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3話:月のお祭り

今夜はこのおうちに来て初めてのお嬢さまとのお出かけ。
お嬢さまは、いつもと違う不思議な服を着てはしゃいでいる。
「ナイン、見て見て!ほら、どう?かわいいでしょ?」
ぼくがキョトンとして見上げていると、
「これ、浴衣っていうのよ。夏のお祭りの日に着るのよ。」
「準備できた?行くわよ。」
「待って、ママ、ナイン連れて行ってもいい?」
「ダメよ、勝手にどこかに行っちゃったらどうするの?」
「大丈夫よ、ナイン、私から離れないから。ね!」
お嬢さまはぼくに向かってウインクをして、手を伸ばして来た。
「まぁ、いいじゃろう。好きにさせてやりなさい。」
「わぁーい、おじいさま、だいすき!」

カラコロと楽しい音をさせながらお嬢さまははしゃいでいる。
もう暗くなってきてるのに、周りにはだんだんと人が増えて来てなにか楽しい雰囲気になってきた。
あちこちから良い匂いがする。
「あ!たこやき食べたい!」
お嬢さまがおじいさまを引っ張って行くと、そこには丸い良い匂いのするものがあった。
「やけどしないように気を付けるんだよ。」
「はぁ~い!」
ぼくはお嬢さまのふところから顔を出して臭いをかいでみた。
すると温かくて美味しそうなとっても良い匂いがする。
「ナインは猫舌だから、ちょっと待ってね。」
お嬢さまがふ~っ、ふ~っと息をふきかけるたびに良い匂いがする。

お嬢さまはそれを一切れ、ぼくの口元に持って来た。
ぼくはクンクンとその良い匂いを嗅いでからパクリと食べた。
あ!なにこれ?すっごくおいしいよ!
と言いながらお嬢さまを見上げた。
「どう?ナイン、おいしいでしょ?」
ぼくはほっぺがとろけそうになってお嬢さまにほほ笑みかけた。
するとまた、お嬢さまはぼくの口元に一切れ運んでくれた。
やがて、そのたこ焼きというものがなくなるまで、お嬢さまとぼくは、交代に食べた。
ぼくは、もうそれだけでお祭りというものが大好きになった。

まわりはいろんな音がすっごく楽し気に鳴り響いている。
お嬢さまとおじいさまたちはお社と言うところまで来て手を合わせた。
その中には、月の女神さまと何人かの神さまが微笑んでいた。
「ナイン、ここには月読様っていうお月さまの神様がいるのよ。」
って、お嬢さまが教えてくれた。
ふ~ん、ここでは月の女神さまは"月読"様っていうのかぁ。

ぼくはお嬢さまともっといろんなところを見てみたかったけど、おじいさまが、
「さぁ、そろそろ帰ろうか。」
と言って、お嬢さまの手を取って帰り始めた。
さっき昇ってきた高い石段をお嬢さまはおじいさまの手をにぎって降りていく。
神社はちょっと高い場所にあるので、降りていくときには町の景色が遠くまで見える。
町のあちこちに明かりが灯っていてとてもきれいだ。
「おじいさま、ナイン、とてもいい子だったでしょ? また一緒に来てもいいよね?」
「そうじゃなぁ。また来ような。」
この日、ぼくの胸の中には、お嬢さまやおじいさまとの大切な思い出ができたんだ。

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