【書き起こし】『転がるビー玉』×宇賀那健一監督
活弁シネマ倶楽部です。
不定期になりますが…本編の書き起こしをnoteに掲載します。
通信制限などで映像が再生できない方は、こちらの書き起こしでお楽しみください。
ただし、一点注意があります。
テキストはニュアンスが含まれにくい表現媒体です。
しかも、書き起こしは通常のテキストのように発表前に何度も推敲し、論理を確認し、細かいニュアンスを調整することができません。
だからこそ、書き起こしのテキストは誤解を招いたり、恣意的な切り取られ方をする可能性があります。(それによって炎上するニュースは日常的に起こっています。)
もし書き起こし内で引っ掛かる点があれば、映像をご覧になっていただきたいです。
映像はテキストでは表現しきれない被写体のゆらぎを写します。
そのゆらぎに含まれる情報があってはじめて、語り手の言葉は生きた言葉になります。
この書き起こしだけ(それも断片だけ)で判断するのではなく、語り手が語る言葉に耳を傾け、じっくりと楽しんでいただければと思います。
映画を見るという行為と同じような、能動的な体験をしていただけたら何より嬉しいです。最後になりますが、YouTubeチャンネルのご登録もお願いします。
吉川愛×萩原みのり×今泉佑唯×渋谷=映画『転がるビー玉』を宇賀那健一監督が語る!! 活弁シネマ倶楽部#64
(折田侑駿)始まりました、活弁シネマ倶楽部。この番組のMCを務めます、折田侑駿です。よろしくお願いします。今日は、現在『魔法少年☆ワイルドバージン』が公開中で、来年公開の『転がるビー玉』の監督であります、宇賀那健一監督をお呼びしています。では宇賀那監督、今日はよろしくお願いします。
(宇賀那健一)よろしくお願いします。
(折田侑駿)まずは最初に宇賀那監督の簡単な紹介から入らせていただきたいんですけども。宇賀那監督は1984年4月20日生まれで、青山学院大学を卒業されていると。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)それで、高校生の頃から俳優活動をスタートさせて、現在も俳優活動をされる一方で、映画監督としても活動がかなり…
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)活発。
(宇賀那健一)主にそっちが。
(折田侑駿)はい。これまでに手がけられた商業作品に、『黒い暴動❤』(2016年)、『サラバ静寂』(2018年)、そして現在公開中なのが『魔法少年☆ワイルドバージン』(以下、『魔法少年』)。で、この最新作『転がるビー玉』が、女性ファッション誌「NYLON JAPAN」の創刊15周年プロジェクトとして製作された作品であるということですね。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)また、株式会社Vandalismの代表取締役も務めていられると。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)手広く…
(宇賀那健一)手広く…気づいたら手広くなってしまってたんですけど。
(折田侑駿)すごいですね。そのへんもちょっとお聞きしたいですね。よろしくお願いします。
(宇賀那健一)はい、よろしくお願いします。
(折田侑駿)じゃあまず、今日初めてお会いするので、簡単にというか、監督の…宇賀那さん自身のパーソナルな部分からお聞きしていきたいです。どういった経緯で俳優活動を開始されたんですか?
(宇賀那健一)きっかけはすごく下世話というか…高校2年のときに付き合っていた彼女が、浅野忠信さんの大ファンだったんですよ。で、すごいヤキモチ妬いて。それで、浅野さんの出ているDVDを根こそぎ借りてきたんです。「浅野忠信がナンボのもんだ!」と思って。でも観てみたらめちゃくちゃ面白くて。それで“ミイラ取りがミイラになる”かのように、邦画の魅力にハマっていって。それまでもずっと映画は好きだったんですけど、まあどちらかというと洋画ばかり観ていたので。邦画の魅力にハマって、そのときに浅野さんが出演されてた『地雷を踏んだらサヨウナラ』という…
(折田侑駿)五十嵐匠監督の…
(宇賀那健一)そうです。それの舞台版のキャストをちょうど募集しているらしいというのを聞いて、その当時だから“写ルンです”で…宣材写真とか撮り方が分からないんで、自宅のベランダで写真を撮って、バイト用の履歴書にプロフィールを書いて送ったんです。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)それで、よくよく募集要項を読むと、条件に“35歳以上”って書いてあったんです。
(折田侑駿)あ…
(宇賀那健一)僕は17歳で、全然ハマってない…いまやっとハマるくらいな年齢なんですけど。でもそこで面白がってくださって、役を作ってくれて…
(折田侑駿)そうなんですか?
