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【社会環境部会コラム】社会と環境について思うこと(21)脱炭素社会に向けて (3)水素社会を考える

水素はどのようにして作られるのか

 二酸化炭素を出さない車ということで、世界的にもEV(電気自動車)の売り上げが伸びている。しかしながら、充電する電気が石炭や石油を燃やして作られたものであっては、発電段階で二酸化炭素をまき散らしており、全く意味がない。同様に、水素を燃やしても水しか生成せず、クリーンなエネルギーと言えるが、製造段階ではどうであろうか。トヨタでは燃料電池車(MIRAI)を販売し、水素社会の足掛かりをつかもうとしている。これらの水素はどこから来るのであろうか。

 水素には「グリーン水素」「グレー水素」「 ブルー水素」と呼ばれる3種類がある。太陽光・風力発電等の再エネ電気で水を電気分解して取り出したのが「グリーン水素」、化石燃料から改質・ガス化によって取り出したのが「グレー水素」で、製造工程で二酸化炭素が発生する。この二酸化炭素をCCS(二酸化炭素回収・貯留)技術と組み合わせたのが「ブルー水素」である。

 2021年10月に正式に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の中でも2030年の電源構成で石炭火力が19%も占める。海外からの批判に対し、水素やアンモニアを混焼させ、二酸化炭素排出量を減らす等の緩和策を提唱しているが、全く実効性のない言い訳である。元々、高効率な石炭火力発電でも二酸化炭素の発生量は、天然ガス発電の2倍もある。仮に、水素を20%混焼(約350億kWh分の電力)しようとすれば、254億㎥(230万トン)の水素が必要となる。これを水の電気分解で作ろうとすれば、必要となる電力は約900億kWhと計算される。これは、2030年に想定される総電力量の10%弱に相当する。まして、将来的には、石炭火力発電全体を水素やアンモニアで代替するような意見も聞かれるが、絵に描いた餅としか言いようがない。確かに、太陽光・風力発電で生ずる余剰電力を水素として貯めておくとのアイデアはあるが、貴重な「グリーン水素」は燃料電池車や合成燃料等の有効な使い方をすべきと思料する。

 また、「グリーン水素」「ブルー水素」を海外から輸入する動きも活発で、ENEOSや商社各社がオーストラリアやサウジアラビア等から水素を運ぶ計画はあるが、水素を液化するには、-253℃(LNGは-163℃)の極低温が必要なため経済的に不利とされており、トルエンの水素化でMCH(メチルシクロヘキサン)に転換し、タンカーで日本に運んでから消費地で水素を取り出すことが計画されている。日本では二酸化炭素を貯留するCCSの適地は少ないと言われているが、海外での天然ガス採掘跡地では比較的容易に貯留でき、ブルー水素の生産に適しているとされる。

水素価格は下がるのか

 水素価格は現行100円/N㎥であるが、経済産業省は2030年に30円/N㎥、2050年に20円/N㎥を目標にしている。しかも、2050年の水素需要量を2000万トン/年としている。現在、日本が輸入するLNG(液化天然ガス)は約7500万トンであることからして、いかに安く多量の水素を確保するか、戦略的構想を持つことが重要である。

 最近のニュースで、アラブ首長国連邦(UAE)が建設するギガソーラ(2GW)の電気は1.35米セント(1.8円)/kWhと報道された。この電気を使えば、20円/N㎥のグリーン水素も夢ではない。しかしながら、輸入・輸送コストをいかに下げるかが次なる課題となり、水素は付加価値の高い使い方に重点を絞ったビジョンを持つべきと考える。

(宮﨑誠)


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