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『郵便配達は二度ベルを鳴らす』/本・犯罪小説

街道沿いのレストランで働き始めた俺は、ギリシャ人店主の美しい妻コーラに心を奪われてしまった。やがていい仲になった彼女と共謀して店主殺害を計画するが……。一人称の語りの迫力、その裏に秘められた繊細さや社会性が注目され、近年「ノワール」の傑作として注目される20世紀アメリカ犯罪小説の金字塔!

 毎度おなじみ、『文学効能事典』から「無気力なとき」で紹介されていた本です。もはやどういう意図で紹介されていたのか覚えてないけど、とても面白かった! 
 映画が有名(なはず)なので、タイトルだけは知ってたけど、どういう話か一切知らなかった! サスペンスな展開でぐいぐい引っ張るし、面白すぎて眠れなくなりそうなので途中でいったん止めたくらいですよ。
 そういえば、光文社古典新訳文庫ってよさそうってイメージがずっとあったんだけど、恥ずかしながら(たぶん)読むの初めてです。訳もレイアウトもフォントも読みやすい……いい……。

 ところで、作中の時代設定がわからなかったぜ。なんとなく、まあまあ昔で、20世紀前半のアメリカ……ぐらいのふんわりイメージでした。
 書かれた時期からすると戦間期なのかな。

 ではあとはいつもの引用したり感想を添えたり。



・不倫までが速い! 10ページで出会って22ページで、昼ごろに知り合って翌日のランチタイムが終わった頃にはもう「噛んで! 噛んで!」
 よく見たら表紙の抽象的なイラストはアレだね、アレ。

・話の展開も速いんだけど、保険会社が関わってきたところまで読んで、こりゃこのまま読んだら夜更かしになっちゃう! と、いったん止めました。検事と弁護士のやり合いに巻き込まれて(というのかどうか)いくあたりもめちゃくちゃ面白かったので、ちゃんと寝ておいてよかったよ。


 穴に下ろされるギリシャ人を見ていたら、つい泣いてしまった。葬式で賛美歌を歌うとかならず涙が出る。故人のことを好きだった場合、たとえば俺にとってのギリシャ人みたいな場合となるとなおさらだ。式の最後に、ギリシャ人が何度も歌っていたのと同じ歌を全員で歌った。それが俺にとってのとどめの一撃になった。持ってきた花束をしきたりどおりに供えるだけでせいいっぱいだった。

p.155

・「自分で殺しておいて」なんだけども、共感を誘うシーン。カミュ(『異邦人』しか読んだことない!)っぽい……となんとなく思ったら、解説で影響を与えたと書いてあって納得した。
 解説でいうと、たしかにぜんぜんハードボイルドじゃないよね、フランク。訳者あとがきで「いまの感覚で読むと、過激という印象はまったくと言っていいほどない」(p.239)とあったけど、こういう感覚はずいぶん速く変わるもんなんだなあ。刺激は慣れやすいということかしら。

「破って、フランク! あの夜みたいに、めちゃくちゃに引き裂いて!」

p.162

・別に笑っちゃうこたあないんだけど、言いっぷりが激しくて笑っちゃう。こういう反応も刺激に慣れてしまっているということなのか。


 コーラは壁にもたれてまた笑いだした。たががはずれたみたいな笑い声だった。
「あの猫が生き返ったのよ! ヒューズボックスを踏みつけて死んだあの猫が、ほら、こうして戻ってきた! は、は、はははは! 笑っちゃう。あなた、よほど猫運が悪いのね」

p.197

・とはいえここのシーンなんかは奇妙な運命と凄みを感じて圧倒されたよね。

・ハードボイルドじゃない、ってことについて。フランクもコーラも(ついでに『異邦人』の主人公も)、わけわからん風だけどぜんぜん共感できるし、ウェットだし、ふつうに理解できる思考だし、愛情だし……って思うのもやっぱり現代の感覚なのかしらねえ。

・閉じかたがよかった。シンプルで余韻がある。

 迎えが来たようだ。マコーネル神父は、祈りは救いになると言う。ここまで読んだなら、最後にどうか俺のために祈ってくれないか。コーラのためにも。これから行く先がどこであろうと、俺たちが一緒になれるよう、どうか祈ってくれ。

p.218

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