(宇賀那健一)一応ちゃんとオーデションもしたんですけど、自己PRって何をPRしていいか分からなくて。でも僕はダイビングをやっているんで、スキューバダイビングで撮った写真を審査員に見せるという謎の自己PRをして。
(折田侑駿)面白いですね(笑)
(宇賀那健一)それで役を作ってくださって。そっからその舞台を観ていた事務所の方の…その当時はトライストーン・エンタテイメントという事務所だったんですけど。そこに所属することになったんです。
(折田侑駿)いきなり人生の転機というか…
(宇賀那健一)何も分からなかったからこそ、何でもできたな…という部分はすごくあるなと思っていて。それがそのときはいいふうに転んだなと。
(折田侑駿)そのへんはちょっと本作とも繋げてお話しいただきですね。それで、俳優はいま何年目…?
(宇賀那健一)ま、ここ最近は全然動いてないんですけど…それで言うと18年ですね。映画業界に人生の半分も携わっていると。けっこう長くなったなあと。
(折田侑駿)そして、俳優だけではなく映画監督としても…最初は自主映画から?
(宇賀那健一)はい。『着信アリFinal』(2006)という映画を撮影していたときに、わりと何週間か韓国で撮影だったんですね。それで泊まり込んでいて。ずっと自分の中で悶々と抱えていたいろんな想いみたいなものがあって。“こういう映画に出たい”とか、“だけど受からない”だとか、“そもそもオーデションも来ない”とか。いろいろ自分の中で抱えていた想いがあって。それが、僕だけじゃないんだというのを同世代の役者たちと韓国で語り合うことによって、すごく…自分の中でも“こんなに同じ想いを抱えている仲間がいるなら、そういう映画を自分たちで作ろう”と思ったのがきっかけです。だからその『着信アリFinal』のメンバーで自主映画を撮ったのが最初なんですよ。
(折田侑駿)そうなんですね。そこから…どれくらい撮り続けられたんですか?
(宇賀那健一)最初は…自分が出るための映画を撮りたいと思ってやり始めたんですけど、いざやってみたら自分が出る余裕なんてまったく無くて。けっきょく自分が撮った映画に一本も出ていないんですけど。…で、それが海外の映画祭に入選して…何本か撮っていて。その後、ちょっと大きい企画の話がきて動いてたんですけど、それが一回止まってしまって。それがずーっと動かしていた企画だったので、けっこうショックで。一回挫折して、僕3年間サラリーマンやってるんですよ。
(折田侑駿)そうなんですね…。
(宇賀那健一)はい。リクルートで働いてまして…。ただ、それをやりながら、“映画を撮る道”みたいなものはずっと模索していて、そのときに…けっきょく前に僕が撮れなかった理由の一つが、「製作委員会」に自分が入れなかったから。まあ要は、その…偉い人たちの会議の中で勝手に外されてた、みたいなことになっちゃっていたんで。何かしらのかたちで会社を作ろうと思っていて。ちょうどその、僕が就職したところが飲食系の場所だったんですよ。サラリーマンやってたところが。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)僕、全然飲食店でバイトもしたことないんですけど、少なくとも数字上は語れるってことで…飲食店をつくりつつ、そこを制作プロダクションにしようと思ったのが、そのVandalismで。この『転がるビー玉』も、プロダクションはVandalismがやっています。
(折田侑駿)…面白いですね。
(宇賀那健一)だからもう、映画を撮るための道を模索し続けて、気づいたら今に至る…という感じです。
(折田侑駿)もともとその映画を撮り始められたときも、どこかで勉強だとか、教わったりだとか…
(宇賀那健一)いや、特には…
(折田侑駿)してない?
