馬評は、青野絶対勝勢。
なんたってA級棋士だ。 
奨励会の段にも上れない、そんな女流棋士にA級棋士は負けない。
そういった雰囲気が界隈では熟成されていた。

だが蓋を開けてみれば、中井広恵女流の快勝。
女流棋士がA級棋士に勝つという快挙をやってのけた。
しかも、これがNHK杯という目立つ舞台だったので、一気に人々の耳目を集めた。

しかし、このあと続く3回戦では中井女流が中原誠永世名人にウソのようにボロ負け……
このことを付記して2004年に入ろう。

2004年 タイトルホルダーを撃破…

さて、
佐藤康光九段が女流棋士に、えげつない立ち塞がり方をしたとイントロダクションで書いた2004年・NHK杯に舞台を移そう。

2003年にNHK杯でA級棋士を撃破するという偉業をなした中井女流はこの年も好調。
2004年も1回戦で佐藤秀志六段に勝利した。

こうなると、もうマグレとはいえない。
だから2回戦だって勝てるのでは、と憶測が広がりかけた。
しかし、なにぶん相手が悪かった。
2回戦の相手が、佐藤康光棋聖だったのだ。

当時、佐藤棋聖は34歳、油の乗り切った年齢であり、A級棋士であり、1秒間に1億と3手読めると云われており、変態と云われる前であり、なんといっても現役タイトルホルダーであり、とにかく強かった。

だから、中井広恵女流もここまでか、というのが大方の見方だった。
しかし2003年に引き続き、蓋をあけてみれば、大変なことが起こったのだ。  

難解な序・中盤戦を経て、中井優勢のまま終盤戦に突入。 

むかえた最終盤、中井、絶対優勢。

ここで非常に悔やまれる事象が起こる。
解説の先崎学九段が、「九分九厘、中井の勝ち」、と云ってしまったのだ。

当時、「フラグ」という言葉はなかったから、先崎学九段にも情状酌量の余地はあるが、いまではまずもって許されない言葉だろう。
だが、先崎九段の、「1厘ばかしの保険」、が生きる展開となるから不思議なものだ。

豪腕・佐藤康光誕生

大勢は、決した。 

最終盤、中井女流、絶対勝勢。 

ここから、佐藤棋聖も粘る、粘る、鬼の形相でねばる。
素人目にも、 
こりゃあ中井勝ちだとわかる局面だ。
もはや、投了を通り越したような局面だ。

だが惜しむらくは、中井広恵女流には時間がなかった。

そこにつけ込む、佐藤棋聖の変な手、それ読まんやろというスゴい手、道場のオッサンみたいなゴツイ手つき、ごまかしの一手…………………… 

ついに、大勢は、入れかわった。

最後は佐藤康光が中井広恵に、マルタを振り下ろし引導を渡した。

豪腕・佐藤康光誕生の瞬間でもある。

中井広恵女流の快挙

中井女流二冠はウソのように破れた。
佐藤棋聖は対局直後、 精魂尽き果てたカマキリみたいになっていたっけ。
年配のかたには、ホセ・メンドクサーといったほうがとおりが良いだろう。

2004/10/18  ○ 佐藤康光棋聖 vs 中井広恵女流二冠 (NHK杯)


女流棋士がガラスの天井を打ち破る戦いは、
ここから20年の星霜を経た2024年になっても、いまだ続いている。

だが、2004年のNHK杯で、中井広恵女流によってガラスの天井が破れかけたことを、ここにあらためて記し筆を置かせてもらおう。

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