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8話:月の誘(いざな)い

お月さまとぼくたち猫とは切っても切れないご縁がある。
ほら、お月さまが見えない昼間には、ぼくの目の中には細くきれいなお月さまが映ってるだろ。
それにね、なにより月の女神さまはぼくたち猫の守り神なんだよ。

お庭に出られるようになったぼくたちは、ミーチェさんやレオンとよくお庭で遊べるようになった。
でも、たまに独りになりたい時は、夜にこっそりとお庭に出て、お月さまとお話しするんだ。
お月さまにはぼくのお母さんもいるからね。
この日もぼくはひとり、お庭に出てきれいに輝くお月さまを見上げていた。
すると・・・
「ナイン、なにしてるの?私、知ってるのよ。ナインが時々、ひとりでお庭に出てお月さまを眺めているのを。」
ありゃ、お嬢さまに見つかっていたのか?
お嬢さまにはかなわないな・・・
「私も今夜はこの綺麗なお月さまに誘(さそ)われて、ナインと一緒にお月さまを見たくなったの。」
お嬢さまはぼくの隣りにすわって、やさしくぼくに語りかけてくれた。
ぼくはお嬢さまにもたれかかって、お嬢さまの温かさを感じて眠たくなってしまった。

「さ、ナイン、私と踊ろう?今夜はお月さまの灯りでずっと踊っていられるわ。」
お嬢さまが手を伸ばしてきてぼくの手を取った。
「え!?ぼくの手が人間の手になってる!」
ぼくはビックリした!
ぼくは目を丸くしながらお嬢さまにひっぱられるままに立ち上がってお嬢さまと踊り始めた。
「え?え?え~!?ぼ、ぼく、人間になってる!!
 人間になってお嬢さまと踊ってるよ!!」
ぼくとお嬢さまの周りには、ミーチェさんやレオン、ナイトさんまでが手に楽器を持って素敵な音楽を奏でてくれる。
「あ~、ぼく、とうとう人間になれたんだ。人間になって大好きなお嬢さまとこうして踊っているんだ。」
ぼくは涙が止まらなくなって、それをごまかすためにお月さまを見上げた。

すると、月の女神さまがあらわれて、
「ナイン、前におまえが見た事は、夢でしかないんだよ。
 でもね、おまえがお嬢さまを思う気持ちはよくわかるから、せめて夢の中でだけでも人間になってお嬢さまと楽しい時間を持てるようにしてやろう。」
ああ、そうか。これは夢なんだね。
でもいいや。たとえ夢の中でもぼくは人間になって、こうして大好きなお嬢さまと踊っていられるんだ。
ぼくはこの夢から永遠に醒めないでほしいと思ってしまった。

朝、目が覚めると、ぼくはお嬢さまの隣りにいた。
「お嬢さま、昨夜の夢はとっても楽しかったし、幸せだったよ。
 でも、ぼくはお嬢さまをお守りしていたいから、ずっと夢を見ているわけにはいかないものね。」
お嬢さまも目を覚ましてぼくに語りかけてきた。
「ナイン、昨夜はあなたと踊れて楽しかったわ。私もあなたとずっと踊っていたかったけど、このままだとあなたがどこかへ行ってしまうような気がしてさびしくなったわ。
 ナイン、どこへも行かないでずっとそばにいてね。
 でも、時々、また夢の中でダンス、踊ろうね。」
ああ、お嬢さまもぼくと同じ夢を見ていたんだね。
ぼくはとっても嬉しくなってお嬢さまにキスをした。

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