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自衛隊能登半島災害派遣「逐次投入」の批判はどう的ハズレか

 石川県能登半島の震災において、自衛隊の災害派遣が逐次投入であったかどうかがまだ報道でも取り上げられている。
 この逐次投入については、おおむね「逐次投入で良い」と言う論調になっています。
 今回は逐次投入が何がいけないのか?
 災害派遣で逐次投入で良い事を書いていきます。

逐次投入が悪い点



 逐次投入とは、大雑把に言えば戦力や人員をバラバラに送り込む事です。
 この逐次投入が悪い効果となってしまうのが戦場です。
 例えば、1000人が守る拠点を攻略する場合
 攻める方が到着した戦力である200人や300人を次々に投入します。
 1000人が守る拠点へ200人や300人を個別にぶつけても勝てません。
 この攻める側のやり方が悪い逐次投入です。

 戦力をまとめず、ある分だけ投入するのが悪い部分です。
 先の想定した状況では攻める側は500人でまとまり、後続する部隊の到着を待って1000人か1000人以上になってから攻めるのが良いです。
 戦場での逐次投入が悪いのは、敵へぶつけた戦力が消えてしまう事です。人員の死傷や装備の喪失で戦力として無力化されてしまうのです。
 

逐次投入の良い点



 先に書いた逐次投入の悪い点
 戦力差により戦闘で負け、更には戦力を失う。
 これが災害派遣では全く逆の意味となる。
 まず、被災地で部隊が人員や装備を失う事がない。
 事故で隊員の負傷や装備が破損する事はあるにしても、部隊が全滅するような事はありません。
 後続部隊や応援の部隊が次々に到着するので被災地への部隊は増えます。
 被災地での逐次投入には良い点があります。
 被災した直後の時期では被災地の道路状況をはじめ、現地の状況はわかりません。

 まずは規模部隊の大きくない部隊で現地入りし、通れる経路や二次被害の危険がある場所を特定し、現地で必要とされる任務を把握する。
 そうして現地の状況を把握した先着部隊が後続部隊に状況を伝え、事前に決めていた任務を後続部隊に与えて、他の組織や自治体などと連携して被災地の任務を拡大させる。
 部隊は減る事無く、増える。
 災害派遣では、現地の状況把握や自衛隊以外との連携の確立をする。逐次投入はそうした用意をするには適しています。
 

逐次投入か、一度に大規模投入か



 自衛隊の災害派遣でまず期待されるのは、救難隊のような専門部隊による難所の救助や、一般部隊が大人数を使って広範囲の救助であると思われます。
 こうした望みから、一度に多くの自衛隊を投入するべきだと言う意見があります。
 確かに大規模部隊があれば、出来る事は多い。
 しかしそれは拠点と部隊が被災地に近くであれば可能です。

 2016年の熊本震災では、震災発生直後から自衛隊は1万人規模を投入しました。
 それを可能としたのは被災地が熊本県の中部であった事だ。
 熊本県中部には熊本市に九州と沖縄の防衛を指揮する司令部、西部方面総監部(熊本市健軍駐屯地)があります。
 また熊本市には北熊本駐屯地があり、第8師団司令部と歩兵部隊である普通科連隊をはじめ後方支援部隊などが居たこと、健軍駐屯地も方面隊の支援部隊や通信隊などがあります。
 熊本震災での災害派遣は被災地のすぐ近くに2つの陸自駐屯地があり、指揮できる司令部が現地にあり、初動が動きやすい環境にありました。
 何より、2つの駐屯地が応援部隊の受け入れや補給の拠点として活用できたのも利点としてありました。

 今回の能登半島では、能登半島の自衛隊拠点はレーダーサイトである航空自衛隊の輪島分屯地しかありません。
 レーダーサイトには、陸自のような外でも活動できる部隊は無い事や応援部隊を受け入れるように大きく作られてはいません。
 拠点から離れ、交通が難しい被災地への派遣は現地入りするだけでも大変です。
 そうした意味では能登半島震災における自衛隊派遣は一度に多くを投入しづらい環境にありました。
 被災地の地域における自衛隊の立地状況とどんな部隊が駐屯しているかにより、逐次投入か一度に大規模投入できるか違ってきます。
 一様では無い災害の状況は一つの固まった方法だけでは対応できません。
 
 救助は消防や警察・海上保安庁も行います。
 電力や水道・道路の復旧は民間企業
 医療は民間の医療機関がDMAT(災害派遣医療チーム)を送り
 もはや災害対応は自衛隊よりも、官民の総合力をいかに投入できるかになっています。 
 自衛隊がどう投入されたかを追求するのは的外れと言えます。

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