五箇条の御誓文の話。
【写真】明治神宮境内看板
ごきげんよう。
本日４月６日は「五箇条の御誓文」が発せられた日。
(旧暦では3月14日)
なので、今回はこちらのお話をしようと思います。
「五箇条の御誓文」にまつわるお話
今から１５５年前、大政の奉還がなされ、
約700年続いた武家による政権は終結いたしました。
そして幕末の動乱の中、慶応3(1867)年12月9日に
「王政復古の大号令」が発せられ、
明治天皇を中心とした新政府が成立いたしました。
明治維新の基本理念は「神武創業」
明治天皇御親ら国民を率いて、
近代の新しい国造りを推進して行かれることとなりました。
大政奉還の2カ月後に「五箇条の御誓文」が公布され、
神武天皇御創業のはじめに基づいた、政治改革の遂行が宣言されました。
天神地祇御誓祭が斎行される
慶応4年3月14日(1868年4月6日)「天神地祇御誓祭」が執り行われ、
御年満16歳の明治天皇は公卿・諸侯以下諸役人を率いられまして
京都御所 紫宸殿に出御され、副総裁の三條實美公が、
御神前にて、新しき政治の基本方針の「五箇条」を奉読する形式にて、
天神地祇(天地の神々)に御誓いになられました。
その後国民に向けて、告諭・御誓文とあわせて公布されました。
【説明】
第121代 孝明天皇は慶応2年12月25日(1866年1月30日)に崩御(急逝)
慶応3年1月9日、第122代 明治天皇は御年満15歳で践祚
諒闇(りょうあん)の後、慶応4年1月15日に元服(成人式)
一連の儀式を経て、8月27日に京都御所にて即位の礼が執り行われたのち、
9月8日に元号は「明治」に改められました。(1868年10月23日)
(この時は、まだ改元・改暦されていないので旧暦で表記しています)
天神地祇とは
天地すべての神々のことで
「天つ神 (天神)、国つ神 (地祇) 」と申します。
【註】
神道では大昔より、事をなすときには、
最初に、神々様・御先祖様に御奉告を致してから行われます。
(事後の御奉告も致します)
こちらを「五箇条の御誓文」と申します。
【説明】
これからはじめる政治の基本方針を示した「五箇条」を天皇様が神々にお誓いした「御誓文」という意味です。
「五箇條の御誓文」全文
【五箇條の御誓文(文語体)】
( )内は現代語訳
一、広く会議を興し、万機公論に決すべし
(広く人材を求めて会議を行い、大切なことはすべて公正に議論をして決めましょう)
一、上下心を一にして、盛に経綸を行うべし
(身分の上下を問わず、心を一つにして積極的に国を治め整えましょう)
一、官武一途庶民に至るまで、おのおのその志を遂げ、人心をして倦ざらしめんことを要す
(文官や武官だけではなく一般の国民も、それぞれの志すところを達成できるように、人々に希望を失わせないようにすることが肝要です)
一、旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし
(これまでの悪い習慣は捨て、普遍的な道理に基づいて行いましょう)
一、智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし
(知識を世界に求め、国柄を大切にして、国を発展させましょう)
【告諭】
我国未曾有の変革を為さんとし、朕躬を以て衆に先んじ、天地神明に誓ひ、大いに斯国是を定め、万民保全の道を立んとす。衆亦此趣旨に基き協心努力せよ。
(わが国はいまだかつてない大変革を行おうとするにあたり、私はみずから天地の神々・先祖に誓い、重大な決意のもとに、この国の政治の基本方針を定め、国民の生活を安定させる大道を確立しようとしています。皆さんもこの趣旨に基づき、心を合わせて努力してください)
