「漢文」「古文」の指導法
私は中学・高校の国語で「漢文」を習い、予備校でも「漢文」の授業を受けました(ちなみに、予備校の漢文の講師は中国・明清史の研究者の岡野昌子先生であったことは後に知りました)。でも模擬試験では全然、ダメでした。
それでも大学に入り、中国史を専攻すると、目が点に。そうです。大学での「漢文史料読解」のトレーニングは、ひたすら「一」「二」「レ」点はおろか、「、」「。」もない、いわゆる「白文」を相手に、漢和辞典を引きながら読むことだけです。明けても暮れても。「演習」という授業になれに加えて「出典調べ」が必要になります。まさに文字との格闘です。
その他に「素読」というトレーニングがあります。これは公家の学問所、江戸時代の寺子屋や大名の学問所などで行われていたトレーニング方法で、論語、孟子、史記、漢書、三国志、資治通鑑などの有名どころの大意が分かっている漢籍を、意味を深く考えずにとにかく声に出してひたすら読み進めていく方法です。意味を深く考えないのは、平たい文章は「このように読まなければならない」という箇所が多いのでそれを徹底的に体にしみこませるためです。先生は聞いているだけですが、本人が分かっているのかどうかは、読むときのリズム感ですぐに分かります。ある程度読めてくると、難解な部分が出てきても「ここはこのようにしか読めないだろう」という勘が働くようになってきます。それにこれをやり通せば相当な「読書量」になります。
私の漢文トレーニングは上記の二点でした。英文を何度も音読する勉強法と、根本は同じです。
ちなみに私は古文も苦手だったので、大学受験の時に見るに見かねた父親が家で特講を行いましたが、その際のトレーニング方法は問題集などではなく、岩波古典文学大系「堤中納言物語」を使った徹底的な「読み込み」でした。
私の教員免許は「高校社会」ですが、かつて予備校で個人的に「漢文」を教えたことがありました。センター試験漢文が50点配点で5点とれるかどうかだということを聞き、漢文はうまく勉強すれば45点はいつもとれるようになり、国語で45点の基礎点をもらうようなものだと言って、その気にさせ、11月~12月の間だけ、空き教室で相手をしました。やり方は私が父や大学から手ほどきを受けた方法と、予備校の英語の授業で得た学習法(何度も読む方法)そのままです。
使ったテキストはセンター試験の赤本です。本文を5回音読させました。ひと区切りのたびに訳を確認し、2巡目以降は訳を念頭に置きながらとにかく読ませました。5回目には「え~、また??」という顔をしていましたが。
翌週には前回の本文を通読し、新たな回の本文をまた同じ方法で読ませました。5年分を5回ずつ(復習を含めれば10回ずつ)音読すれば相当な練習量になります。
やがて年末のセンター模試では40点以上取れたと喜んでいました。足りない分は最後の問題によくある本文解釈なので、そこは自分でなんとかしろということにしました。
思うに、中学校~高校や予備校で古文や漢文を習っても多くの人がちんぷんかんぷんなのは、中学校~高校までの漢文の授業は語法を細かく扱いすぎ、予備校では入試問題の解説に重点が置かれ、肝心の「読みこむ」というトレーニングがなされていないことにあると思います。まるで野球のルールブックばかり解説されて、「素振り」「投げ込み」「走り込み」を全くしないまま試合に出るのと同じではないでしょうか。基本単語の意味や語法を本文読み込みの中で覚えるのは英語学習と全く同じです。
日本全国の中国古典を扱う研究者はみな、大学で「ひたすら読む」というトレーニングを受けてプロになっています。
「漢文」は古典中国語、「古文」は古典日本語。結局は「語学」です。語学である以上、やはり声に出して「読み込む」トレーニングが必要です。多くの学校や予備校ではその基礎トレーニングを省いてしまって、かえって遠回りなことをしているように思えてなりません。
とはいえ、そのようなトレーニングをしたところで、人生でどれだけ役に立つのか、と言われれば、学者にでもならない限り、ほとんどそんな機会はありません。読み込みトレーニングそのものが人生の中で徒労に終わってしまうことは否定できませんが。
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