(宇賀那健一)してなくて…ただ、俳優部としては現場に入っていたので、最初は本当に見様見真似でやっていて。でもそれだとさすがに限界がきたので、ちょこちょこ制作部の仕事とかは、長編じゃないものとかも含めてやってはいるんですよ。石井裕也組の短編とか。長編もまあ、一応制作部で入っていたりはしていて…しつつ、あとは本当に本を読んで勉強したりって感じですね。
(折田侑駿)なるほど。
(宇賀那健一)だから割と大人になって、一から学びなおした感はあります。
(折田侑駿)その制作部のお仕事とかは、ご自身から手を挙げて入っていかれる感じですか?
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)修行の場として。
(宇賀那健一)僕の場合は芸大とかを出ていないので、何が正しいのか分かんないけど“できちゃう”という状況があったので、それがまあ…あんまり良くないなと思っていて。まあいわゆる、ちゃんとした映画作りというものを学びたいというところから、演出部や制作部をやりましたね。
(折田侑駿)ちょっとだから他の方々と…路線が違うというのは…“自由度”って意味で…
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)監督のフィルモグラフィーを並べてみたときに、感じられるところかなと思ったりしますね。
(宇賀那健一)実は大学の同級生に長久(允)監督がいるんですよ。
(折田侑駿)あ…
(宇賀那健一)長久さんも青学で。学部が全然違うのでその当時は会ったりはしていないんですけど。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)だからわりと青学は…『僕はイエス様が嫌い』(2018)の奥山大史監督もそうですし。
(折田侑駿)そうなんですね。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)そこから商業映画デビューへの流れというのは、それは…一回企画が…
(宇賀那健一)そうですね。頓挫した…
(折田侑駿)頓挫してしまったものが…でもその話がきたというのも“すごいな”って感じなんですけど。
(宇賀那健一)その商業のとき…まあ『黒い暴動❤』が、僕の商業デビュー作にあたるんですけど。『黒い暴動❤』自体は、それも前の話で。僕が最後に撮った自主映画のときに、オーディションを受けにきた女の子が自己PRで、「私は昔、山形でガングロギャルをやっていて、ここに(頬を指しながら)シールを貼って…」って…山形のガングロギャル内でランクがあるらしいんですよ。キティちゃんが頂点みたいで。
(折田侑駿)(笑)
(宇賀那健一)で、2番目がケロッピーなんすよ。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)とか…サンリオ内…とにかくサンリオ内で。それでまた8位くらいとかでカエルとか出てくるんですけど。カエルとカエルじゃん…って思いながら(笑)。なんかそれを取り合って、河原で決闘してたらしいんですよ。
(折田侑駿)はい…。
(宇賀那健一)なんだそれ、と思って。めちゃくちゃ面白いなと。“ガングロギャルってパンクだな”って思いが最初にあって、それを映画化したいって動いてたんですけど…それも最初に「やりたい」って手を挙げてくださった映画会社さんが…まあその当時なかなか動かなくて。それでこう、ずっと諦めずに脚本を書き続けていて。何年かしたときに、ちょうど『黒い暴動❤』に出資をしてくださる方と出会って。「企画が面白い」ってことで。それでやっと動き出した感じでした。
(折田侑駿)それまではかなり、営業というか、回られてたって感じですか?
