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フラワーシンドローム 第三話 ポップコーンに隠れたサードキス【創作大賞2024 漫画原作部門】


■一話

■二話

■三話・本文


〇放課後・教室

ガヤガヤとした教室内。みんなが帰宅していく。

明人「すず、今日ここ寄らない?」
明人がすずにスマホを見せてくる。すずの好きそうなカフェ。

すず「ごめん、今日予定あるから! じゃ、ばいばい!」
急いだ様子のすず、カバンを肩にかけて教室を出て行く。

希実「振られちゃったねー」
明人「うるせー」

軽く笑う希実をふざけてどつく明人。横目では、出て行くすずをじっと見ていた。


〇駅のロータリー
そわそわした様子で待っているすず。

スマホの画面を見る。メッセージアプリに『今日はA駅集合で』と表示されている。

すず(何かあったのかな、先輩)
颯「おまたせ」

すずに影が出来て、見上げるとそこには私服でマスク姿の颯がいた。

すず(先輩、私服だ……!)

私服の颯はいつもに増してかっこよく、スタイリッシュできらきらと輝いている。

すず「どうして今日はここに集合だったんですか」颯「撮影だったから」
すず「そうだったんですね。お忙しいところすみません」
颯「ついでにデートも勉強しようと思って」

そう言って歩き始める颯をすずは慌てて追いかける。

すず「デートって、どういうことですか?」

颯を追いかけて隣に並び立つすず。

颯「恋を知るためにはデートも必要かと」
すず「大丈夫なんですか、外に出ても。綾野先輩の噂になったら」
颯「俺の知名度なんて外に出れば全然だから」

すず(でもすごいオーラがあるんだよなあ……。マスクしても隠し切れないオーラが)
あの人かっこいいね、とチラチラ見ている女性たち。

すず「ところで、どこに行くんですか?」
颯「一応あんま人いなくて……定番ぽいとこ」
すず(どこにいくんだろう?)
颯の隣を歩きながら、どきどきしている様子のすず。

〇さびれた映画館
上映映画中のポスターを真剣に見ている颯。
颯の様子をうかがっているすず。

すず「定番のデートって映画のことだったんですね」
颯「間違った?」
すず「多分、定番だとは思います」
すず(デートしたことないから、わかんないけど……!)

颯「漫画にも映画デートたくさんでてきた」
すず「読んでくれたんですか!」

嬉しそうな顔になるすず。

颯「うん。どれが見たい?」

映画のポスターを指さす颯。すずはポスターを見ながらうーんと悩む。

颯「見たいの、ない?」
すず「いえ、あるんですが……」

すずが控えめに指を指したのはベタな恋愛映画。

すず「先輩は嫌じゃないですか?」
颯「別に。勉強にもなりそう」
すず「本当ですか? 実はこれすっごく見たかったんですよ!」

ぱあっと顔を明るくするすずを興味深く見る颯。

颯「観るのは相手の好みも気にするのか」
すず「もちろんです、デートですから!」
颯「参考になった」

真面目に考えている颯を見て嬉しそうなすず。

すず(お役に立てたならよかった!)
すず「先輩、ポップコーン買ってもいいですか?私、デートでおっきいポップコーンバケツを半分こする夢があったんです!」

嬉しそうに飲食物売り場に向かうすずを、後ろから見つめる颯の表情は優しかった。


 〇映画館・シアターのなか

あまり人のいないシアターに二人並んで映画を見ている。
すず、わくわくした表情でスクリーンを見ている。
ポップコーンを食べようとして、颯と手が当たる。

すず「あ、すみません」
暗闇の中で、颯と目があってどきっとする様子。

すず(男の人と見る映画って、少し落ち着かないな……)
すず(恋人がいるってこんな感じなのかな)

そんなことを考えていたすずも映画に引き込まれていく。
ハラハラしたり、ニコニコしたり、映画を見ながら表情が変わるすずを見つめる颯。
クライマックスの感動の場面になり、泣けてくるすず。

しかしすずの瞳からこぼれるのは、涙ではなく花びらだった。
号泣しているすずの瞳からはたくさんの花びらが出てきてしまう。

すず(あ、涙が……!)
颯「すず」

小さな声で名前を呼ばれて驚くすず。
驚きつつも颯の方を向く。颯の顔が近づいてきて……
ポップコーンバケツで隠して、すずにキスをする颯。

すず「……え?」
颯「花びら大変なことになってたから」

涙が止まり固まるすずに、涼しい顔の颯。
颯は何もなかったようにそのままスクリーンを見ている。

すず(また不意打ち……! 今のは……ずるいよ)
すず(キス……ていうか、初めて名前呼ばれた)
すず(もう映画の内容が全然頭に入ってこなくなってしまった)

すず、動揺しながらスクリーンに向き直るけどドキドキしたままの表情。


〇夜の帰り道 

誰もいない住宅地を歩いている颯とすず。
すず(綾野先輩が送ってくれている)