内閣公文書『五ケ條ノ御誓文』リンク
(リンク先 左上「閲覧」をクリックorタップ)
この「五箇条」は、原点・基本に立ち返ろうと、飛鳥時代・推古12(604)年に発布された「十七条憲法」の要素を抜き出しまして、家臣により起草されました。
(岩倉具視公が書いたのだろうという説もあります)
「十七条憲法」全条文
この「十七条憲法」は『日本書紀』に全条が記されております。
十七条憲法について説明がなされる際には、
「和をもって貴しとなす」の個所しか言われないことが多いので、
以下に全条文を抜粋いたします。
『日本書紀』巻第二十二
豊御食炊屋姫天皇 推古天皇十二年
夏四月の丙寅の朔戊辰(つちのえたつのひ)に、皇太子(聖徳太子)、親ら肇めて憲法十七條(いつくしきのり とおあまりななおち)
作りたまふ。
一に曰はく、和ぐを以て貴しとし、忤ふること無きを宗とせよ。人皆党有り。亦達る者少し。是を以て、或いは君父に順はず。乍隣里(さととなり)に違ふ。然れども、上和ぎ下睦びて、事を論ふに諧ふときは、事理自づからに通ふ。
何事か成らざらむ。
二に曰はく、篤く三宝を敬へ。三宝とは仏・法・僧なり。則ち※四生(よつのうまれ) の終帰(おわりのよりどころ)、万の国の極宗(きわめのむね) なり。何の世、何の人か、是の法を貴びずあらむ。人、尤 悪しきもの鮮し。能く教ふるをもて従ふ。其れ三宝に帰りまつらずは、何を以てか枉れるを直さむ。
【筆者註】
※四生とは仏教用語で「ししょう」と読む。
各生物の生まれ方から「胎生、卵生、湿生、化生」の４種に分類したもので「すべての生物」の意。
三に曰はく、詔(みことのり) を承(うけたまわ) りては必ず謹め。君をば天とす。臣(やつこらま)をば地とす。天は覆ひ地は載す。
四時 順ひ行ひて、万気(よろずのしるし)通ふこと得。
地、天を覆はむとするときは、壊るることを致さむ。
是を以て、君言たまふことをば臣(やつこらま) 承(うけたまわ)る。上行ふときは下靡く。故、詔(みことのり)を承(うけたまわ)りては必ず慎め。
謹まずは自づからに敗れなむ。
四に曰はく、群卿(まへつきみたち) 百寮(つかさつかさ)、
礼を以て本とせよ。其れ民(おおみたから)を治むるが本 、要ず礼に在り。上礼なきときは、下 斉(ととのほ)らず。下礼無きときは、必ず罪有り。
是を以て、群臣(まへつきみたち)礼有るときは、位の次 乱れず。百姓(おおみたから)礼有るときは、国家自づからに治る。
五に曰はく、饗(あじわいのむさぼり)を絶ち欲(たからのほしみ) することを棄てて、明に訴訟を弁めよ。其れ百姓の訟、一日に千事あり。一日すら尚爾るを、況や歳を累ねてをや。頃(このごろ) 訟(うったえ)を治むる者(ひとども)、利を得て常とし、賄(註:賄賂を贈ること)を見ては讞(ことわりもう)すを聴く。便ち財有るものが訟は、石をもて水に投ぐるが如し。乏しき者 の訟は、水をもて石に投ぐるに似たり。是を以て貧しき民(おおみたから)は、所由を知らず。臣(やつこらま)の道亦焉に闕けぬ。
六に曰はく、悪(あしきこと)を懲し善を勧むるは、古の良き典なり。
是を以て人の善を慝すこと无く、悪を見ては必ず匡せ。其れ諂ひ詐く者は、国家を覆す利き器(うつわもの) なり。人民を絶つ鋒き剣なり。亦侫み媚ぶる者、上に対ひては好みて下の過を説き、下に逢ひては上の失を誹謗る。其れ如此の人、皆君に忠(いさをしさ)无く、民に仁无し。是れ大きなる乱の本なり。
