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読んだ本10選2022

明けましておめでとうございます

2022年もたくさん本を読んだので、良かった本を10冊紹介します
興味がひかれたら手に取ってみてください

1.F「真夜中乙女戦争」

映画化にもなった小説。現代日本に置き換えた「ファイト・クラブ」。
友達も恋人もいない、授業に人生に退屈した大学生の私は「都会の無力な大学生」であり、都会は必要なもの不必要なものが横溢している。溢れるほどあるからこそ価値が薄まって見えてしまう、自分の価値すらもそれほどないのかもしれない。

オマージュ「ファイト・クラブ」では「都市の中で、ただの消費者になった僕」へ批判していたが、今作は「都会の中の無力な僕」へのアンチテーゼだ。早稲田卒の自意識が過剰な学生は「自分は何ができるか、価値がないんじゃないか」で頭がいっぱいになっている。

読むとすぐにわかるのはあまりにも多くのブランド、商品名が並んでいる。amazon、LINE、丸の内サディスティック、などなど数えればきりがない。令和初頭の空気感がそこにある。どうしようもない大学生のリアルがあり、10年後に読んでもこの空気感は読みとれないだろうね

あと映画は面白くないから見ない方が良い。薄くなってシャバッシャバになったカルピスみたいだった。

2.にゃるら「僕はにゃるらになってしまった ~病みのインターネット~」

あの有名ゲーム「Needy Girl Overdose」の作者、にゃるらのエッセイ。ゲームは面白いので是非買って、楽しんで欲しい。
沖縄での治安の悪い高校から上京して現在いたるまでの生い立ち、どうしてオタクに至ってしまったかを書いている。
完全な無職からペンでクリエイターになった人で、エロゲや特撮などのサブカルに強く、本文にもリスペクトやオマージュがあふれている。特に特に美少女ゲームに強い影響を受けており、にゃるらはゼロ年代特有の狂気・救済などの世界観を作り上げている。

書籍版「Needy Girl Overdose」ともいえるような作品で、「超てんちゃん」はどうやって出来たかを考えながら読むと、ゲームの方にも奥行きを感じられる。

3.新庄耕「狭小邸宅」

不動産マンになった若き主人公・松尾は、会社の先輩や課長、部長からの凄まじいパワハラに耐えつつも、家を一件でも売るべく、血の滲むような営業をこなす日々を送っていた。

あまりにも暴力が蔓延していて、腹蹴りは当然、物で頭を殴られるシーンもある。しかし、暴力的な世界だからこそ、発言や行動に力強さやすごみがある。

「お前らは営業なんだ、売る以外に存在する意味なんかねぇんだっ。売れ、売って数字で自己表現しろっ。いいじゃねえかよっ、わかりやすいじゃねぇかよ、こんなにわかりやすく自分を表現できるなんて幸せじゃねえかよ、他の部署見てみろ、経理の奴らは自己表現できねぇんだ、可哀そうだろ、可哀そうじゃねえかよ。売るだけだ、売るだけでお前らは認められるんだっ、こんなわけのわからねぇ世の中でこんなにわかりやすいやり方で認められるなんて幸せじゃねぇかよ、最高に幸せじゃねぇかよ」

新庄耕「狭小邸宅」

ここは営業であることの賞賛と、営業であることの哀しさがあり、営業ってたまったもんでもないなとも思った。

4.彼女。 百合小説アンソロジー

女性同士の恋愛や友情などの濃密な関係性を題材とした創作ジャンルを指す。

https://dic.pixiv.net/a/%E7%99%BE%E5%90%88

オタクなので買いました。オタクは百合に弱い。

Mediumの相沢沙呼や、響けユーフォニアムの武田 綾乃などマジで有名な作家が女女の感情を書く、贅沢なアンソロジー。
ここで断っておくが、百合といえば女性同士の恋愛感情だと捉えがちだが、実際は、感情のやり取りがあればすなわち百合であり、恋だの愛だの言う必要はない。だから”女女”と書かれることも多い。

短編集なので全部は紹介はできないが、とにかく「恋澤姉妹」が良かった、どんな話か言い表すのは難しいが、ありとあらゆる暴力が込められてて好き。主人公への暴力、女女への暴力、読者への暴力、視線の暴力、感情への暴力、関係性への暴力。純粋な暴力が他人を排斥し、女女の関係性を高めていく。

ゲーム系ユーチューバーの二人を書いた「百合である値打ちもない」、文芸サークルで切磋する二人の「上手くなるまで待って」も面白かった。

5.桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet」

の作品は実弾と砂糖弾丸の対比が特徴になっている。主人公は女子中学生のなぎさ、性活のために高校を諦め自衛隊に入ろうとしている。そんな現実的(=実弾)な考えを持つなぎさは、転校生の海野藻屑と出会う。藻屑は芸術家の娘自分を人魚だという非現実的(砂糖弾丸)な女子中学生だ。砂糖菓子は現実に届き得るか? それとも、やはり屈してしまうのか? という現実と幻想をテーマにした小説。

