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一線を越える 5

明るい、優しい風の吹く日のことです。
男の子が一人、道をあるいていました。
道はずっとつづく一本道で、道にそって土の壁がつづいています。

男の子は好奇心の強い性格でしたから、この土の壁の向こうには一体なにがあるのだろう?と、しりたくなりました。

男の子は土の壁を手でさわってみました。
サラッと少しの土がおちました。
土の壁にはへそのような、くぼみができました。

男の子はそのくぼみを足でけってみました。
ボトボトと土のかたまりがいくつもいくつもおちました。
土の壁にできたへそは、小さな穴になりました。

男の子は指でその小さな穴をつきました。
ズズズと奇妙な感触がして、指は土の壁をつきぬけました。

そのとたん、それまで明るかった空にサッと黒い雲がかかり、あたりは暗くなりました。
男の子は急に怖くなって、土の壁に突き刺したままの指をピッと引き抜きました。

土の壁には、真っ黒い穴がのこりました。

真っ黒い穴から真っ黒い水がジワッと染みでてきました。
それは傷口から血がにじみ出てきているかのようにみえました。
大変な事をしでかしてしまった。と、男の子はおもいました。
男の子の体はふるえました。
真っ黒い穴から視線をはずせません。
穴から何かとてつもないものが出てくるのではないか。と男の子はかんがえました。

真っ黒い穴から染みでている真っ黒い水は、少しづつ勢いを増してでてきました。
ポタッポタッ

真っ黒い水は流れ出る様にでてきました。
ボタボタボタ

これを止めなければ。と、男の子はおもいました。

これを、自分が、なんとかして、止めなければ。と、強くおもいました。

男の子は、自分の両手を真っ黒い穴へ持っていき、穴をおさえました。

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