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もし火事にあったなら、読んでほしい。

 誰にでもおきる可能性があります。あるサイトによると、住宅火災が起きる確率は、0.024%なんだそうです。確率はあくまで確率。火事の当事者になれば、その瞬間から人生が大転換します。何をしていいのか、まったくわからないほど混乱します。そして、助けになる情報はほとんどありません。だから僕の場合、何がどうだったのかをできる限り具体的に記しておきます。家はほぼ全焼でしたが、近隣への延焼はほぼなく死傷者もありませんでした。不幸中の幸いでした。

この記事を読んでくださった皆さんにお願いがあります。この記事の存在を、もしもの備えとして覚えておいてください。そして多くの人にこの記事を知らせてください。誰かの助けになることを願っています。

Day1 大混乱

 火事当日。家が燃えてます。大混乱のはじまりです。消化器があれば消してください。ただ火の回りは想像するより早いです。ウチの場合、119番をしている間に手が付けられないほど燃え広がりました。迅速な判断が必要です。自力で火を消せないと思ったら、すぐに逃げましょう。
 家からはほぼ何も持ち出せないでしょう。着の身着のまま、下手をすると裸足で逃げることになります。可能であれば、スマホと財布。この2つを確保しましょう。財布にはおそらく免許証、キャッシュカード、クレジットカードなど最低限の日常を支えるカードがはいっています。通帳や保険証書は再発行できます。なにはなくともスマホと財布。それさえあればなんとかなります。

 無事に逃げることができたあなたの目の前で、消火活動が目の前で繰り広げられます。我が家はペアガラスが入っていたこともあり、窓ガラスがバンバン音を立てて割れました。火の勢いは凄まじいです。出来ることは、隣家にも被害が行かないよう祈ることぐらいです。

 消化活動の傍ら、警察と消防の調査が始まります。出火原因はなにか、放火などの事件性はないかを調べるためです。聞き取り調査は、家族がいれば家族全員に及びます。初日はこれに追われます。
 火が落ち着くと、家の中に入ることを許されます。さっきまで過ごしていた家は、真っ黒な炭となり、まだくすぶっていたりもします。我が家は三階建てだったのですが、二階で出火し、二階三階は全焼、一階は消火活動による放水で水浸しでした。家中が燻製の匂いがして頭がクラクラします。
 この時に大切なことがあります。燃えた家の写真を撮っておきましょう。出火元、それぞれの部屋の被害状況、消火の放水で水浸しになってダメになった家具など、多めに撮っておきましょう。火災保険のほか、勤め先からお見舞金を請求するために必要になったりもします。

 消火活動の合間に、各所に連絡を忘れずに。まずは保険会社。しばらくはお世話になることになります。勤め先への連絡も必要です。半焼、そして全焼の場合、しばらくは会社を休んだ方がいいと思います。僕は3週間、お休みをいただきました。後述しますが「とりあえずの日常」を取り戻すまでには、早くて数週間はかかると考えてください。

 泊まるところがありません。一人暮らしなら友人の家に、家族なら親類縁者が近くにいればとりあえずそこに行きましょう。行政で何か用意があるところもあります。お住いの自治体の方が現場に来てくれることもあるので尋ねてみましょう。僕の場合は福祉課の方が来てくれました。公営住宅に空きがあれば貸してくれる場合もあります。僕の住んでいる区では、残念ながら公営住宅の用意はありませんでした。1人ならビジネスホテルなどに連泊するのも手かもしれませんが、うちは家族5人なので、ビジネスホテル連泊は経済的に無理だと判断しました。1部屋5000円でも5人家族であれば1日2万5千円、10日間で25万円にもなります。ウチは一時的に身を寄せる場所としてAirBnBで部屋を借りました。家族5人で1泊1万円ちょっと。ベットルームが4つ、ベッドは5つあり広さも十分でした。冷蔵庫、洗濯機、食器など一通りが揃っていてとても便利でした。ウチは仮住まいが決まるまで、2週間暮らしました。

 服も靴もありません。とりあえずのものを一揃い買いましょう。うちの子どもたちはスリッパで、息子は靴下で逃げているので、まずユニクロでダウンパーカーからロンT、ズボン、下着、靴下を一揃い買いました。そのあと靴屋さんで靴を買いました。

