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うがいをすると、黒い煤が混じっていた。

 火事にあったことを書いていけば、いつかきっと誰かの役に立つ。そう思って僕ら家族が体験したことを書き綴っています。

 あの日からすでに1ヶ月以上が過ぎました。その時に家にいたのは子どもたち、今でも話していると、ドキッとすることをいいます。一昨日、18歳の長男はこんな話をしてくれました。

「あの日、いろいろ落ち着いてさ、うがいをしたら黒い煤が混じってたんだ。鼻をかむとしばらく鼻水にも煤みたいなのが混じってたんだよ」

 あの日、火事になった家に最後までいたのは長男です。第一発見者は小3と小6の娘たち、彼女たちに呼ばれて火事に気づきました。まだこの時は腰丈ぐらいの炎だったそうです。すぐに消防車を呼ぼうとしたのですが、慌てて電話したのは110番。「事件ですか?事故ですか?」と聞かれ、「あ、こっちじゃない」とすぐに思い直し119番、状況を伝えたといいます。その間にも火は燃え広がり、あっというまにリビングに燃え広がっていきました。電話を切った長男は、鍋に水を汲んで火を消そうとする妹たちを制止し、逃げるようにいいました。上の娘はすぐに脱出したのですが、しかし下の娘は怖くなって上に逃げてしまいます。長男はその後追い、3階で彼女を見つけ、一瞬迷ったそうです。

さらに上に逃げて救助を待つか、煙の中を2階へと戻って玄関から脱出するか

 灰色の煙が立ち込め、ほとんど前は見えません。それでも長男は、妹の手を引いて2階へと戻りました。一面火の海となったリビングを尻目に、長男は妹を2階の玄関から逃しました。その後、途中で落としたiPhoneを拾い、彼自身は1階の洗面所から脱出しました。おそらくその間、5分にも満たないわずかな時間だったのだと思います。外にでると、家のガラスがバンバン音を立てて割れて、炎がその窓から吹き出すまでになったといいます。改めて火の回りの早さに驚きます。怪我ひとつなかったのは奇跡的だと、火事の後処理をしてくれた廃棄物撤去の業者さんから言われました。

 火事場が落ち着き、駅前のAirbnbに入ったのは夕方でした。そこでうがいをした長男、吐き出した水が煤で黒く濁っていたんだそうです。妹を連れ戻して脱出するまでの間に、煤が口の中に入り込んだんだと思います。それは鼻腔も同じで、数日間は鼻をかむと黒いものが混じっていたそうです。火事で煙に巻かれると、喉や鼻の粘膜を火傷することが多いということを聞きました。また別の人からは、炎よりも、煙に巻かれ、それが原因で亡くなる方のほうが多いのだと聞きました。息子は本当に間一髪だったんだなぁと思います。長男がいなければ妹はどうなっていたのか、わかりません。燃え広がる炎の中を引き返し妹を救助する、これがどれほど壮絶な経験だったのか、一昨日長男から話を聞き、改めて考えさせられました。

 本当に大変だったね。

 でも君のおかげで、今日もみんなで過ごせるよ。

 ありがとう。

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