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“まちと自分の関係値”を築いていく麻生区SDGs推進隊

未来の麻生区のまちづくりを担う小中学生を対象にメンバーを集めて結成された「麻生区SDGs推進隊」。SDGsについて学ぶだけでなく、企業への視察やイベント出展等を通じてローカルSDGsを自分ごととして体感し発信していく様子を、推進隊を運営する一般社団法人サステナブルマップ代表の今井雄也さんに伺いました。

一般社団法人サステナブルマップ 代表理事 今井雄也さん

男だから、女だから、子どもだから…は関係ない。自分の未来は自分の手で変えていく


——「麻生区SDGs推進隊」の活動内容と目的からお伺いします。

SDGsに関心のある麻生区在住の小学4年生から中学3年生までの子どもたちを募り、麻生区の資産を地図に落とし込む“サステナブルマップ”作りを中心に活動しています。

まちによって色々な資産があると思うのですが、それって“自分のまちの自慢”なんですよね。そういった場所を子どもたち自らが見つけたり、まちの企業や団体から教わって、それぞれが行っているSDGsの“点”の取り組みを“面”に広げていくのがサステナブルマップ作りです。

学校も年齢もバラバラの子たちが一緒に活動することで自分の学校以外のことに興味を持てますし、“まちに出掛けてみようかな”というきっかけが生まれます。もしかしたら出掛けた先の直売所に並んでいる野菜を見て“この辺りで採れた野菜なんだ。買ってみよう”とちょっとだけお金が動くかもしれない。そういった“まちと自分の関係値”をどんどん築いていくのが麻生区SDGs推進隊の目的です。

サステナブルな取り組みをしている企業や団体を探し出し、地図に印を付ける麻生区SDGs推進隊のメンバー
推進隊2期生が作製した麻生区のサステナブルマップ。各企業や団体が行っているSDGsの取り組みが一目で分かり、二次元バーコードを読み込むとそれぞれのホームページに繋がる

——企業への訪問も貴重な体験ですね。

伸和コントロールズさん(宇宙ステーション補給機搭載の小型回収カプセルに電磁弁が採用されるなど、世界的なモノづくりをしている企業)への訪問は、とても有意義でした。社内にオーガニックな社員食堂があって、動物性の食材を使わない“Meat Free“な食事を提供する“Meat Free Friday”という日を毎週金曜日に設けているそうなんですね。訪問させていただいた際に、大豆ミートのカレーとオーガニックな食材を使ったサラダとプリンをいただき、子どもたちも大喜びでした。訪問後に「宇宙に関わる仕事をしている会社が地元にあるんだったら僕もそこに入りたい!」と理科を猛勉強し始めたメンバーもいて、そういった気持ちの変化が嬉しかったです。

そして、空中写真からの地図量産化技術を世界で初めて実用化したアジア航測さんという会社が麻生区にはありまして、今度、測量に使う航空機の見学に行かせていただくことになりました。麻生区の会社の機体が日本中で活躍していることが分かると子どもたちも自分のまちのことがもっと好きになると思うので、とても楽しみですね。

脱炭素の問題と同じで、まちの持続を考えるには長期的な計画が必要だと思うんです。そういった意味でも、まちと子どもたちが良い関係性を築いていき、将来、この子たちが「ここに住み続けたい!」と言えるようなきっかけ作りができればいいなと思っています。

今回の撮影でお借りした「柿生の家 JINEN-DO(自然堂)」は、誰もが安心して暮らせる森のようなまちがテーマの“みんなの家”。麻生区にはこういったサステナブルな取り組みをしている企業や団体が多く存在する

——私も活動を一緒にしていて感じるのですが、子どもたちの可能性には本当に驚かされます。

大人の経験や価値観を子どもたちに伝えたところで役に立つかというと、そうではないと僕は思っていて。ポケベルで“アイシテル”と数字入力をしていた時代からPHSで通話ができるようになって、ガラケーが発売され、スマホが世の中に出てきた時の驚きったらなかったじゃないですか。

昔に比べて色々なモノの進化がはるかに速いし、子どもたちの情報処理能力も上がっている中、大人がやってきたことをそのまま子どもへトップダウンする考え方って本当に時代に合っているのかな? と思うんです。若い人たちの活躍の場がどんどん増えている今、大人という概念の中に子どもの活躍するフィールドを入れちゃいけないな、と。

“次の世代”とか“未来の主役たち”という言葉をよく聞きますけど、生きている時点でみんな主役だし、ひとりひとりがプレイヤーなんですよね。子どもだから、大人だから、お年寄りだからというアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を無くして物事の根底を覆していくような活動をしていくという信念は、僕自身ずっと持ち続けています。

