初めて海外に行き、何も知らないことを知る
こんにちは。交通技術ライターの川辺謙一です。
私にとっての #忘れられない旅 は、就職直前に行った初めての海外一人旅です。
なぜか? それは、自分の価値観を大きく変える旅だったからです。
今回はその理由にふれます。「思い切って海外に飛び出すことで大きなものが得られることもある」という話として、みなさまにお楽しみいただけたら幸いです。
■「何かがわかった」と勘違いしていた
1996年2月に、1週間かけてイギリスとフランスを一人で旅しました。これは、私にとっての初めての海外旅行でした。
当時の私は20代半ばで、つかの間の休みを迎えていました。大学院で修士論文を書き、研究発表も終え、メーカーに就職するまで時間がありました。
この旅に出る直前まで、大きな勘違いをしていました。学業が一段落してちょっとした達成感を味わったせいか、以下のように感じ、「何かがわかった」ような気がしていたのです。
大学や大学院での研究活動を通して、複雑なパズルを解くような科学の面白さにふれ、あたかもその一端を少し理解できたかのように感じる。
英語の国際論文を読む訓練を受け、世界の研究者が競い合って成果を出している状況の一端を垣間見たので、わざわざ海外に行かなくてもある程度の情報が得られるかのように感じる。
これらはとんでもない錯覚であり、勘違いです。若気の至りですね。
これは、当時の時代背景も関係しています。私が初めて海外に行った1996年は、パソコンのOSとしてMicrosoft Windows 95が販売された翌年で、インターネットがようやく本格的に普及しはじめたころ。大学の研究室にあったパソコンはインターネットにつながっておらず、スマートフォンもありませんでした。つまり、今よりも明らかに情報の入手がむずかしい環境だったので、ちょっと学問の一端にふれただけで自分の知識を過信する「井の中の蛙」になりやすかったのです。
■ 思い切って海外に行ってみた
また、当時の私は「海外旅行」や「卒業旅行」というものにあまり関心がありませんでした。「お金がない学生がそんな旅行をするのはぜいたくだ」という思い込みがあったのです。
そのいっぽうで、「海外旅行に行くなら今のうち」とも思っていました。就職先の内定式で、人事課の社員が「いったん就職すると、なかなかプライベートで海外に行けないから、入社する前にどこでもいいから海外に行った方がいい」と言っていたからです。
そこで重い腰を上げ、初めての海外旅行に行くことにしました。
旅先としてイギリスとフランスを選んだのは、鉄道と絵が好きだったからです。私は、大学と大学院で工学を学んだいっぽうで、子供のころから鉄道や、絵を描くのが好きで、中学・高校では美術部に所属していました。
イギリスは鉄道発祥国とされる国、フランスは世界最速(当時)の営業列車(TGV)が走る国です。また、両国には、世界的に有名な博物館や美術館があります。さらに、両国の首都であるロンドンとパリは、英仏海峡トンネルを通る国際高速列車「ユーロスター」で移動できます。
つまり、自分の趣味をきっかけにして、初めての海外旅行に臨んだのです。
■「何も知らない」と気づいた
結論から言うと、この旅は私にとって驚きの連続でした。
現地では、鉄道を利用するだけでなく、ロンドンの大英博物館や交通博物館、パリのルーブル美術館やオルセー美術館など、さまざまな博物館や美術館をめぐりました。ロンドンでは、世界最古の地下鉄の駅(ベイカーストリート駅)を訪れ、開業当時(1863年)に描かれた絵と姿が変わっていないことを確かめました。パリでは、エッフェル塔や凱旋門の展望台に行き、整然とした街並みを見下ろしました。
その結果、「写真や映像でしか見たことがなかったものの実物が、いま目の前にある」ということに、くり返し驚きしました。
この体験によって、自分が知らなかった世界がとてつもなく広いことを知りました。同時に、自分が持っていた知識の浅さや、視野の狭さを自覚し、自分自身が本当にちっぽけな存在にすぎないことを認識しました。
つまり、自分が「何も知らない」ことに気づいたのです。
このことが、その後の私の人生に与えた影響は計り知れません。
■ 海外に行くなら若いうちに
現在は、この旅から30年近く経ち、54歳になりました。
結局私は、約9年間の会社員時代に一度も海外に行けませんでした。
このため私は、30代で独立してから、取材も兼ねて複数の国を旅してきました。フリーランスになり、時間を自由に使えるようになったからです。
今となっては「若いときに海外に行っておいてよかった」としみじみ感じます。
みなさんのなかには、「定年後に海外旅行に行きたい」と思っている方がいるかもしれませんが、私は「それでは遅すぎる」と考えます。なぜならば、年齢を重ねると体力が落ち、旅行を楽しむための余力が減ってしまうからです。
かくいう私は、50を過ぎてから、体力の低下を本格的に感じるようになりました。コロナ禍前の2019年にフランスに行ったときには、成田・パリ間の直行便(約12時間)を利用し、「そろそろエコノミークラスでのロングフライトは年齢的にキツくなったかな」と感じました。
このためみなさまには、できるだけ若いときに海外に行くことをおすすめします。
日本とは異なる環境に身を置くと、その後の人生を左右するような意外な発見があるかもしれませんよ。
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