稀羽すう「ONE LDK」&「paroquet covers vol.1」 感想

だつりょく系Vsinger稀羽すうが初のCDを2枚同時リリース。オリジナル曲6曲をラインナップした1st EP 「ONE LDK」と、80年代シティポップを中心とした往年の邦楽名曲カバー集「paroquet covers vol.1」だ。この記事ではこれら2作品の感想を記していく。


「ONE LDK」総論

既にリリースしていた3曲に加え、豪華にも新曲3曲も収録したEP。住居としてのアパートの一室をコンセプトとしたテーマ性のあるラインナップであり、それぞれにモチーフとなる室内の場所のイメージが割り当てられている(アニメイトオンラインショップの商品ページにおける解説が分かりやすい)。家をコンセプトとしたのは、彼女のファンの挨拶が「ただいま」であること、もっと言えば彼女の配信がファンにとって帰るべき場所になっていることにも掛けていそうだ。また、それぞれの楽曲が一日の時系列順になっている点もおもしろい。
どの楽曲も稀羽すうらしい、人生に悩める“大人”で“等身大”の歌詞と、チルで耳心地の良いサウンドを持つ。一方でそれぞれの楽曲ごとの作品性や特色も楽しめる、良く出来たEPになっている。

01. Mornin' Bell

稀羽すうの2ndシングルである曲。玄関をモチーフとした歌で、今まさに出かけようという内容はEPの始まりにも相応しいものとなっている。もしかするとデートかもしれないような、おでかけの焦燥感にも似たわくわく感(アニメイトページの「逸る気持ちを楽しむ」という表現が的確すぎて勝てない)を表現した嬉しさ、楽しさに満ちた一曲だ。出かける予定のある休日の朝などに聞きたい。

02. いたいのいたいの

静かなラブソング。片想いというのは必ずしもキラキラしているばかりではなく、膨らむ想いを言い出せない胸に痛みを伴うもの。この曲ではその“痛み”にフォーカスしながら、でもそれを含めて好きな人への恋心として自分に受け入れることができる、苦みまで味わえる大人の恋の歌だ。恋愛関係というよりは「恋心」そのものを丁寧に描いた一曲。

03. ReadyToParty

キッチンからダイニングを舞台にしたポップな歌で、エプロンでぱたぱたと楽しげに動く姿が目に浮かぶようだ。
「君」を自宅に招いての手作りの夕食会だろうか。料理というのは食べる相手のことを想ってつくるものであり、その“想い”が溢れた歌詞となっている。日常の些細な幸福を描いた楽しい歌だ。

04. Floating

稀羽すうの記念すべき1stシングル。お風呂上がりのどこか気だるげで満ち足りたひとときを描く。
この曲については過去に感想記事を書いているので、そちらもご覧いただければ幸いである。

心地よい距離感を揺蕩う歌詞はもちろん、チルでヴェイパーなサウンドも含めて、とても稀羽すうらしい一曲に仕上がっていると感じる。

05. らしく。

バルコニーで夜風に当たりながら、自分自身を振り返る曲。
この歌の歌詞は比較的抽象的というか解釈が難しいものだが、それは世の中自体がまとまりが無く不条理なものであることをそのまま反映したものだからかもしれない。人が誰しも生きていく中で直面する世の中の不条理を、不条理のまま受け入れるための歌だと感じた。

06. トロイメライ

ゆったりとした一曲。飾らない日常の中でちょっとだけ良い夜を印象させながら、“深夜”という一日のすべてから解き放たれた自由で豊かな時間が持つ、独特な穏やかさと心地よさを描き出す。語るようなラップと優しい歌声が一日の終わりを包んでくれるような、聴く毛布(?)のような一曲だ。


「paroquet covers vol.1」感想

まずは収録曲をお示ししよう。

01. 4:00A.M. (原曲:大貫妙子/1978年)
02. 真夜中のドア~stay with me (原曲:松原みき/1979年)
03. RIDE ON TIME (原曲:山下達郎/1980年)
04. フライディ・チャイナタウン (原曲:泰葉/1981年)
05. プラスティック・ラブ (原曲:竹内まりや/1984年)
06. ラブ・ストーリーは突然に (原曲:小田和正/1991年)

ご覧の通り、80年代シティポップを中心とした往年の珠玉の邦楽たちをカバーしたアルバムだ。

この「paroquet covers vol.1」には二つの楽しみ方があると思っている。
一つ目は“歌そのものを改めて味わうこと”。例えば「RIDE ON TIME」は達郎の、「フライディ・チャイナタウン」は泰葉の、それぞれボーカルが印象的だが、裏を返せば属人的ということでもある。ここで敢えて属人性から離れ、いずれの曲も稀羽すうの丁寧で清澄なボーカルによって、歌そのものを見つめ直してみることができる(これについては筆者は以前、声優の雨宮天がリリースした同時代の邦楽カバーアルバムにも同じことを感じていた)。

そして二つ目は、“珠玉の名曲たちに載せられた稀羽すうの歌声を味わう”だ。ダウナーだけれども起伏があり、澄んでいるのに霞みがかったような、滋味に富む唯一無二の歌声が魅力の稀羽すう。その歌声を、約束された名曲たちの上で愉しむことができるというのがこのアルバムの本質の一つであろう。特に、吐息混じりの歌声と息の抜けの美しさは「RIDE ON TIME」などに好く表れていたと感じる。一方でYouTubeでのカバー動画に続きリ・カバーとなった「フライディ・チャイナタウン」は前回よりも原曲寄りとなっており、儚い少女性を思わせた前回と比べて大人びた雰囲気となっている変化も着目される。ウィスキーのロックが飲めそうだ。紹興酒でも可。

総論として、素晴らしい名曲たちと魅力的な稀羽すうの歌声、両面で味わうことができる贅沢な一作となっている。


今回のCDに続いて5月にライブも控えており、精力的な活動が続く稀羽すう。今追っている人は今後も目が離せないし、今あまり追っていない人は是非いま見始めてほしい。豊かな時間が待っているはずだ。

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