隣を歩く颯の表情を盗み見するすず。

颯が「暗いから送ってく。送っていくのも勉強」と言っている一コマ回想。

すず(何かしゃべらなきゃと思うのに、言葉がなかなか出てこない)

すず落ち着かない様子で歩いている。

すず(でもこういうのも、漫画ではわからなかったきもちだな。ただ一緒に歩くだけでもドキドキしちゃうものなんだなあ)

すず「先輩、漫画持って帰ってくれたんですよね。どれが面白かったですか」
颯「出演するマーブルキスはかなり読み込んだ」
すず「先輩が演じる紺の気持ち、わかりました?」すずの問いかけに真剣に考え込む颯。

すず「私は紺派なんですよね。ずっとヒロインのことが大好きで、ずっとそばにいた幼馴染。
それが突然現れたヒーローにとられちゃうのは切ないです」

颯「早く行動しないのが悪い」
すず「なるほど。先輩はヒーローの新派でしたか」颯「そうかも」

すず(先輩は好きになったらすぐに行動するタイプなんだなあ)

いつか颯にも本当の恋人ができるのかと思うすず。

すず「紺は結構独占欲があるのも、読者としてはときめきポイントかもしれません!」
颯「独占欲?」
すず「執着みたいなものですかね。先輩はそういうものってありますか?」

颯じっくり考え込むが、

颯「……ない、かも」
すず「ふふ、でもまあ私も特にないかもしれません」

すず(いつか、運命の恋に落ちたら私も嫉妬とか、独占欲とか、できるのかな)

すず「あ、私そこのマンションなので。もうこのあたりで大丈夫ですよ」

マンションを指さして笑顔を作るすず。
電柱のしたで立ち止まり、颯に向き直る。

すず「こうして送ってもらうのも、結構ドキドキするということがわかりました!
先輩の言うとおり、体験するのも大事なんですね!」

笑顔を向けるすずをじっと見た颯は、すずの顎に手をかける。

すず「先輩、なにを」
颯「今日の分していないと思って」
すず「映画館で! しましたよ!」

映画館のキスを思い出して真っ赤になるすず。颯は「ああ」と思い当たりながらも、じりじりと寄ってくる。

すず「もう今日の分、しましたよね?」
颯「デートで送った後、キスするシーンもたくさん見た」

至極真面目な顔で言う颯。

すず「それは、そうかもしれないですけど……ほら、誰かいたら」
颯「誰もいない」
すず「まあ、それはそう……」

人の気配がない道路を見渡してみれば、すずのマンションの方から人影が向かってくるのが見えた。

すず「ほら、だれか……」
明人「……すず?」

向かってきたのはラフな格好をしている明人だった。明人はすずだということがわかるとスピードを速めて走ってきた。そしてすずから颯を引きはがす。

明人「おまえ、なにしてるんだよっ……!」

明人が怒りに震えながら颯を見る。無表情で明人を見る颯。
すず「明人、違う! 大丈夫!」
すずが焦って明人の腕をつかむ。

すず「綾野先輩は私を送ってくれただけだから」明人「今そんな感じじゃなかっただろ! ……って綾野、先輩?」

明人、颯のことをまじまじと確認する。
先日すずと同じ教室から出てきた男だと気付く。

明人「すず、何があった? 何かこいつに脅されてたりするのか」
すず「ちがうよ……! 失礼なこと言わないで」
明人「じゃあなんなんだよ」

いつもの優しい雰囲気は消えた明人は、すずの肩を掴んで怒っているからすずは戸惑う。

すず(私のアピスだなんて言えないし、なんて説明しよう……)

すず「綾野先輩は……」
颯「俺達の関係はあんたには関係ない」

すずの肩に置いた手をはがしながら颯が静かに言った。そのまますずを自分のもとに引き寄せる。

明人「はあ?」
颯「あんたにいろいろ言われる必要はない」
すず「……予定があって送ってくれただけだから!  明人が心配するようなことはなんもないし!」
明人「だってすず、今この人に襲われそうになってなかったか?」

明人は冷たい目で颯を睨む。

すず「気のせい。明人が遠くでよく見えなかっただけでしょ。本当にそんなことないから」

すず明るく明人に説明すると、颯に向かって頭を下げる。

すず「先輩せっかく送ってくださったのに私の幼馴染が勘違いしてすみません! 今日はありがとうございました、楽しかったです! また――」

颯「また、明日」

明日という言葉に明人が反応して問いただそうとするが、颯は背中を向けて進んでいく。

すず「明人心配してくれたんだよね、ありがとう。でも本当になんにもないから」
明人「あいつとどういう関係?」
すず「それは……言えない」

困った顔をするすずを訝しげに見る明人。

すず「とにかく! 脅されてるわけでもないし、私は何も嫌な思いもしてないから! 今はきかないで」

はっきりとしたすずの口調に颯は何も言えなくなる。

すず「ね、かえろ!」

笑顔を浮かべるすずに、明人も無理矢理笑顔を作ると「おう」とマンションに向かって進んでいった。

○帰り道 住宅地
ひとり歩いている颯。
その顔は明らかに不機嫌そうだった。


 

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