(宇賀那健一)いや…回ってはないんですけど。とにかく、書き直し続けてましたね。それで、「こういうところがいいんじゃないか」など言ってくれる方のところには話に行ってました。
(折田侑駿)うんうんうん。
(宇賀那健一)でも実質、三社くらいですかね。話したのは。
(折田侑駿)そうなんですね。それが2016年に公開されたと。
(宇賀那健一)はい、そうですね。
(折田侑駿)…すごい…面白いというか。
(宇賀那健一)ま、そうっすね。紆余曲折というか。
(折田侑駿)波乱万丈。面白いですね。そして今回の『転がるビー玉』が、最新作…長編最新作ということで。まあ…ちょっと個人的なところからなんですけど、すごい好きです。
(宇賀那健一)ありがとうございます。
(折田侑駿)…すごい好きな映画で。この映画は、渋谷の取り壊しが決まっている部屋でルームシェアをしている3人の女の子の物語ってことで。個人的に僕はすごく…僕はいま29歳なんですけど。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)上京してきたのが…7年前かな。大学を卒業してすぐ来て。で…重なるところも感じつつ。個人的にはすごく…恥ずかしく観てしまった…というのがすごくあって。それは年齢が近いからなのか、なんなのか、分かんないんですけど。彼女たちが感じていることや経験していることが、すごくリアルな、現代の若者を描いているんじゃないかと思ったところで。で、監督のいままでの作品は、その…リアルという点でいうと、“ちょっと違うな”と僕の中で思っていたので。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)それで最初に、“『転がるビー玉』第一報”みたいなのが出たときとかに、こう…「オシャレ!」とか、「可愛い!」とか単純に思ったんですよ。
(宇賀那健一)まあ、「NYLONさんが作る映画だし」ってとこもありますよね。
(折田侑駿)というのもちょっとあったりしつつ。でも、そう思ってて…可愛いと思ってて。まあたしかに“可愛い”はたくさん詰まってるんですけど、本当に切実な“リアル”が切り取られていて。そこが想像以上にシビア。だからこれまでの作品のように、何か大きな変化をしたりとかって…まあ、観た人がどう捉えるかですけれども。そうですね…すごく普遍的だと思いましたし、すごく好きな映画です。
(宇賀那健一)ありがとうございます。
(折田侑駿)こちらの作品の、企画の経緯を…どう立ち上がっていったのかなどから、お聞きしたいです。
(宇賀那健一)えーと、そうですね。まず2つ、僕の中で撮りたいものがあって。1つが…ここ最近、それこそ『黒い暴動❤』『サラバ静寂』『魔法少年』などを撮ってきたなかで、わりと出演者をワークショップから選んでいて。定期的にやっているわけではないんですけど、映画を撮る前とかに、たまに開催したりしてるんです。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)そこで出会ってきた人たちが、やっぱりすごく…夢を…それはもちろん役者という夢を追いかけて頑張っていて。で、うまくいかないことの方が多いと思うんですけど、それでも自分なりにすごく考えて、もがいていて。僕はその姿が愛おしいなと思ったんですよ。で…僕は何か…彼ら、彼女らに、「大丈夫だよ」ってことを言ってあげたいんですけど、その「大丈夫」って言葉って…なんだろう…「売れるから大丈夫だよ」とか、「きっと希望の監督の作品に出られるから大丈夫だよ」とかじゃなくて。こうやって僕が思っているように、“あなたがもがけばもがくほど、あなたの魅力は増えていっているし、その姿を見ている人は絶対にいるから大丈夫だよ”っていう意味の「大丈夫」を言ってあげたくて。
(折田侑駿)ええ。
(宇賀那健一)そういう、夢に手を伸ばす彼ら彼女らの、美しさを描きたいなというのがまず1つ思っていたところで。もう1つが、渋谷がいま再開発ですごく変わっていて。僕はそれこそ青学出身なんで…まあ、もっと前から、例えば服もそうだし、ライブハウスも映画館もそうですけど、渋谷にすごく育てられたっていう思いが強くて。なおかつ大学も青山で、Vandalismって会社も渋谷にあるんですけど。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)ずっと渋谷の移り変わりみたいなものを見ていて。いま本当に渋谷が変わるタイミング。この場所っていうところ…えーと…新しくなることが良いことだけでもないし、悪いことだけでもないんですけど。この渋谷って街で生まれる何かを記録したいなという思いがすごく強くあったんですよ。この2つを実現するにあたって、どこと組むのが一番いいんだろうと考えていて。僕が行き着いたのがNYLONさんだったんです。というのも、NYLONさんのやっている会社…カエルムってところも渋谷にありますし、NYLON JAPAN自体がずっと打ち出していることって、彼らが求める個性とか美しさみたいなものを、いつだって肯定し続けている雑誌だなとすごく思っていて。それでNYLONさんと組みたいなと思っていたんですよ。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)で、僕はわりと企画の話とかすぐしちゃうタイプなんで、「次の企画にはこういうものを考えていて、NYLONさんとやりたいと思ってるんだ」っていろんなところで言っていたら、たまたまNYLONさんと繋がっている元NYLONモデルの子がいて。「じゃあ紹介するよ」って言われて、この企画を持ってったら、ちょうどNYLONさんの方でも映画をやりたいという思いがあって…
(折田侑駿)へー!すごいタイミング!
