最近のあの子の可愛かったとこ 11こめ

売れない役者である僕はその日、税理士事務所にいた。

確定申告

擬人化したら間違いなく全ての個人事業主から2、3発ぶん殴られる行事である。

莫大な体力と時間を必要とする。
終わる頃には脳みそが灰へと化している。

そんな確定申告を白色申告から青色申告に変えることにした僕は税理士さんに帳簿の仕方を教えていただくことになった。

あの子はそこの税理士さんだった。

何も分からない僕は矢継ぎ早に質問をぶつけた。

「これは経費になりますか?」

「これって領収書なかったら流石に厳しいですよね?」

マンツーマンで丁寧に教えてくれるあの子。

「え、これも経費で落ちるんですか!」

僕がこの場所にきて最も口にした言葉だ。

領収書の内容から話が広がり、帳簿と関係ないことで盛り上がったりもした。

舞台で使うために衣装として買ったセーラー服を僕がそういう趣味を持っている人だと勘違いされた時は流石に恥ずかしかったけど。

次第に僕はあの子のことが気になり始めていた。

『リトル・ミス・サンシャイン』という映画のDVDを買った領収書から映画の話になり、あの子が映画好きであることが分かった。

僕は勇気を出してあの子に言った。

「あの、もしよかったら今度一緒に映画観に行きませんか?」

「え」

「あと美味しい麻婆豆腐がある中華のお店知ってるんで映画観たあとそこでご飯食べましょう!」

「あ、は、はい…いいですよ(笑)」

あの子は少し驚いたみたいだったけど、承諾してくれた。

僕が心の中でガッツポーズをしていると、あの子が一言こう言った。


「言っときますけどこのデート代は経費で落ちませんよっ」



最近のあの子の可愛かったとこ


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