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猫の話

母は猫が嫌いだ。というのも、実家の周りには野良猫が多い。

野良猫は実家の庭や駐車場におしっこをしたり、フンをしたりしたからだ。猫の排泄物はとてもとても臭い。しかも一度トイレだと思うとずっとそこをトイレだと思い、毎日毎日そこにするようになる。母はいつも怒りながら片付けていた。トイレだと思っているそこが用を足してしばらくすると綺麗になる。元来綺麗好きな猫からしたら、気に入ったトイレが毎回綺麗になっているもんだから、ずっとそこはトイレなのだ。母は猫の排泄物が嫌いだからせっせと片付けているだけなのに、せっせとお世話している状態になっている。そんなわけで、母は猫が嫌いだ。

母が猫が嫌いなので、自分が猫が好きだと気付くのに結構時間がかかったが、どうやら私は猫が好きらしかった。でも、猫を「飼いたい」と思うようになったのはほんの数年前のような気がする。しかも突然そう思った。謎だ。

時々ホームセンターやペットショップで売られている猫を見ては「かわいいな」と思うことはあったが、その猫を「飼いたい」と思うことは不思議となかった。単純にペットショップの猫が高いからというのも往々にあったと思うが。

ある日Facebookを見ていると同僚が記事をシェアしていた。

「保護猫を飼ってくれる人いませんか?貰い手が見つかるまでの間、預かってくれるだけでもいいです」

何度もこの手の記事は見たことがあるのに、この日のこの記事だけはなぜか心に残った。そこにはボロボロで痩せた小さな猫が写っていた。ボロボロなのに、目がキリッとした猫だった。猫に運命を感じたのは初めてだった。

そしてある日突然主人に「この子を飼いたいんだけど、どうでしょうか」と提案する。何を隠そう、主人は私が猫が好きだということを知らなかった。そんなわけで猫が飼いたいと思っていることももちろん知るはずもなかった。主人は目を丸くして「えっ?」と言った。そして主人は猫好きな猫アレルギーだ。猫アレルギーの人に猫が飼いたいと言い出す嫁、なかなかヤバい。

主人とあれこれ相談して、結局そのFacebookの猫は我が家に来ることになった。猫を保護してくれた方はすごく猫好きなご夫婦だった。すでに飼い猫が2匹いて、3匹目は厳しいとのことで貰い手を探しているとのことだった。猫は猫カビにやられていて、前足や尻尾の毛が抜け落ちてしまっていて、今は治療のため、病院に入院しています、と連絡があった。猫カビの影響で今毛が抜けてしまっている部分はもう生えてこないかもしれない、それでも大丈夫ですか?難しければ、お試しでもいいですよ、と声をかけてくれた。突然猫を飼いたいと言い出した妻と猫アレルギーなのに飼うことに賛同した夫なのに、そこはなぜか「それでも大丈夫です。うちの子にします。」と返事した。

そして我が家に猫はやってきた。猫アレルギーの主人は調子のいい時だけ猫と戯れることに。全般的なお世話は私がすることになった。小さい小さい猫だった。名前はいろいろ考えた結果、長男がお腹の中にいた時の胎児ネームをもじって『虎徹(コテツ)』と名付けた。

それから2年半。虎徹は猛烈に成長し、保護してくれた方が心配していた前足や尻尾の毛もふさふさになった。そして今、私がパソコンをパチパチ打っているのをガン見している。

もうすっかり我が家の家族だ。

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