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第4回 コレクティブハウジングという新しい住まい方を知る

日本の住まい方への疑問を抱いていた僕は、ふとしたきっかけで一つの選択肢を知った。それが、コレクティブハウジングという新しい住まい方の形だ。ほとんどの方はご存知ないと思う。(主に建築のようなハード面を指す際は「ハウス」、住まい方とうソフト面を指す際は「ハウジング」と呼ぶことにする)

「コレクティブハウジング」とは、個人の自由やプライバシーを守りながら、生活の一部を共同化したり、空間や設備を共用化することにより、個人や小さな家族ではできない経済的で合理的な生活と、物理的・精神的に豊かで安らぎと楽しみのある住環境を、居住者自身の主体的な取り組みによってつくり育てていく暮らし方です。
多様な人々の心豊かな生活の場を築くとともに、地域コミュニティにも自発的に開かれ、地域社会再生の役割を担う可能性が期待されています。

「豊かな時が流れる日本のコレクティブハウジング」 NPOコレクティブハウジング社

空間とスキルをシェアする

コレクティブハウジングの発祥はスウェーデンと言われている。女性の社会進出に伴い、家事労働をシェアするという発想から生まれたらしい。偶然だが、僕がストックホルムで住んだ集合住宅も、その流れにあったものなのかもしれない。物理的な空間をシェアするのがシェアハウスとするなら、コレクティブハウスは、それだけでなく住人が一部の家事などのスキルも共有するのがユニークだ。さらに占有スペースにはバス・トイレ・キッチンがあり、普通の賃貸マンションと同様プライバシーが守られる。

集合住宅の管理システムの限界

ところで、近年分譲マンションの管理会社が契約継続を拒否する事例が増えている。管理人の人手不足に伴う管理費用の上昇により、管理会社の採算が厳しくなっているからだ。オーナーの管理費負担を増やせばいいのだが、様々な事情を抱える住民から、値上げの合意をうることは容易ではない(僕も管理組合の理事を何度もやったので、その難しさはよくわかる)。分譲マンションの管理組合も大きな権限を持つが、構成員はオーナーだけであり、住んでいる賃借人には発言権も投票権もない。賃貸使用の比率が高いマンションでは、所有者と居住者の利害が一致しないケースも多くなり矛盾が生じかねない。また、管理組合への参加も避けられる傾向にあり、どうしても委託する管理会社に丸投げになりがち。管理会社との力関係も変わりつつある。こうしたシステムは、もう限界になりつつあるのかもしれない。

住人自身が共同で自主管理する

コレクティブハウジングの大きな特徴は、住人全員で構成される居住者組合が共有スペースの管理運営を担うことにあるだろう。キッチンやリビング、ランドリーなどの共有スペースは、オーナーから居住者組合が一括で借り受ける(契約形態は様々ある)。したがって、共有スペースをどう使おうか、そこの什器備品の選択購入、使い方やメンテナンスのルール決めなども組合で決定し実行する。

そうなると、必然的に共有スペースの管理だけでなく、住まい方を自分たちで作り上げていくことになるだろう。いわば小さな会社のようでもあり、まさに主体的に参加するコミュニティだ。住人は、自分のできる範囲で何らかの役割を担うことになる。だから、スキルのシェアなのだ。ゆるやかにつながり、助け合うコミュニティ。

こうしたことを煩わしいと思う人もいるだろう。しかし一方で、自分たちが住む空間をできるだけ快適にしていきたいと考える人にとっては、賃貸住宅でありながらそれを実現する可能性が大いにあるのは望ましいのではないだろうか。

一般にこうした自主管理がなかなか広がらないのは、メンバーが対等に主体的に参加するコミュニティに対して、忌避感があるからなのかもしれない(住民自治会などもそう)。もしそうであるならば、社会が大きく変わりつつある現在、それを改める必要があるだろう。コレクティブハウジングとは、そのための仕組みも含んだ住まい方、暮らし方なのである。

住人のつながりと多様性が安心を生む

コストの問題でやむをえず集合住宅に住むのではなく、積極的に集合住宅にすむ理由となりうるのは、何かあった時の「安心感」と「助け合い」だと思う。「助け合い」とは、自分の持つスキルを皆と共有すること。スキルには、作業(調理とか)だけではなく時間の融通(子供のお迎えとか)やちょっとしたモノ(お醤油とか)や知識(生活の知恵やパソコンの使い方とか)なども含む。生活する上で有益なスキルには様々なものがある。住人の多様性が高ければ、それだけ「使える」スキルの幅も広がり、得られるメリットも大きくなるはず。そこがどうしても同質の住人が集まる社員寮やシェアハウスにはない、コレクティブハウス の効用だろう。自然災害への対応に留まらず、不確実性がますます高まるこれから、生活の「安全保障」という観点からも、住人同士がスキルを共有して協力し合うコレクティブハウジングはもっと広まっていいと思う。

プライバシーは確保した上で、スペース共有の効率性とスキル共有の効果性、二つのメリットを追求できる住まい方を提供できたらいいなあと思い描いた。そして、実際のコレクティブハウス への見学にも赴き、住人から直接話を伺った。今後もっと勉強するつもりだ。

なお、佐々木俊尚さんが書いている以下も参考になります。





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