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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第5巻原作者コメンタリー

 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第5巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
 第4巻のコメンタリーはこちら

第17話『続・俺たちの彷徨』
 お正月回です。背景に僕が大阪府内で撮影した写真が使われているので、関西在住の読者には見覚えのある場所がちらほら出てくるかもしれません。
 なるべく『マジック:ザ・ギャザリング』黎明期の有名なカードにもふれたいという思いがあり、この回では《Juzam Djinn》と《Volcanic Island》に白羽の矢が立ちました。除去は《Oubliette》とどちらにするか悩んだすえ、効果が派手でわかりやすい《Hellfire》になりました。

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 プロット初稿では、はじめが八雲の性別を確認する場面の台詞は「おまえ本当に女? 米良さん的なアレじゃなくて?」となっていました。まあボツ食らいましたよね。コンプライアンスに引っかかりましたよね。世のなかおかしいと憤慨しましたが、冷静に考えたらおかしいのは僕の頭のほうでした。
 別れ際のはじめと八雲の文句は『林原めぐみのTokyo Boogie Night』のパロディになっています。

第18話『俺たちの絶対に負けられない戦い(前編)』
 グランプリ京都99編の前編です。まだ緊急事態宣言が発令される前の三月上旬、担当さん、横田卓馬先生と三人で国立京都国際会館を取材してきました。僕は中学生のころグランプリ京都99のジュニアトーナメントに出場していて、現地に行けば当時の記憶がよみがえるんじゃないかと期待していたのですが……残念ながら《記憶の欠落》を埋めることはできませんでした。かろうじて三勝二敗だったことだけは覚えています。

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 このコマでトーナメントの参加者が着用しているのは、チーム宗男とフジケン組のユニフォーム。グランプリ京都99はこの両チームが躍進した大会として知られています。フジケン組のユニフォームは現物を所有している人とコンタクトが取れず、製作者であるぴよぷーこと金澤尚子先生ご自身がデザインのスケッチを提供してくださいました。巻末にコメントとイラストを寄稿していただいたのもそのご縁です。
 リミテッドの主役はコモンとアンコモンということで、この回にはレアカードが出てきません。
 はじめがトーナメント開始前に聴いている曲はスキャットマン・ジョンの『Scatman (Ski-Ba-Bop-Ba-Dop-Bop)』です。

第19話『俺たちの絶対に負けられない戦い(中編)』
 グランプリ京都99編の中編です。各キャラクターのトーナメント成績は、今回もドラゴンスター日本橋2号店の中島主税さんと相談して決めました。
 白金久遠はジュニア年代最強のデュエリストとして登場させました。ナイーブな読者に配慮して慧美とはいとこの関係にしたのですが、担当さんは「いとこって結婚できるんですよ……」とおっしゃっていましたね。横田先生には「ビジュアルのイメージは『オナニーマスター黒沢』の黒沢翔」とお伝えしました。第4巻のラストで小道具として本を携帯させたことで余計黒沢っぽくなった気も……。

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 この巻で久遠が読んでいるのは、九十年代にブームを巻き起こしたシドニィ・シェルダンの『ゲームの達人』。これも強キャラ感を演出するための小道具ですね。回想ではじめがまねしているのはコンタックのテレビコマーシャル、社長が読んでいるのは『ゴクドーくん漫遊記』です。
 制作中に対戦描写のルール上のミスが発覚し、この回では横田先生にネームを一部描き直してもらいました。もし監修が入っていなければ、はじめが《金粉のドレイク》とコントロールを交換させられるのは《シヴのヘルカイト》ではなく《火口の乱暴者》で、僕は赤っ恥をかいていたことでしょう。

第20話『俺たちの絶対に負けられない戦い(後編)』
 グランプリ京都99編の後編です。リミテッドで男子対男子、スタンダードで女子対女子の構図をつくるのは、グランプリ京都99編でやりたかったことのひとつでした。
 わかる人には丸わかりだと思うのですが、扉絵と戦闘前バンクの影絵は『少女革命ウテナ』のパロディです。影絵少女は連載初期からあたためていたネタで、これをやるために『少女革命ウテナ』をひさしぶりに全話視聴しました。最高でした。主に姫宮アンシーが。
 毎回白単シャドーウィニーではゲーム展開が似たり寄ったりになってしまうため、今回慧美のデッキはトリコロールにしました。The Finals98で畠弥峰さんが使用されていたデッキのレシピにアレンジを加えたものになっています。また、八雲のネビュラディスクはブライアン・ハッカーさんがインビテーショナル99で使用されていたデッキを参考にしました。

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 八雲の回想に出てくる「シャバさん」は現ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社員の射場本正巳さんです。射場本さんはグランプリ京都99の本戦にも出場されていて、ベスト4という輝かしい成績を残しています。

こぼれ話
 ページが余ったので、巻末にリミテッドの簡単なルール解説を書かせていただきました。「横田先生の描き下ろしイラストのほうがよかった」「なんならゴブさんの水着イラストでもよかった」「むしろゴブさんの水着イラストがよかった」という向きもあるでしょうが、このルール解説が『マジック:ザ・ギャザリング』の競技人口拡大の一助となることを願っています。
 構築とリミテッドは『マジック:ザ・ギャザリング』の両輪というか両翼というか、とにかくそんな感じだと思います。これまでスタンダードを中心に物語を進めてきましたが、この巻にいたってようやくリミテッドをじっくり描くことができ、競技としての奥深さを少しは表現できたのかなという気がしています。気のせいでしょうか。気のせいじゃありませんように!

 そんなこんなで第5巻でした。
 次巻では舞台を神河と冨成に戻して、純喫茶しぶやまの面々にも活躍の場をあたえてあげたいですね。
 ではまた次巻で。

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