過去世物語➁
過去世物語➀の続き
できるだけ遠くへ
少しでも遠くへ
ただ、その思いだけで暗い森の中をひたすら走った。
走り過ぎて口の中に鉄のような味がしたがそれでもかまわずに走り続けると、月明りに照らされた湖に出たので水を飲むために水辺に近づく。
不気味なほど静まり返っていて、風が草や木の葉を揺らす音だけが聞こえる。
何度も夢に見た自由。
これは夢なんじゃないかと思うほど現実味がなかったが、自分がやった事の重大さに今さら足が震えてきた。
これからどうすれば良いのか?
どこへ行けば良いのか?
勢いでここまで来てしまったが、現実を目の当たりにして怖くなってきた。
でも、もう後戻りはできない。
帰ったら足を切り落とされるかもしれない。
それだけは嫌だ!
前に進むしかない状況で弱気になった自分に喝を入れるために、湖の中に飛び込んだ。
冷たい水のおかげで冷静さを取り戻し、星を見て夜明けまでにまだ数時間あるのを確認して先を急ぐ。
でも、まだ15歳。
つかまって連れ戻されるか、森の中で獣に襲われるか…
それとも、このまま野垂れ死にするのか
最悪の事態に陥る妄想と、常に背中に張り付く恐怖で足がすくんで叫びたくなりながらも、一歩進むごとに自由に近づいていると信じて歩き続けた。
ようやく夜が明けてうっすらと光が射し始める頃に森を抜けると、暗闇で感じていた恐怖も和らいでポケットに詰め込んだ木の実を食べようと、ふと足元を見るとあちこちに切り傷ができて血が滲んでいるのが目に入る。
気がつかなければ痛みを感じなかったのに、見てしまったからものだから急に痛みを感じて動けなくなり、近くの岩の陰に座りこんでしまった。
痛い
苦しい
大粒の涙が頬を伝い、声にならない嗚咽が漏れた。
足を切り落とされても良いから、家に帰りたいとすら思いはじめたころ、ガタガタと荷馬車のような音が聞こえてきた。
誰かに助けを求めたい一心で道に出て、荷馬車の前に飛び出して「街に行くなら乗せていってください!」と叫ぶと、荷馬車の男は驚いた顔で私の全身をゆっくりと眺めて一言「乗りな」と言ってくれた。
お礼を言って荷台に乗ると、男は何も聞かず街への道を黙々と進み続け、2日後とうとう街に到着。
お礼を言って立ち去ろうとした瞬間「行く当てはあるのか」と聞かれ、答えられずにいると「ついてこい。仕事をさせてやる」と言われ、売り飛ばされるかもしれない不安はあったものの、右も左も分からない場所でひとりきりになるのが心細くて、男のあとについていった。
途中
このまま逃げたほうが良いのではないか?
ひどい仕事をさせられるんじゃないか?
この二日間、何も聞かれなかったのは逆に怪しい…
何歳なのか見当もつかない顔だし、左頬に傷がある…
また最悪のシナリオを妄想してしまったと後悔しながらも、森で野垂れ死にするよりマシだと思い、腹をくくった。
男の家に着くと井戸へ連れて行かれ、頭から何度も水をかけられている時、背中にある何本ものムチの跡が目に付いたのだろう。
水をかける手が止まり、気まずくて下を向いたままの私に、ごつごつした大きな手で頭をポンポンと優しく撫でられた瞬間、声をあげて泣き出してしまった。
ひとしきり泣いて落ち着いた後、家に入って最初に目についたのは何本もの包丁、大きな鍋とまな板。
家についてきたのは失敗だ…
心細さに負けた自分を呪ったが、後ずさりしようにも男が後ろにいて逃げられない。
動揺しているのが分かったのか男は鼻で笑い、私の背中を軽く押して後ろ手にドアを閉めた。
過去世物語➂へ続く
⋆この過去世物語は、私が自分の過去世リーディングをした時に視たものです。
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