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会議室で悲劇が決まった!?映画「ヒトラーのための虐殺会議」【ネタバレあり】

 5月4日に八丁座で映画「ヒトラーのための虐殺会議」を観て来ました。
 全編が会議、登場人物は軍人と役人がほとんど(一人だけ女性の秘書)と言う作品
 内容は人類史上最大の規模の虐殺となるユダヤ人虐殺を決定する会議と言う重苦しい作品
 しかし、思ったよりも見易い作品でしたね。
 この見易さはナチスドイツや第二次世界大戦についての観る前に知っているかどうかもあります。
 そうした事前の知識の有無と、会議の場面や、当時の雰囲気が楽しめるかで見る側の評価は分かれそうです。


悲劇は会議室で決まった



 舞台は1942年1月20日のベルリン西部にあるヴァン湖の湖畔にあるホテル
 ここでナチスドイツの高官達が集まり会議が開かれる。
 議題はヨーロッパに居る1100万人のユダヤ人を「最終解決」する事
 ナチスドイツの政権中枢に居る外務省や法務省・内務省などの高官に親衛隊の軍人は、ユダヤ人を虐殺する事を否定はしない。
 意見を言うのは万単位で運ばれてくるユダヤ人を何処が受け入れるか?輸送をどうするか?法律に照らしてどうなのか?と言う役人のやり取りが全編を占めます。
 時に1942年1月20日、作中でも触れていますがドイツにとって慌ただしい時期です。
 前年の1941年6月22日にドイツはソ連への侵攻を開始、12月8日には日本が太平洋戦争を開戦、ドイツは同盟によりアメリカへ宣戦布告します。
 ドイツの戦争が世界規模に拡大した時期です。
 しかも、ソ連との戦争はモスクワ攻略に失敗した頃です。なので「東部戦線の話はよくない」と言う台詞があるのです。
 戦争が激化する時期にユダヤ人問題を「最終解決」する事をホテルの会議室で決めたと言うのが本作の内容だ。

人道的な反対ではなく



 会議の中でユダヤ人の強制収容について反対する意見が役人側から出ます。
 それはドイツ国籍のユダヤ人と、熟練工のユダヤ人です。
 反対の理由はドイツ国籍のユダヤ人はドイツ人が身内の者が多く、ドイツ人もといドイツ国民が動揺する。また嘆願が来ているなど役所の事情も絡む反対です。
 熟練工のユダヤ人収容は戦時の工業生産に影響する為、しかも国家元帥ゲーリングからの要望でもあると強調します。
 会議で出る反対はあくまでも戦争遂行への影響や管轄・利権の中での不都合によるところで、人道的にユダヤ人を助けるべきとは誰も言いません。
 ユダヤ人への最終解決をしない方が良いと言う意見も出て来ますが、圧迫される鉄道輸送や、収容したユダヤ人を管理する負担が増えるからであり、人道的観点はありません。
 作中では「戦争に勝ってから行うべき」とユダヤ人への最終解決について反対は言っていません。
 この映画ではユダヤ人が登場する場面はありません。
 逆にそれが会議に出席している高官達がいかに、見えない存在を物として扱っているかを示していると思います。
 またそれは、見ている側にも共感させる為でしょう。
 音楽は無く、派手な演出も無く、会議室以外の描写は無い。
 数字としては見えているユダヤ人
 会議はただその数字をどう片付けるか、担当者をどう納得させるかで進む。
 1100万人の運命が、役所的に民間企業でも見られるような普通の会議で決められた。それが記録として残り、この映画で再現されている。
 組織や当時の空気に、見えない(自分には無関係)対象に対していかに非道な決定に賛同できるかが、この映画のテーマなのかもしれない。

登場人物について



 このヴァンゼー会議の主催者はラインハルト・ハイドリヒである。
 ハイドリヒは親衛隊の諜報や治安の任務にあたる国家保安本部の大将です。
 しかも親衛隊の長官であり、警察を統括するハインリッヒ・ヒムラーに次ぐ親衛隊の権力者だ。
 劇中、ハイドリヒに意見する役人を見て驚くものです。それともナチス政権の高官だと親衛隊にビビっては務まらないのかもしれない。
 それに加えて、ハイドリヒは親衛隊や警察の権力を振りかざす事無く、役人の意見を聞いて丁寧に答えている。
 終始ハイドリヒは、出席する役人達を宥めながら会議を進行させているのが印象深い。
 ハイドリヒはヴァンゼー会議から半年後に暗殺されて亡くなる。
 この作品で注目したい人物は会議で説明役となったアドルフ・アイヒマン親衛隊中佐だろう。
 作中では秘書のヴェーレマンに気を遣い、会議の補佐役を務める有能な人物で描かれている。そんなアイヒマンは歴史に残る人物だ。
 1961年にイスラエルで開かれた、いわゆるイヒマン裁判の被告人になった人物である。
 戦後はアルゼンチンに潜伏していたアイヒマンであったが、イスラエルの情報機関モサドによって連行された。
 イスラエルの裁判ではユダヤ人虐殺に関与した事などの罪で裁かれ、死刑判決を受けた。
 アイヒマンが捕まった時に、ナチスにどんな心理状態で服従したのかが研究対象となった。
これが後にアイヒマンテストやミルグラム実験と言う人間の心理状態についての研究や実験へと発展する。それはスタンフォード監獄実験にも繋がって行く。

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