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幡野さんとおさむさんと話したこと(無料記事)

 大人になると、誰かと話すのって、ちょっとめんどうだ。打ち合わせとかか、飲み会とか、いろんな理由を考えて人に会ったりする。
 そんな時に、ラジオはとても便利だ。お互いにいい「言い訳」になる。「渋谷のテレビ」を渋谷のラジオでやっていた時には、あーそろそろあの人と話がしたいなぁと思った人をゲストに呼んでいた。壇蜜さん、川村元気さん、鈴木敏夫さん、有働由美子さん、ヤマザキマリさん、燃え殻さんなど、いろんな人が遊びにきてくれた。

 そして先日、この2年間、ずっと会いたかった人とラジオで話した。

 カメラマンの幡野広志さん。心に刺さるエモーショナルな写真が大好きで、パルコの写真展にも足を運んだ。文章もとてもシャープだ。ことの本質をズバッと見抜く。2年前に火事で家から焼け出された時、しばらく本が全く読めなくなったのだが、幡野さんの「なんで僕に聞くんだろう」とワタナベアニさんの「ロバート・ツルッパゲとの対話」だけはなぜかサラサラと読めた。ゆえにこの2冊は表紙がボロボロだ。
 実は共通の友人が多くて、リアルでもご挨拶をしたことはあったけれど、しっかりとお話しする機会をなかなか持てずにいた。

 ラジオ番組は、鈴木おさむさんが毎週火曜にパーソナリティを務めているbayfmの「シン・ラジオ ヒューマニストはかく語りき」。ぼくは7月から月に1回、週替わりパートナーとして出演させていただいている。

 きっかけは、ぼくが9月9日の「シン・ラジオ」の放送中、おさむさんに、幡野さんの本「ラブレター」を紹介したことだった。34歳で多発性骨髄腫という血液のがんになり、余命3年という宣告を受けたところから始まるノンフィクションだ。
 その数日前、おさむさんは、たまたま小山薫堂さんのラジオに幡野さんが出演した回を聞いていて、おさむさんの中で何かがパチっと繋がった。こういう偶然ってすごいよね。そして、その日の「シン・ラジオ」では「ラブレター」の話でおさむさんと盛り上がり、あれよあれよと幡野さんをゲストに呼ぼうということになった。

 そして迎えた10月4日。生放送が始まる30分ほど前に、幕張のbayfmのスタジオロビーで幡野さんと再会した。マネージャーの小池花恵さんも一緒だ。

「まだちょっと痛いんですよね」
 
 幡野さんは笑いながら、お腹をさする。数日前に盲腸の手術を済ませたばかりだった幡野さん、でも顔色は良さそうだったのでほっとする。 

スタジオから見える幕張の海
ぼくの座り位置からのおさむさん
ぼくの座り位置からの幡野さん

 おさむさんとの生放送は、いつも構成はない。おさむさんが質問して、幡野さんが答える。そこで話が膨らみ、次の展開が見えてくる。

 誰かが重い病気になったとき、連絡をすべきかどうか。

 幡野さんはそっとしておいて欲しいと答えた。がんになったあと、携帯が鳴り止まなくて、ずっと使ってきた番号を解約したという。こういうことは当事者にしかいえない。

 病気になって写真が上手くなったか。

 上手くなったという答えを期待されていると思うのだけれど、と前置きをした上で、実際には病気になるということは身体が思うように動かなくなるので、よりよい画角のために自分が動いたりができなくなったりするので、技術的には確実に下手になっているのだという。落ちているが、写真は良くなってきていると幡野さんは答えた。 

 そのひとつひとつが誠実で、ああ幡野さんて、やっぱりすごいなと改めておもった。

 オンエア中におさむさんとぼくの写真を撮ってくれた。

放送中の副調

 放送開始から2時間がすぎた頃、おさむさんは、あるリスナーさんからの質問を読み上げた。ここではその内容はあえて割愛する。それは本当に難しい悩みだった。簡単に答えを出せるような問いではない。しかしスタッフはそれを選び、おさむさんもそれを選び、オンエア中に読み上げられた。幡野さんもぼくも、オンエア中に初めてそのリスナーさんからのメッセージを聞いた。幡野さんはそのメッセージの行間にあるものを感じ取り、きっぱりと答えた。おさむさんはそれを一旦引き取ってから、ぼくにも聞いてきた。すぱっと答えらなかったけれど、自分ならどうするかを考えてモゴモゴと答えた。幡野さんとおさむさんとぼくは、逡巡しながらも何かを伝えようと必死だった。何より悩みを勇気を振り絞って書いてきてくれたリスナーさんの少しでも役に立ちたかった。

 人生にはいろんなことが起きる。時間はもとには戻せない。それでもぼくらは生きていくのだ。

 ひとりのリスナーさんの人生についての深い悩み。幡野さんという存在を触媒にして、その悩みが「シン・ラジオ」というラジオ番組に寄せられ、スタッフ、そして出演しているぼくらは、その思いに一生懸命に寄り添おうとした。

 幡野さんとおさむさんと、そしてリスナーさんたちと、あの時間を共有できたことがぼくは何より嬉しかった。
 
 放送終了後、帰りがけにおさむさんが、しみじみとこういった。

 「あのメッセージを読んだ後、ぼくらがみんな困りながら、必死でなにかを伝えようとした。その姿がラジオで伝えられて、本当によかった」

 こういうのってビカビカしているテレビでは難しい。リスナーさんたちとの距離が近いラジオならではだ。

 ラジオのこの感じ、とってもいいよね。

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