 ちなみに、数ヶ月暮らすことになる仮住まいに引っ越すまでは、荷物は増やさない方がいいです。ウチは家族が共有で使うものは別にして、それぞれが使うものは、ダンボール1つまでと決めました。そうでないと、物は無尽蔵に増え、引っ越しが大変になります。

 助けを求めましょう。火事は独力で解決するにはかなりの大事(おおごと)です。友人、知人、会社の同僚、親兄弟、誰でもいいです。信頼できる人の助けを求めましょう。火事になると、別に自分が悪くなくても負い目のようなものを感じ、人にいえずに閉じこもってしまいがちです。そうすると精神的にもしんどくなるとおもいます。だから誰かと話した方がいいです。

 ご飯を食べて早く寝ましょう。ものすごく疲れています。疲れていることが分からないくらい疲れています。明日からの生活の不安が押しよせてきます。目が冴えてしまうかもしれません。ご飯は作る気力は全くありませんでした。家族で近くのお店で外食しました。そしてワインを飲んで、友人と少しだけメッセージをやりとりして、それから泥のように寝ました。

Day2 躁状態

 2日目はテンションが高くて躁状態にあると思います。火事という現実を受容し、何かをしなきゃと考えを巡らせます。2日目になると、子どもの学校や友人知人たちの間で情報がシェアされ始め、救いの手が差し伸べられ始めます。友人は家族全員の服と靴を持って駆けつけてくれました。FUKKO DESIGNの仲間も駆けつけてくれ、これから再建へのプランの相談に乗り始めてくれました。この日、妹夫婦が食材を持参して夕食を作りにきてくれました。火事のあと初めてのちゃんとしたご飯でした。

 危機を処理するためのアドレナリンが出て、みんな割と元気だし、明るく、前向きです。しかし忘れてはいけません。いまあなたは未曾有の危機のただなかにいます。無理は禁物です。さっさと寝ましょう。

 いろんな手続きが必要になります。消防署での罹災証明書は早めにとったほうがいいです。火事になった者にとっては、通行手形みたいな物です。火災保険の申請、各種お見舞い金の申請、ゴミ処理や税金の減免などで必要です。初めて書くでしょうし、書き方で分からないことも出てくるので、僕は消防署で質問しながら書きました。また罹災証明書は、多めにもらっておきましょう。コピーでも大丈夫な場合もありますが、原本でないとダメな場合もありますので、想定よりも数部ほど多めにもらっておきましょう。

Day3 決壊

 疲れが出始めます。そして悲しみとか、無力感とか、来る人はどっと来ます。我慢せずに泣きましょう。愚痴を言いましょう。イライラがたまっていますが、家族の誰かを非難するようなことは絶対にやめましょう。みんな、パンパンになるまでがんばっています。だから他人に甘えられるだけ甘えて、家族のことを許容するバッファを残して置きましょう。

 体調の不良も出始めます。子どもたちは頭痛や腹痛などを訴えるようになりました。僕も珍しく偏頭痛みたいなものがこの頃からあったように思います。なのでかかりつけ医の方がいれば、常備薬をもらってきましょう

 近隣へのご挨拶をしましょう。火事は近隣に少なからずご迷惑をおかけします。延焼が例えなかったとしても、煙とか、消防の水とか、いろいろあるし、それから燃えた後も、煤の臭いが広がったりして、気づかぬご迷惑をかけていることがあります。そして必ず助けてもらうことにもなります。きちんとしておかないと、元の家に戻った時にギクシャクしちゃうこともあります。

 仮住まいを探しましょう。間違いなく、これが一番の大仕事です。燃えた家の修理をする間、数ヶ月間住むための仮住まいが必要です。職場とか、子どもたちの学校とか、これまでの日常を維持するには、なるべく元の家の近隣がよいですが、家族一緒に越せる場所となると、家賃などの条件はぐっと厳しくなります。僕は、仲間が友人知人に広く呼びかけ、複数の不動産屋さんにも照会をしてくれて、よい家をお借りすることができました。本当にありがたかったです。 

 カンパの窓口を作りましょう。家の復興には、先立つものが必要です。火災保険は助けにはなりますが、それで全てが賄えるわけではありません。火事見舞いをもらったらどこに預かるのかを決めましょう。銀行でも、郵便局でもいいので、口座を決めましょう。もし職場などで取りまとめをしてくれる人がいれば、その人に口座を教えましょう。そして面倒でも必ずお見舞いをくれた方のリストを作っておきましょう。落ち着いてから、お礼をするときに助けになります。

