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新刊案内

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桂書房の新刊書籍のみどころを、編集者独自の視点でご紹介します。
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#小説

「わたしには生きてゆくための技術がある」——戦前のヤングケアラーを追体験。『愛し、きつメロ—看取りと戦争と—』小林孝信

「自分の人生と病気との縁を書き残してほしい」 著者はある夏、病院のベッドに横たわる80歳過ぎの母親が、そう控えめにつぶやくのを聞いた。 彼女がいう「病気との縁」とは、自身の闘病生活だけではなく、戦前・戦時下において彼女がおこなっていた、家族の看護・介護・看取りの体験も同時に指していた。 物語は主人公「美戸」が自身の幼少期を回想するところから始まる。 大正7年、富山県の魚津郊外で発生した米騒動。美戸は騒動の半年前にこの漁村からわずかに離れた村でその生を受けた。 5人兄妹の

自分自身をひたむきに生きること。——回転しつづける思考と試行。うまくいくこと、いかないこと。 『老いは突然やってくる』 真山美幸

不自由さとは、老いることなのか?  抗いたいのは、この足の痛みなのか?  タイトルに共鳴してこの本を開いてみようと思った人は、おそらく「年齢」というものを意識する機会を度々感じている人かもしれない。だがそれはきっかけの一つに過ぎないことに、ある時ふと気づくだろう。  物語は70歳を過ぎた主人公の「岬」が、ある日突然左足のつけ根の痛みに襲われ、もがき苦しむ場面から始まる。  ところで老いることは、生きていれば必ず直面する事実である。それは体の痛みや体力の衰えだったり、見た