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「優秀だけど指示待ち」な理由

ある経営陣の思い出話

以前、ある日本企業のコンサルティングに携わっていた時の話です。ある日のこと、クライアントのオフィスを訪れ、50代の役員2名と40代後半の企画部長を交えて、会社が将来に向けて目指す姿についてディスカッションをしてた時のことです。議論は盛り上がり、一定の成果が得られた後で、会話は徐々に元のテーマから外れて脱線していったのです。

コンサルティングをしていると、そうやって話が大きく逸れていくことは日常茶飯事ですし、その日の目的としては、ある種そのような脱線も想定内、ある意味で狙い通りでもあったので、しばらくの間、興味深く彼らの話を聞いてみることにしました。

その時期は、新入社員が入社したばかりの月だったこともあり、1人の役員が「最近、当社にはトップレベルの有名大学から続々と新人が入ってくる」と満足げに話し始めました。そして、他の2名に向かって「今の自分たちが学生だったら、絶対にこの会社には入れないだろうな」と、半分冗談のように言ったのです。

その場の3名は全員出世コースに乗ったエリートだったため、その言葉自体はもちろん軽い冗談だったわけですが、確かにその企業は、20年前と比べて実績と知名度の両面で大きな躍進を遂げた企業でした。つまり、その冗談の裏に、世間から高い評価を受けるようになった自社に対する誇りや、自社がその地位に至るまでの時代を最前線で引っ張ってきたことへの自負が強く感じられたのです。

そして、別の役員が「昔の自分たちは、学生時代には遊んでばかりだったし、今の新入社員たちのようなスキルや知識はなかった。だけど、それでも上司や先輩に厳しい指導を受けながら取引先と激しい交渉をしたり、言葉も通じないような海外で奮闘したり、当時はめちゃくちゃだと思ったけど、今思うと、今よりずっと楽しかったかもしれない」と、過去の武勇伝を語り始めます。ありがちな話ですが、残りの2人も同調し、しばらくの間、笑いの溢れる明るい思い出話が盛り上がったのです。


優等生だけど、物足りない

しかし、ある瞬間から、会話のトーンが変わっていきます。1人が「ところでさっきの話だけど、確かに、最近の若い社員は真面目で、お願いしたことはきっちりこなしてくれるけど、昔の自分たちのことを思い出すと、優等生過ぎて物足りないと感じる時もある」と言い出したのです。

すると他の2人からも、「確かに、何でも俺の意見に合わせようとしてくるし、たまには自分のやりたいようにやってみれば良いのに、上司に気を使い過ぎだよ」とか、「せっかく色々と勉強しているのに、結局は上司の指示通り、みたいな社員も多いですよね」といった発言が出てきたのです。そして最終的には、「最近の若手は優秀な優等生だけど、指示待ち気味で物足りない」という結論に落ち着きました。

もし、若手が本当に、経営層に「物足りなさ」を感じさせているのだとすると、その状況は一体どこからきているのでしょうか。


育った時代の背景と世代間のギャップ

今や、教科書に載るような「歴史上の出来事」になってしまっていますが、日本はかつて、世界を驚かせる高度経済成長を遂げ、1990年頃にはバブル景気を経験しています。

先ほど出てきた50代の経営層は、そのような時代を実際に体感していますし、日本企業が競争力のある製品を持って世界に進出していった時に、若手の社会人として最前線で経験を積み重ねてきた人たちです。

一方で、現代の20代や30代の若手にとっては、そのような時代は単に「教科書で見た、歴史上の出来事」に過ぎません。自分達にとっての日本は、2000年以降の長期的な経済停滞時代の日本なのです。そしてその若手は、成長著しい新興企業や外資系企業に入ったような人を例外とすると、社会人になった後も、企業の輝きを取り戻すことではなく、ひたすら効率性を追求することを経験させられてきた人たちなのです。

このように、経営層と新世代の間で、育った環境は大きく違います。それは双方の仕事に対するアプローチやメンタリティの違いを生みますし、たまたま一方から見ると、それが「物足りなさ」という感覚に繋がってしまうことがあるのです。

さらに、古くからある伝統的大企業の場合には、日本の伝統的な終身雇用制度のもとでは、企業の成長が止まると、企業の中で必要以上に経営層や管理職のポジションが増えてしまいがちです。いわば、企業の中における少子高齢化の進行と言えるかもしれません。その結果、管理スパンが短くなると、それまでは経営層や管理職にとって難しかった個々の日常業務への関与が「できてしまう」状態になることがあるのです。

若手の「指示待ち」には、構造的な要因がある場合が多い

最近では、企業として「若手に裁量を与え、早いうちから才能を伸ばす」という方針を定めている場合も多いです。しかし、形式的には若手に裁量を与えているつもりでも、経営層や管理職が日常業務に関与「できてしまう」場合には、上司が我慢できずに細かく口出しをしてしまっていることも少なくありません。結果として、若手は「どうせ後で細かく指示して直されるだろう」と考えるようになります。そうなると、最初から上司の意見を細かく聞いておこうと考え始めますし、極端な場合には指示待ちになってしまうこともあるのです。


結論:優秀な若手を活かそう

現代の若手が本当に指示待ちかどうかという点については議論の余地があると思いますが、一方で先ほど紹介した会話の中でも出てきた通り、少なくとも優秀な人は多いと思います。一昔前と違って、大学時代にしっかり勉強していますし、学生のうちからインターンを通じて社会経験を積んでいる人も多いです。プログラミングやAIなどの専門技術に優れている人もいますし、語学力に秀でた人の割合も大きく高まっています。また、総じて真面目で努力家な人も多いと思います。

だからこそ、経営陣としては、自分達が育った昔と現代では育ってきた社会環境が異なることを理解し、仕事に対するアプローチやメンタリティも違うことを考えた上で、優秀な若者を活かすためにはどうすれば良いのかを考えることがとても大切だと思います。

私がコンサルティングを通じて数多くの企業と接していると、本記事で述べたような経営層と若手の間での世代間ギャップや、経営陣から見た時の「優秀だけど物足りない」という感覚は、大きな日本企業の中では一定量存在しているように感じます。しかし、それを認識した上で、どの程度、若手の主体性を引き出し、うまく活かせているのかについては、企業の間でかなり差がついているように思います。

もし、あなたの企業において、本記事で述べたような問題が感じられるようであれば、上記にてお伝えしたようなことを踏まえ、どうやってもっと多くの若手を活かしていくのかを考えてみると良いと思います。

違いを理解した上で、優秀な若者を 活かす方法を考えることが大切

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