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新刊案内

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桂書房の新刊書籍のみどころを、編集者独自の視点でご紹介します。
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記事一覧

「わたしには生きてゆくための技術がある」——戦前のヤングケアラーを追体験。『愛し、きつメロ—看取りと戦争と—』小林孝信

「自分の人生と病気との縁を書き残してほしい」 著者はある夏、病院のベッドに横たわる80歳過ぎの母親が、そう控えめにつぶやくのを聞いた。 彼女がいう「病気との縁」とは、自身の闘病生活だけではなく、戦前・戦時下において彼女がおこなっていた、家族の看護・介護・看取りの体験も同時に指していた。 物語は主人公「美戸」が自身の幼少期を回想するところから始まる。 大正7年、富山県の魚津郊外で発生した米騒動。美戸は騒動の半年前にこの漁村からわずかに離れた村でその生を受けた。 5人兄妹の

私たちが暮らす、いまの集落がつくられた頃の話。——「村」を〈一個の交渉主体〉として捉え直す 『中世「村」の登場—加賀国倉月荘と地域社会』 若林陵一

中世後期、各地では、ひとつの荘園に複数の「村」と領主権力があらわれた。  現代まで「集落」とされてきた「村」は、その成り立ちにおいて荘園制における領有主体の多元化が関係していた。  中世後期(14~16世紀頃)における「村」の登場をめぐる社会について、加賀国倉月荘(現石川県金沢市北東部)を舞台に、「村」が織られていくようすを検証する。  本書は、「村」が成り立ちゆく最たる画期が中世後期に設定できるという見解により展開されていく。  そしてそのような「村」が有する大きな特徴

自分自身をひたむきに生きること。——回転しつづける思考と試行。うまくいくこと、いかないこと。 『老いは突然やってくる』 真山美幸

不自由さとは、老いることなのか?  抗いたいのは、この足の痛みなのか?  タイトルに共鳴してこの本を開いてみようと思った人は、おそらく「年齢」というものを意識する機会を度々感じている人かもしれない。だがそれはきっかけの一つに過ぎないことに、ある時ふと気づくだろう。  物語は70歳を過ぎた主人公の「岬」が、ある日突然左足のつけ根の痛みに襲われ、もがき苦しむ場面から始まる。  ところで老いることは、生きていれば必ず直面する事実である。それは体の痛みや体力の衰えだったり、見た

富山廃県の危機!幻の「28道府県」——「山野河海」越中の史的考察 『越中史の探求』城岡朋洋

明治時代に「府県廃置法律案」という法案が作成されていたことをご存じだろうか?  明治時代に、日本を「28道府県」に再編する計画が持ち上がりました。 富山廃県の危機に富山県民はどうしたのか?その行動と考え方を、新刊『越中史の探求』からお届けします。  明治36年(1903)に1道3府43県を1道3府24府県にしようという法案が、第一次桂太郎内閣で閣議決定され、帝国議会に上程されることとなった。  本書で取り上げる富山県(越中)は三度廃県の危機に直面している。  「府県廃

《本》という小さな宇宙に繋ぐ魂。——最初の棟方志功装画本図録 『棟方志功 装画本の世界 —山本コレクションを中心に』 山本正敏

 今年で生誕120年をむかえる棟方志功。全国各地で関連展覧会が開催され、棟方の功績をあらためて振り返る機会が増えている。  棟方志功といえばダイナミックで力強い版画や倭画でよく知られているが、彼の創作宇宙に「装画本」という領域があったのはご存じだろうか。  本書は蒐集家・考古学者の山本正敏氏がおよそ20年かけて集めた棟方志功の装画本を約900点収める、世界初の棟方志功の装画に特化した図録である。  単行本約500点・逐次刊行物約400点を、基本番号、『書名』、著者名もしく