こういった話題になると、いつも涙が出でくるんですけど(笑)、一緒に活動している子どもたちの表情がどんどん自信に満ちてくるのが分かるんですよ。我々が掲げている“子どもたちと地域の未来を創造する。”というキャッチコピーは、メンバーのひとりの言葉がきっかけでできたものなんです。その子は「自分に自信がなかったけど、推進隊として活動してきて自分の手で何でも変えられると分かった。男だから、女だから、子どもだからできないってことは、もう言わない」と。意図してなかったことなのですが、大事なことを教えられているのは僕のほうだと思います。

「子どもだから、大人だから、お年寄りだからというアンコンシャス・バイアスを無くしたい」と語る今井さん

——推進隊の声がきっかけで、川崎市の学校給食用牛乳のストローが廃止されたのにも驚きました(※1)。

この4月から川崎市立の学校給食の牛乳がストローレスパックに変更されたんですよね。きっかけは色々あると思いますが、その中のひとつが、推進隊を立ち上げる理由にもなった長女の言葉だと聞いています。

長女が小学生5年生の時に「給食で使うストローをなくしたい」と先生に言ったところ、前後の言葉はあったと思いますが、「行儀が悪い」と言われてしまって、家に帰ってくるなり「大人は車に乗ってるじゃん。地球に負担かけてるじゃん。なのに何で私たちだけ行儀が悪いって言われなきゃいけないの!?」と泣いていたんです。その姿を見て、学校単位ではなく地域全体を変えるという意味で、学校の枠を飛び越えて活動する麻生区SDGs推進隊を立ち上げることを決めました。

推進隊を立ち上げ、初年度の活動報告として行った昨年の「麻生区こどもSDGsフォーラム」で「給食のストローを廃止したい」と子どもたちが福田市長に直接提案したんですよ。そこから様々なきっかけが重なってストロー廃止が実現したとのことで、推進隊のみんなと喜びました。

麻生区長や企業の方々も参加した昨年度の「こどもSDGsフォーラム」

——まさに「自分の手で何でも変えられる」という言葉どおりですよね。夏には推進隊第3期メンバーの募集が始まりますが、今後の目標を教えてください。

まずひとつは、全国各地のサステナブルマップを作ることですね。昨年、茨城県の五霞町でサステナブルマップ作りをしまして、まちのSDGs探しを終えた子どもたちが「うちのまちってすごい!」と言い始め、それを聞いた大人の方々が「五霞町って最高!」と意識が替わったのを目の当たりにしました。皆さんの嬉しそうな顔を見て、少子高齢化が問題になっている地域や、消滅可能性都市と言われている自治体でもサステナブルマップを作ってみたいと思ったんです。マップ作りは、まちの資産を見直すきっかけにもなるし、こんなに素晴らしいことをしている企業や団体があるんだったら、ちょっと気にしてみようというきっかけ作りにもなります
。そういった意味でも、サステナブルマップ作りを全国に広めたいと思っています。

そして、推進隊を運営している一般社団法人サステナブルマップは、非営利ではありますが、資金は必要です。僕は子どもたちに「3年後には代表理事を辞めるから、あとはお願いね」と言っているんですよ。というのも、子どもたちが中心の活動なのに、おじさんがいつまでも代表でいるっておかしいじゃないですか。子どもたちが主役と言っているからには法人も子どもたちに任せたいので、彼らに引き継いだ時に資金をどこまで確保できているかというのが課題です。

今の世の中って成功すると妬まれるし、失敗すると潰される傾向にありますよね。“失敗しないための生き方”みたいなものを意識せずとも押し付けられて、その人本来のクリエイティビティが損なわれている気がするんです。出る杭を打つのではなく、その杭を「すごい!」と認めてあげる。その結果、自分たちで未来を切り開いていく強さを、1年後、2年後に彼らが見せてくれれば成功かな、と。“やってできないことはない”と彼らが心から思えた時に、この活動の本当の意味が分かるのではないかと思います。

※1 川崎市ホームページより「学校給食の牛乳をストローレスパックに変更します!


書いた人・佐藤季子
編集プロダクションを経て、音楽誌や演劇誌などエンタメ系の雑誌でライターとして活動。地元・川崎市では、麻生区の地域情報サイトロコっち新百合ヶ丘、小中学生で結成された麻生区SDGs推進隊(一般社団法人サステナブルマップ )の運営メンバーとして活動中。