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神職の手で染め上げられた生糸

「日本最古の染色材料」と言われる紅花。川越氷川神社では、神職が紅花を使い、生糸を染め上げました。その様子をご紹介いたします。


万葉集にも登場する紅花

日本に現存する最古の和歌集『万葉集』には、「紅・久禮奈為・呉藍(くれなゐ)」、「末摘花・末採花(すえつむはな)」の言葉を用いて紅花を詠んだ歌が34首登場します。

そのほとんどが、植物としての花の姿ではなく、紅花で染めた色や染料としての特性を踏まえた表現。それくらい、紅花は古くから染め物に使われ親しまれていたことがわかります。

当神社では、これまで数度にわたり神職が紅花染めを手掛けました。

紅花で生糸を染める大まかな流れ

紅花染めは、大まかに分けると以下のような流れになります。「糸の重さを計測し、必要な紅花の量を確認する」「花から染料を抽出する」「絹糸を染めて色素を定着させる」「水洗いして乾燥させる」。これらを順にご紹介していきます。

糸の重さを計測し、必要な紅花の量を確認

まずは染める糸の重さを計測し、使う紅花の量を決めます。糸の重量に対して2倍の花が必要です。

量った糸はお湯につけ、紅花はさらしの袋に入れて水につけます。

水につけている紅花(左)とお湯につけている生糸、どちらもつけ時間は最低2時間必要

花びらから染料を抽出する

次に、紅花から染料を抽出していきます。花びらには黄色色素と紅色色素が含まれているため黄色から紅色まで染めることができますが、 当神社では紅色色素のみを使います。

まずは紅花を入れた袋を水で30分〜1時間程度かけて揉み込んで、染料が抽出された液を作ります。

水で揉み込むと、黄色色素を含む抽出液ができる

この作業が終わったら袋をよく絞り、水を変えて再度30分〜1時間ほど揉み込みます。これらの作業で発生する抽出液は黄色色素のみが含まれます。この時は紅色色素で染めることが目的でしたので、この抽出液は使いませんでした。

揉み終わったら袋を絞り、中の紅花を新しいさらしで包む

黄色色素の後は、赤色色素を抽出します。赤色色素はアルカリ性のぬるま湯でよく抽出されるため、炭酸カリウムで水質調整した40度程度の湯を用意し、紅花が入った袋を1時間程度揉み込みます。

作業後は袋を絞り、再度用意したアルカリ性のぬるま湯で2回目の揉み込みを行います。

赤色色素はお湯で抽出。40度を超えると変色するため注意
揉み込みが終わったら袋を絞り、お湯で抽出した2回分の液をろ過する

不純物を取り除いた抽出液にクエン酸を入れ、中性から弱酸性に調整した染液を作ります。絹はアルカリ性に弱く、紅花の赤色色素は酸性で発色が安定するためです。

絹糸の染色と色素の定着

染色は、常温の染液につけて捌いて風に当てる、という作業を何度か繰り返します。その後同様の工程を、40度まで温度を上げた染液で行います。

糸を常温の染液に15分つけたら糸を絞って捌き、風に当てる作業を2回行う。最後は30分つける
前述の一連の作業を、40度に温度を上げた染液でも再度行う

よく絞った糸を少量の酢酸を入れた水につけることで、色素を糸に定着させます。

つける時間は30分ほど。途中で色むらが出ないように糸を返す

水洗いと乾燥

酢酸で色が定着した糸を軽く絞り、水洗いしてよく絞ったら、竿にかけて乾燥させます。

紫外線に弱いため、必ず日陰で1週間程度干す

この時染め上げた糸は、後日奉納いたしました。あと数年すれば、毎年当社の神職が栽培している紅花だけを使って埼玉県産の絹糸を染められる日が訪れるでしょう。その日が来るのを一同心待ちにしているところです。

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