七に曰はく、人各任有り。
掌ること濫れざるべし。其れ賢哲官に任すときは、頌むる音則ち起る。奸しき者官を有つときは、禍乱(わざわいみだれ) 則ち繁し。世に生れながら知ること少し。尅く念ひて聖と作る。事に大きな少き無く、人を得て必ず治らむ。時に急き緩きこと無し。賢(さかしひと)に遇ひて自づからに寛なり。
此に因りて国家永久(あめのしたとこめづら)にして、社稷危からず。故、古の聖王、官の為に人を求めて、人の為に官を求めず。
八に曰はく、群卿百寮(まへつきみたちつかさつかさ)、早く朝りて晏く退でよ。公事(おおやけのわざ)監靡し。終日に尽し難し。是を以て、遅く朝るときは急きに逮ばず。早く退づるときは必ず事尽きず。
九(ここのつ)に曰はく、信は是義の本なり。事毎に信有るべし。其れ善悪成敗(よさあしさなりならぬこと)、要ず信に在り。君臣(まへつきみたち) 共に信あらば、何事か成らざらむ。群臣信无くは、万の事悉(ことごとく)に敗れむ。
十に曰はく、忿(こころのいかり)を絶ち瞋(おもえりのいかり)を棄て、人の違ふことを怒らざれ。人皆心有り。心各執れること有り。彼是すれば我は非す。
我必ず聖に非ず。彼必ず愚に非ず。
共に是凡夫ならくのみ。是く非き理、詎か能く定むべけむ。
相共に賢く愚なること、鐶(みみかね)の端无きが如し。是を以て、彼人瞋ると雖も、還りて我が失を恐れよ。我独り得たりと雖も、衆に従ひて同じく挙へ。
十一(とおあまりひとつ)に曰はく、功過を明に察て、賞(たまいもの)し罰ふること必ず当てよ。日者、賞は功に在きてせず。罰は罪に在きてせず。事を執れる群卿(まへつきみたち)、賞(たまひもの)し罰ふること明むべし。
十二(とおあまりふたつ)に曰はく、国司(くにのみこともち)・国造(くにのみやつこ)、百姓(おおみたから)に歛らざれ。国に二の君非ず。民{おおみたから)に両の主無し。率土の兆民(おおみたから)は、王を以て主とす。所任る官司(つかさみこともち)は、皆是れ王の臣(やつこらま)なり。何にぞ敢へて公と、百姓に賦斂らむ。
十三(とおあまりみつ)に曰はく、諸の官に任せる者、同じく職掌を知れ。或いは病し或は使として、事に闕ること有り。然れども知ること得る日には、和ふこと曾より識れるが如くにせよ。其れ与り聞きかずといふを以て、公の務(まつりごと) をな防 げぞ。
十四(とおあまりよつ)に曰はく、群卿百寮(まへつきみたちつかさつかさ)、嫉み妬むこと有ること無れ。我既に人を嫉むときは、人亦我を嫉む。嫉み妬む患、其の極を知らず。所以に、智己に勝るとき悦びず。才己れに優るときは嫉妬む。是を以て、五百にして乃今 賢(さかしひと)に遇ふ。千載にして一の聖 を待つこと難し。其れ賢聖(さかしひとひじり)を得ずは、何を以てか国を治めむ。
十五(とおあまりいつつ)に曰はく、私(わたくし)を背きて公に向 くは、是臣(やつこらま)が道なり。凡て人私有るときは、必ず恨有り、憾有るときは必ず同らず。同らざるときは私を以て公を妨ぐ。憾起るときは制に違ひ法を害る。
故、初の章に云へらく、上下和ひ諧れ、といへるは、其れ亦是の情なるかな。
十六(とおあまりむつ)に曰はく、民(おおみたから)を使ふに時を以てするは、古の良き典なり。故、冬の月には間有らば、以て民を使ふべし。春より秋に至るまでに、農桑(なりわいこがい)の節なり。民を使ふべからず。其れ農せずは何をか食はむ。桑せずば何をか服む。
十七(とおあまりななつ)に曰はく、夫れ事独り断むべからず。必ず衆と論ふべし。少き事は是軽し、必ずしも衆とすべからず。唯大きなる事を論ふに逮びては、若しは失有ることを疑ふ。故、衆と相弁ふるときは、辞則ち理を得。
