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はじめまして、土屋和也さん

前回、4月初旬に彼からの返信をもらい、すぐさま便りを出したのだが、また、はたと途絶えてしまった。再び1ヶ月間、なんの音沙汰も無くなったのだ。

面倒なのだろうか、それとも自分の殻に閉じこもってしまったのだろうか。

外部との交流が少ないのはもちろん、独房がゆえ拘置所内での交流など無いに等しいはずだ。毎日3回、刑務官から届けられる食事の受け取り時に交わす挨拶くらいだろうか。

24時間、天井に設置された監視カメラに見つめられながら、孤独のときを過ごしているということは想像に難くない。

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拘置所内ー流れる時間

2016年4月に死刑が確定した伊藤和史(通称カズさん。過去の記事を参照されたい)さんから、拘置所内での過ごし方や処遇について再三聞いていた。

カズさんの場合は日々、作業をしていることが多かった。裁判が行なわれていた期間中は書類作成など、弁護人らとともに力を注いでいたため、それらの準備や支援者らの対応等で時間に追われるほどだったと記憶している。一日が短いと言っていたほどだ。

独房には時計がない。時間の確認は拘置所内で放送されるラジオのみでしか確認できない。17時のラジオが流れるまでずっと、作業をしていたこともしばしあったそうだ。

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面会に行く

土屋さんは拘置所の独房でどんな時を過ごしているんだろう。日々何を感じ、何を思い、何を生き甲斐にしているんだろう。支援者はいるのか、面会人はどんな人か、刑務官らと折り合い良くしてるのか、弁護人との信頼関係は築けているのだろうか、今の社会をどう見ているのか。そして、自身の犯した罪と、どう向き合っているのだろうか。

いろんな疑問が浮かび上がってきては、直接この疑問を投げかけたいという思いが、ふつふつと湧いてきた。

彼からすれば、見ず知らずの者が、いきなり手紙を送り交流を図ってくるという時点で、私に対して警戒心を持っていたに違いない。だからそこ、こちらとしても丁寧に対応すべきだったのは確かだろう。けれどもう、手紙の返信など待ってはいられなかった。

「会いにいこう」という一心で、私は拘置所に向かった。


面会 ー 東京拘置所

小菅駅に降りた。カズさんの死刑が確定して、交流が強制的に絶たれて以降、一年半ぶりとなる。

ホームを降り立つとまず重厚な建物が目につく。それが東京拘置所だ。

1つしかない改札口を出る。時が経っても人気のない、どんより重い空気が漂う小さな駅だということに、変わりなかった。

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面会 ー 差し入れ

拘置所内、一階には面会手続きの窓口の他に、待合広場や売店、飲料自動販売機等がある。私は面会許可が降りるまでの数分間で売店に入り、土屋さんの差し入れとしてキットカットを購入し、差入手続きを済ませた。

死刑囚への差入には厳しい検閲・検査が入る。殺傷能力の高いカッターやハサミなどは差し入れできない。

食べ物に関しても、拘置所が指定した物以外だと、受取拒否され、返却される。売店だと割高(私が購入したキットカットの袋詰めは500円)だが、土屋さんはチョコレートが好きだと聞いていたため、それを差し入れることにした。

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面会 ー 死刑囚は10階に居る

拘置所内、どういう振り分けか知らないが、死刑囚は10階にいるというのが私の認識だ。10階が最上階である。私はこの階にしか、足を踏み入れたことがない。ちなみに、死刑執行場は何階に位置するのか、もしくは別の建物にあるのか等、一般には情報公開されていない。見せないように、関心を持たれないように仕向けているのだろうか。死刑の是非の選択権は私たちに委ねられているにも関わらず、どこまでも密行主義なこの国に、改めて憤りを隠せない。

面会 ー 面会室

10階に上がると、面会室が10室ほど、横並びになっている。

窓口の刑務官に面会票を見せると、「一番」の標札の付いた面会室を指定された。

面会室に入る。深い闇が広がる迷路へと足を踏み入れるような感覚に陥った。始めてカズさんに会った時の感覚が蘇ってくるようだった。確かカズさんと面会をしていた時も、この一番の面会室に度々訪れていたのだ。

面会室の真ん中は透明の遮蔽板で仕切られ、向かい合わせに椅子が二、三つずつ並べられている。テレビドラマ等で見る、あの個室にイメージは近い。

まだ誰もいない。私が着席して初めて、死刑囚が入室してくるからだ。

私は一番左に腰をかけた。

遮蔽板の向こうには、死刑囚の座る椅子の他に、刑務官も座れるような配置になっている。私たちの会話を記録するためだ。

息を細く吸い、ぎゅっと唇を結んだ。心臓の鼓動が速くなっていくのを感じた。

すると向こうの扉から刑務官に連れられた男が入室してきた。男は私と向かい合わせになるように着席した。

会話の内容は、今は私の心だけに留めておきたい。

15分間という拘置所が定めた面会時間を終え、面会室を出た。

私が伺ったのは昼下がり、太陽が西に傾きかかった頃だった。個室を出て左を向くと、ずらりと面会室の白い扉が連なる。その一つ一つを西陽が優しく照らしていた。反射した光はどこか異様な輝きを放ち、私に迫ってくるようだった。その場にじっとしていられず、私はすぐエレベーターに駆け込み、拘置所を後にした。

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