(宇賀那健一)それで、その次の年が15周年だから、「じゃあその企画でやろうか」と。たまたまいろんなことが合致して、企画成立に至ったという。
(折田侑駿)めっちゃ…持ってますね。
(宇賀那健一)いや、今回は本当にいろんなことがすごいうまくハマった気がしますね。
(折田侑駿)すごい…。
(宇賀那健一)だから今回に関しては、企画を他のところに持っていくというようなことは一切してなくて。「NYLONさんとやりたい」という僕の想いがあって、企画内容も「こういうものが撮りたい」というものがあって、そういうものが時期も含めて、すごく合致したなという。
(折田侑駿)そこでそのNYLONさんの関わり方というのは、どういうものでした?キャスティングだったり、ロケーションだったり、衣装はもちろんそうだと思うんですけど…
(宇賀那健一)話し合いはするんですけど、基本、任せてくださっていて。
(折田侑駿)あ、そうなんですね。
(宇賀那健一)だから企画も、僕が書いて持っていって、話して、脚本もこっちベースで書いて。ただ、NYLON編集部に務める瑞穂っていう役がいるんで、そのあたりは…「NYLONって実際どんな感じか」といった部分はもちろん取材させていただきましたけど、わりと…まあキャスティングも含めて…オーディションも一緒に見ましたし…どうしてもこう…「何かと組むと、制約があるんじゃないの?」って言われがちなんですけど、そいうことは一切なく、本当に自由にやらせていただきました。
(折田侑駿)あ、そうなんだ。いや、けっこうあるのかなあと…なんだろう…僕も雑誌とか見ていて。その“色”みたいなもの…
(宇賀那健一)そうですね。イメージ的に。
(折田侑駿)それが作品に反映さされているように思ったので。でもそういうわけではないんですね。
(宇賀那健一)そうですね。だから今回スタッフに関しても、僕は映画のスタッフでやりたいということを押し通して。NYLONさんもたぶん、メイクさん、スタイリストさん、スチールの方とか、一緒にやっている方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、全部僕に任せていただいたので…
(折田侑駿)そうなんだ…
(宇賀那健一)まあ、こちらとしてもなんとなく、“イメージ的に、こういうこと”っていうのはもちろん共有しつつではあったんですけど。でもすごく自由にやらせていただきましたね。
(折田侑駿)そのじゃあNYLONさん側との感覚というかセンスみたいなところが、すごく近かったんですかね?宇賀那さんと。
(宇賀那健一)うーん…あ、でも、NYLONの雑誌の描写とかはNYLONのものなんで、そこはこだわられてましたね。
(折田侑駿)なるほどなるほど。今回このキャスティングは…まず3名からお聞きしたいんですけど。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)愛役の吉川愛さん、瑞穂役の萩原みのりさん、恵梨香役の今泉佑唯さんの3名ですね。
(宇賀那健一)萩原さんに関しては…瑞穂役の萩原みのりさんに関していうと、オーディションを行って、それでそこから選んだっていうところで。吉川さんと今泉さんはオファーで出ていただいているんですけど。イメージと、あとは3人のバランスみたいなところはすごく考えていて。やっぱ3人の出自がバラバラなのが芝居に反映されていて、僕は面白いなと。吉川さんは子役の頃からお芝居をされているし、今泉さんはもともとアイドルをやられていて、いまはお芝居をやられている。萩原さんは若い頃からお芝居やられてますけど、インディペンデントの作品にいろいろ出られていて、その出自とかが違うというのが、たぶん芝居のアプローチもそれぞれ違うんだろうなと思っていて。それが結果としてすごく面白かったなと思いますね。
