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【ISOURO体験談③】筏千丸さん

  先日の記事では、夏休みなどを利用して葛尾村に長期滞在する「ISOURO」の体験談を紹介しました。今回の記事でも、ISOUROとして葛尾村に滞在しバーテーブル製作に取り組んだ筏千丸(いかだちまる)さん(早稲田大学・東京都)の体験談を紹介します。

葛尾村との関わり

 筏さんが葛尾村に初めて訪れたきっかけは、先日の記事で紹介した2人とは異なり、当団体が運営する「結米づくり」の稲刈りイベントへの参加したことにあります。高校時代から奥多摩(東京都)の古民家改修に取り組んでいた彼は、同じ農村である奥多摩と葛尾でもどのような違いがあるのかという興味もあり、友人からの誘いで稲刈りに参加しました。実際に参加してみて、「奥多摩と葛尾は自然環境は似ているけれども、そこにいる人たちが全然違う」と感じたそうです。東京に近い奥多摩には都会的な人の流動性があります。彼が奥多摩で携わっていた古民家改修も、都会の子どもたちが週末に来られる場所を作るためのものでした。一方、葛尾村にはその土地に住み続けている人たちが多いような印象を受けたそうです。筏さんはその後も何度か葛尾村を訪れます。その理由の1つは、奥多摩とは異なる葛尾村の人たちは筏さんにとって身近ではなく理解できないものだったからこそ面白く感じたからだそうです。

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滞在の目的

 今までも何度か葛尾村を訪れていた筏さんですが、今夏はこれまでとは異なり約1か月の長期滞在をしました。滞在のきっかけは、当団体の代表である下枝が筏さんに対して民泊ZICCAに設置するバーテーブルの製作を依頼したことにあります。幼少期より建築に興味を持っており、現在も大学で建築を学ぶ筏さんは、建物を使う人が製作段階から関われるような建築のあり方の実践したいと考えていました。バーテーブル製作を通じて、その実践ができるのではないかと思い、この依頼を快諾しました。そのため、今回のバーテーブル製作では、設置場所である民泊ZICCAに関わる人たちが計画段階から入れるような仕掛けを考えていました。同時に、コロナ禍によって人の往来が制限される状態であったため、オンラインとオフラインの協働も大きなテーマになりました。


滞在中の活動

 筏さんによると、今回の滞在期間は、①コンセプト期・②デザイン期・③製作期の3つに分けられるそうです。

①コンセプト期
 まず、最初の2週間はバーテーブルのコンセプトを考える期間になりました。ZICCAに関わる人たちから意見をもらいながら、絵を描くことや模型を作ることを通じてバーテーブルを中心としたZICCAの空間のイメージを膨らませていきました。また、この時期は村の人のところにたくさん遊びに行ったそうです。そこには、知っている範囲をZICCAの周りから広げたいという思いがありました。

84食堂改装イメージ_201006

②デザイン期
 コンセプトが固まってきて、バーテーブルをデザインする作業へと進んでいきました。この時期はオンラインコミュニケーションの難しさもあり、作業が難航していたそうです。紆余曲折を経て、最終的に1つのデザイン案が固まりました。

820 模型スタディ_200914

③製作期
 製作にあたっては、建具屋さんであるZICCAの大家さんからアドバイスをもらいました。大家さんは、製作技術のみならず、物を作る姿勢を伝えてくれたそうです。デザインが難航したこともあり、滞在期間中にバーテーブルを完成させることはできませんでしたが、春休みに再び葛尾村に訪れ、完成させる予定だそうです。

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滞在を振り返って

 今回の滞在を通じて筏さんの中で最も変化したことは、建築における言葉や感情の扱い方だそうです。その背景には大家さんとのコミュニケーションがあります。実際に製作を始めて、筏さんは物が成り立つことへの自分自身のイメージの薄さを痛感しました。大家さんから「それぞれ材木にはそれぞれの使い方がある」と叱られたことが1つのきっかけです。この体験を通じて、自分が材木を寸法と種類という情報だけで見ていたことを感じたそうです。さらに、それは言葉の上だけで物事を考えていた自分自身の姿勢への反省にもつながってきます。大家さんは叱るといっても、ただ間違っている部分を伝えるのではなく、自分の嫁に来てから孫を育てるまでの生い立ちを話してくれました。言葉の上の情報だけではなく、自分の姿を通じて想いを伝えてくれたのだと筏さんは考えています。この体験によって、製作物のコンセプトを考えるときも、言葉で考えていて、関わる人たちの言葉にならない感情まで意識が及んでいないことに気づかされました。この学びが次に滞在してバーテーブル製作を再開するときに大きく役立つだろうと筏さんは語っています。


一般社団法人 葛力創造舎

 葛力創造舎(かつりょくそうぞうしゃ)は、通常なら持続不可能と思われるような数百人単位の過疎の集落でも、人々が幸せに暮らしていける経済の仕組みを考え、そのための人材育成を支援する団体です。

余田 大輝

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