(岩波書店、2010年4月、第16刷)
96～104ページより抜粋
【余談話】
本年は聖徳太子薨去から1400年にあたる年となります。
改元・改暦の話
この辺りの元号と暦はややこしい所がありますので話を整理します。
【元号について】
この頃は天皇一代の御代にて、改元される事はよくありました。
(孝明天皇の御代では７度の改元がなされました)
慶応4年9月8日(1868年10月23日)
元号は「明治」に改元され、明治元年となりました。
この時に「一世一元の詔」が発布されまして、一代の元号を１つと制定され、現在に至ります。
【暦について】
現在の日本の暦は「グレゴリオ暦(太陽暦)」が使われておりますが、
この頃は「太陰太陽暦」という独自の暦が使われていました。
明治5(1872)年になってから、
新暦として「太陽暦(グレゴリオ暦)」が採用されて、
改暦されました。
改暦にあたり、
グレゴリオ暦の1872年12月31日にあわせて、
太陰太陽暦は明治5年12月2日に終了。
翌日から明治6年1月1日(1873年1月1日)となり現在に至ります。
今年で改暦150年を迎えるとのことです。
今年は改暦150年の年です。日本では明治5年（1872年）に、それまで使用されていた太陰太陽暦（旧暦）をやめ、太陽暦に変更されました。旧暦と太陽暦、何が違う？をザックリと解説したので時間のある方は見てみてね。 pic.twitter.com/VglwCnylVm
— 暦会館【公式】 (@koyomikaikan) April 4, 2022
また、年数についても
「皇紀」という独自の年があります。
これは、神武天皇の御即位の年を「元年」と定めた日本の紀元のことで、
明治5(1872)年「太政官布告 第342号」により制定されました。
こちらを「神武天皇即位紀元」と申します。
通称といたしましては
「皇紀」「皇暦」
「神武暦」「神武紀元」などがございます。
こちらの「皇紀」は、昭和23(1948)年に廃止され、現在に至ります。
西暦から６６０年を足した年数が皇紀となります。
現在は、皇紀２６８２年。
【神武天皇祭の話】
最後に、神武創業にまつわるお話を致します。
この理念は、明治元年を迎えるにあたり突然出て来たお話しではなく、
当時の歴史的背景の流れで生み出されていきました。
寛政年間(1789～1801年)に入りますと、
国際情勢は大きく変動し、欧米の侵略によるアフリカ・アジアへの植民地化などが進みゆく中で、日本海への進出が相次いで起こっていきました。
この頃に御在位されていた第119代 光格天皇は、
欧米勢力による脅威が迫りつつある状況から
国柄にかかわる危機と捉えられまして、国家の安泰をお祈りなされまして、
宮中の御拝をより一層拡充なされました。その際に諸々の臨時祭の再興などを致されまして、御親も祭祀に勤 しまれました。
第121代 孝明天皇の御代の頃には、欧米の勢力は日本に殺到したため、
御親ら、国家安泰・国難克服の御祈願などの祭祀に勤しまれました。
また、当時皇室の衰微に伴って荒廃しておりました、
歴代天皇山稜の補修、祭祀の復興に着手なされました。
その中で、神武天皇陵の補修と神武天皇祭の制定がなされたこともあり、
この事が「神武創業」の理念を生み出してゆくことと相成りました。
「かしはら訪問ナビ」より
制定された神武天皇祭は、旧暦では3月11日、
現在は4月3日に執り行われております。
お話は以上となります。
ご拝読ありがとうございました。拝