(折田侑駿)はいはいはい。
(宇賀那健一)で、オファーの経緯で言うと、あくまで役ありきだったんで、愛はモデル志望というところだったり、恵梨香はストリートミュージシャンというところもあって。わりと僕は吉川さんのスチールのイメージとかもすごい好きだったし、彼女の持つ…なんていうんですかね…爆発力を秘めているのに、秘めていないような顔をしている感じがすごく好きだったんですよ。お芝居のテイストとして。なのでそこは吉川さんにオファーさせていただいて。今泉さんはそもそもギターをやられていたので、歌うこと自体に対してももちろん抵抗がないでしょうし。あとはいい意味で何をするか分からない感じが、僕はすごくいいなと思っていて。
(折田侑駿)うんうん。
(宇賀那健一)前にやられた舞台とかも僕は拝見していて…
(折田侑駿)『熱海殺人事件』…
(宇賀那健一)そうです。
(折田侑駿)あれは素晴らしかったです。
(宇賀那健一)素晴らしかったですね。なので、それぞれ違う爆発力を持っていて、それは出自が違うからだと思うんですけど。そこがすごい魅力的だなと。萩原さんに関しては完全にオーディションさせていただきましたけど。
(折田侑駿)すっごい素敵なアンサンブルでしたね。萩原さんも最近すごく…
(宇賀那健一)そうですね。もういろいろ出てますね。
(折田侑駿)出られてて、作品ごとに顔も全然違うし。やっぱりすごくお芝居が器用な方だなと。吉川さんも、『虹色デイズ』とかがたしか映画は初めてですよね(吉川愛名義として)。今年(2019年)は、『十二人の死にたい子どもたち』とか出てますけど。…僕の、何かその…人の顔を認識する力が弱いのかもしれないなんて思ったりもするんですけど、何か…顔が安定しない方というか…
(宇賀那健一)うん。
(折田侑駿)なんだろう…いい意味でなんですけど。
(宇賀那健一)でもそれって役者としてはすごい重要なことですよね?
(折田侑駿)と、思っていて。メイクや髪型、衣装の問題もあるとは思うんですけど、毎回「あれ、誰?」「またこれも吉川愛さんだ」みたいなのがあった。そして今泉さんは『熱海殺人事件』…夏にあった…紀伊國屋ホールでの。あのときの、特に内に入っていく演技っていうんですかね?内面に入っていく演技が素晴らしくて。そんな今後も見ていきたい3人が揃っていたので、すごい楽しみにしていて…やったぱり観て良かったなと。
(宇賀那健一)ありがとうございます。
(折田侑駿)それで、ええと…彼女たち3人が中心で、その脇を固めるキャスティングも魅力的です。笠松将さん、大下ヒロトさん、日南響子さん、大野いとさん、神尾楓珠さん…など、最近すごく波に乗ってきている方々だと思うんですけど、そのあたりの方々はどういったかたちでキャスティングされたんでしょうか?
(宇賀那健一)けっこう自分が観ていた作品で、良いなと思っていた人たちにオファーさせていただくことが多くて。例えば笠松くんだったら、まあ『カランコエの花』とかもそうですし、『デイアンドナイト』もそうですね。で、日南さんとかだと『銃』とかもすごい良かったですし、『21世紀の女の子』ももちろん拝見しています。大下くんとかは、わりとプライベートで親交があって…
(折田侑駿)そうなんですね。
(宇賀那健一)それも含めて、ハマるかな…と。そんなイメージがなんとなくできたので、オファーさせていただきましたね。
(折田侑駿)大野さんは?