Day4 処理

  再建に向けてゴミの処理が必要になります。つまりは燃えてしまった家や家財の処理です。このゴミは自治体によって違いますが、多くの自治体ではゴミ処理の費用の減免があります。重さで引き取り価格が決まっているのですが、これが意外に馬鹿になりません。ウチは100万円以上の費用がかかると言われましたが、この減免制度のおかげで大部分を自治体が負担してくれました。またこのゴミの処理を自分たちでやるのはかなりの手間です。東京都の場合、処分場への持ち込みには様々なルールがあり、素人がやるにはハードルが高いです。最近では、専門の業者さんがいて、自治体の窓口の方が紹介してくれたりします。こうした処理費用も火災保険のメニューで賄えることがあります。確認してみてください。

 この頃になると、友人知人に広く知れるところとなり、支援の申し出が沢山きます。ただ中には、すでにいただいたモノだったり、衣料品など、サイズや趣味の合わない物もあります。感謝の気持ちを伝えた上で、キッパリ断った方がいいです。処理しなければいけないことも沢山ある中で、余分な手間を増やすのは、肉体的にも精神的にも負担になります。

Day5 再建

 再建の見積もりをしてもらいましょう。一戸建てなら、もともとお世話になった住宅メーカーや工務店などに、再建費用の見積もりを頼みましょう。マンションの場合は、やや複雑かもしれません。いずれにせよ、再建の見積もりが火災保険の支払いの算定に必要となります。

 証明書などの再発行の手続きをしましょう。健康保険証や、地域によっては子どもたちの医療証など。生活に必要な、特に医者にかかるときに必要なものは早めに申請しておきましょう。

 必要なものリストを作りましょう。何かしたいけど、と申し出くれる人たちがあなたの周りにも沢山いると思います。そんな人たちには具体的に頼んだほうがいいです。お皿、炊飯器、鞄、ランドセル、タオル、あなたが使ってきた生活必需品を失ってしまうのが火事です。自分だけで再建しようとは思わない方がいいです。困ったときはお互い様です。助けてくれる人にしっかりと甘えましょう。Amazonのウイッシュリストを作り、フェイスブックで友達限定で公開するのもいいと思います。人生最大のピンチなんです。しっかり助けてもらいましょう。

Day6以降 社会復帰までの道のり

 前にも書きましたが、仕事への復帰までには数週間かかると思った方がいいです。親類縁者やホテルなどで過ごすのは緊急避難です。なるべく条件の良い仮住まいを探して越しましょう。仮住まいと言っても数ヶ月単位で住む家ですし、子どもがいればなるべく転校をさせたくないとか、職場へのアクセスも考えなければなりません。予算もなるべく抑えないとです。一月20万円でも10ヶ月住めば200万円かかります。公営住宅などがあれば、予算も抑えられますし、友人知人から格安で借りるのも良いと思います。ただ数ヶ月単位で暮らすことになりますので、できるだけ間借りではなく、プライバシーがしっかりと確保できる家やアパートを借りましょう。

家族のことを最優先に。

 ここに書いたことは、すべて僕が経験した事実に基づいて書かれています。火事なんて人生で二度も三度も経験することではないです。つまりほとんどの人にとっては初めてのこと。予期せぬことが次々と起き、それが不安を大きくします。でも何が起きるのか、予想ができれば少しでも心やすく事態に対応できます。だから、もう一度書きますが、これを読んだらこの記事のことを覚えておいてください。そして火事に遭ったときに改めて読んでみてください。

 そして最後は、不幸にも火事にあってしまい、これを読んでいるあなた、そのあなたのためにだけに、一番大事なことを書きます。

 あなたは、今、未曾有の事態に直面しています。あなたも含め、家族の一人一人は思っている以上に傷ついています。だからどんなことがあっても家族のことを最優先に考えて行動してください。いつもより時間をかけ、いろんな話をしてください。辛いことも、楽しいことも、すべてを家族と共有してください。それが何よりの助けになるはずです。 

 今は辛いかも知れません。でも必ず沢山の人が助けてくれます。あなたのこれからの人生に沢山の笑顔がありますように。


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