この本を読んでいる間、相対性理論の「バーモンド・キッス」がずっと脳内で流れていた。家事に追われて世界征服という若者らしい夢を見ることをやめる歌で、自分はいまだに幻想を捨てきれずにいるが、いつか幻想は力を失い、捨てる日があると思うと悲しくなってくるな。

200ページ以内に収まる中編小説で、文章量もお手頃なので読みやすい。ただ話はかなり重たいので、そこだけは注意。

6.三島由紀夫「絹と明察」

社員を家族と称して愛する、強烈なパターナリズムが横行する昭和的な企業。その家族主義は従業員の外出ですら管理されており、手紙も検閲される。そうして社長は”従業員を守っている”。
しかし、その思想は戦後で崩壊している。アメリカの自由資本主義が混淆し、「良い親子」から「良い小市民」たるべし、と個人の自由が認められるべき価値観に変化しており、社長の駒沢が転落する様子を書いている。
ここには、家父長制の衰退と自由資本主義への転換を思想的に描いた作品。

三島と言えば、過剰なまでの修飾表現や執拗な観念論が有名だが、今作は控えめで、ビジネスマンの使う語彙で書かれており、三島の論理的な構成もあいまって、わかりやすい企業小説として読むことができる。
三島入門としてもおすすめ

7.古屋兎丸「ライチ★光クラブ」

サブカルで有名な漫画。BL、退廃主義、ゴア表現なんでもござれのサブカルではそこそこ有名な漫画。ガロとか寺山修司、澁澤龍彦とか好きな人にはハマりそう。

成長を醜いという思想を持つ「ライチ★光クラブ」は永遠の美・真理の美を求め、ロボットを起動させて美少女を拉致する。とある出来事から、クラブ間に不和が広がって残虐な結末に進んでいく。

作中では成長の否定が幾度となく叫ばれる。耽美主義的作品には珍しくないのか、三島由紀夫の「午後の曳航」にも同じ表現があり、「醜い大人になるのなら殺してやる」と実際に殺人行為を暗示させて結末を迎えて終わる。

思春期のナルシシズムや大人になる事への恐怖、嫌悪感、鬱屈した性衝動も書かれて面白かった。

8.今村昌弘「屍人荘の殺人」

最近ミステリにハマった友人からの紹介で読んだ小説。国内ミステリーランキング4冠を達成した化け物ミステリ。映画化もしたらしい。私も着実にミステリを読みつつある。

しっかりとしたトリックのある新本格派でありながら、ゾンビが跋扈した中で殺人が起こる特殊設定。パニック要素あり、アクション要素もありつつ、最終的にはミステリで落ち着く、すごい作品。
ミステリを読んだことないけど、興味あるって人はMediumか屍人荘の殺人を読んどけば間違いない。

ゾンビを映画作品からカルチャーとして解説することで、ゾンビのリアリティライン(生々しさ・リアルっぽさ)を下げながら、ゾンビ自体のおさらいもできるので、ゾンビって何? から始まる人でも読みやすい。

9.寺山修司「青少年のための自殺入門」

平成20年ごろ、「完全自殺マニュアル」という物が流行ったらしい。本当にどう死ぬかと示したHow to本で直ぐに発禁処分を下されたらしい。そりゃそうだ。
しかし、実は昭和の時点で書かれているらしい。(あくまで心構えを書いただけでやり方は書いてないが)

それは自寺山修司「青少年のための自殺入門」だ

ノイローゼで首を吊った、というのは病気だし、生活苦と貧乏に追い詰められてガス管をくわえて死んだのは<政治的他殺>である。(中略)自殺は、あくまでも人生を虚構化する儀式だり、ドラマツルギーに支えられた祭りであり、自己表現であり、そして聖なる一回性であり、快楽である。

寺山修司「青少年のための自殺入門」

私もこれを読んで前向き自死してやろう、と思いました。

10.宇野常寛「ゼロ年代の想像力」

「動物化するポストモダン」はオタク批評の鏑矢となった作品だが、「ゼロ年代の想像力」では東の提言した「データベース消費」を展開している。
かつて東浩紀は、近代では大きな物語があったが、現在は大きな物語が効力を失い、今は綾波レイを長門有希に組み替えて「涼宮ハルヒ」に登場させるような「データベース消費型」の、小さな物語を消費している。
オタクは大きな物語を自分に合わせて読み込むことはせず、今や自分にあった物語を読み込むことなく消費している。そういった消費を「動物化」といって批判した。

エヴァ以降から、泣きゲー化したエロゲにも焦点を当てている(この部分は「感傷マゾ」や「青春ヘラ」に該当する)。インテリゲンチャぶりたいオタクは「ゼロ年代の想像力」を読んで、コーナーで差をつけろ!

終わり~~~~~~~~~~~

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