(宇賀那健一)大野さんは、僕は前から大野さんの芝居が好きなんですよ。三池さんの映画か何かに出られていて、それもすごい好きですし。あと「谷崎潤一郎原案 TANIZAKI TRIBUTE」の『悪魔』(2018)…
(折田侑駿)ああ!藤井道人監督ですね。
(宇賀那健一)それがすごく良くて。吉川さんがモデルを目指す女の子の役で、大野さんが演じるのが“テテ”というカリスマモデルの役なんですけど。この“カリスマ感”を持ってる人って…言葉で“カリスマ”というのは簡単ですけど、けっこう難しいなと思っていて。でも大野さん、やっぱりすごくハマりましたね。
(折田侑駿)いや、すごかったですね。実際ああいう場を見たことはないですけど、そういう感じなんだろうなと。
(宇賀那健一)女性としての怖さみたいなものがありますよね。
(折田侑駿)はい。そして神尾さんは?
(宇賀那健一)神尾さんはずっと…『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019/日本テレビ系)とかもそうですけど、面白い俳優さんだなと思っていて。で、オファーしたら出てくださったんです。神尾くん、本当に面白くて。
(折田侑駿)その…芝居だけじゃなく?
(宇賀那健一)芝居…本人の面白さが芝居に出ているなと思っていて。みんなそうですけど、けっこう…豪華なキャスト陣がワンシーンしか出なかったりするので、また何か違うところでがっつりご一緒したいなあと思う、本当に素晴らしいキャストの方々でした。
(折田侑駿)そうですよね。徳永えりさんだったりとか。あと…中島歩さんとかも、本当にワンシーンしか出ないですけど。実際、撮影でいうと数時間くらい…
(宇賀那健一)そうですね。その2人は数時間くらい。
(折田侑駿)まあ、大西信満さんとかが、ビシッとシメるみたいな感じがあって、すごい面白かったです。だからこのメインの若手俳優陣の3名と、笠松さんだったり大下さんだったりとかが…なんていうんでしょう…こう…すごく端的にハマっているってことなんですけど。なんだろう…ある種こう…系統が…まあ役者さんだからその色に染まろうとするのは当然なんでしょうけど、似たような色というか…を持っている人たちが集まったなと。彼らのいろんな作品を観てて、今回思ったので。そういうのって計算というか、あったんですか?
(宇賀那健一)どうですかね…うーん…このメインの3人に関しては僕の中ではちょっとバラバラにした…あえて噛み合わないようにした意識があって。それ以外は…たしかに統一感を持たせようとした気はしますね。それがどういうことなのかっていうと、NYLONの映画を作るっていう…NYLON側からの制約はないけど、僕の中で“NYLONの映画に出てそうな人”だったり、あとは、それぞれの過去のお芝居を見ていて…もともとホン(脚本)があるので、それに寄り添って統一感が出たのかなとは思いますね。
(折田侑駿)ちょっと、誤解を生むといけないなと思って言わなかったんですけど、“NYLON的”みたいな印象は、すごく感じたんですよね。何かすごく色がハマっているなと思ったメンツでしたね。
(宇賀那健一)まあキャストもそうですけど、メイクさん、スタイリストさんがある程度そっちに誘導してくれた部分はあるなと思ったりもします。
(折田侑駿)それに単純に、みなさん達者な方々が揃ったなと。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)この作品の一番の…一番というか見どころは、この3人の“キャッキャ感”…
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)…しているのが、“目にいい!”というのが1つあると思うんです。その演出面とかはどうだったんですか?
(宇賀那健一)まあ僕もおっさんの歳になってくるんで。何かこう…もちろん脚本はあるんですけど、それ以外の彼女らだからこそ出せる何かはちゃんと刻みつけないといけないなと思っていて。だから事前に「このシーンはアドリブで」って決めているシーンが4シーンくらいあって。なので彼女らがインタビューで「アドリブが多かった」って話しているんですけど、ボリュームからいうと実はそんなになくて。ただアドリブシーンはアドリブばっかりなんですよ。スイカ割りのしーんだったり、コンビニのシーンだったり。まあコンビニのシーンは、実はホンも半分くらいはあるんですけど。で、あとは電気が消えるシーン。
(折田侑駿)ああ…
(宇賀那健一)あと、最初の食卓のご飯食べたあとのところとかは、全部アドリブにしてて。そこは彼女らの瑞々しさみたいなものを刻みつけようと完全に決めていたので…そこは完全なアドリブですね。
(折田侑駿)じゃあ…カメラが回っていないときでもああいう感じ…
(宇賀那健一)そうですね。本当に仲が良くて。最初は全員すごい人見知りだったんですよ。
(折田侑駿)あ、そうなんですか。
(宇賀那健一)めちゃくちゃ人見知りで。僕こんなにクランクイン前に心配することないんですけど、すごい心配してて。これ本当にヤバいなと。しかも仲良くないとヤバいじゃないですか。
(折田侑駿)うんうんうん。
(宇賀那健一)だからすごい心配してたんですけど、始まったら一気に打ち解けて。だからまあ、良かったんですけど。いまは本当にめちゃくちゃ仲良いです。
(折田侑駿)そうなんですね。
(宇賀那健一)取材とかしてもらっていると、取材なのか、遊びに来てるのか。
(折田侑駿)(笑)
(宇賀那健一)いい意味で分かんないくらいに仲が良くて。
(折田侑駿)そうなんだ。キャッキャしてる感じがすごい良かったんで、そこがどうだったのかなというのが気になっていました。特に、それこそその、あえて噛み合わない感じで選ばれたってところもあると思うんですけど…それが、この3人じゃなければ、また全然違う映画だったんだろうなっていうことも思わせてくれる3人だなと。
(宇賀那健一)たぶんアドリブに関する考え方も3人とも違うなあと。吉川さんは、1つのシーンごとに何を求められているのかを察知する能力がすごくあるんですよね。それに向かってのアドリブをしようとするし。で、萩原さんは、うまくノイズを残すというか。収まらないようなものをバッと出してくれて。今泉さんはバッと天然的なものを出してくれるんですよ。
(折田侑駿)そうなんだ。
(宇賀那健一)だから今泉さんがバッと出したものに対して、他の2人が変わっていってて。テイクを重ねるごとに毎回違うんです。それがすごく良いなと思って。アドリブって、ともすると固まっちゃう…と、すごくつまんなくなっちゃう。アドリブである意味があんまりないなと思っちゃうんですけど、何かそれが良い意味で壊れてて。また周りが、自分たちのキャラクターもありつつ、盛り上げていくっていう。その3人のバランスがすごくハマったなっていう気がしますね。
(折田侑駿)本当に3人が、瑞々しいというか、生々しいというか。素敵ですよね。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)脚本通りだけじゃなくて、そのアドリブのシーンがだいたい4箇所くらいあると。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)じゃあ、「ここは脚本でいきます」というところでも、ポーンと何か生まれたりとかっていうのはあったりしたんですか?現場で。
(宇賀那健一)まあ基本…僕もホン書いてるんで…人によるとも思うんですけど、僕は全然アドリブ言っていいよってタイプだったんで。とはいえ、みんなあんまり言わないんですよ。まあこれは『転がるビー玉』にかぎったことではなくて。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)なんですけど、まあ一応「アドリブを受け入れる体勢がこっちにはあるよ」っていう話は最初にしていて。ただスイカ割りのシーンなんかは“スイカ割りをしている”ってト書きに書いてあるだけだったりとか。
(折田侑駿)脚本を書かれる方や監督によっては、一字一句変えるなという人もいますよね。
(宇賀那健一)いますね。だからもしかすると今後は、そういった作品をやるかもしれないですけど。まあ少なくとも『転がるビー玉』はうまくハマりきらない方が映画として面白いかなと思ったんで。
(折田侑駿)本当に“自由度が髙い”と感じました。3人が画面から出てきそうっていう。
(宇賀那健一)ええ。
(折田侑駿)この作品で面白かったのが、一番最初に言った“リアル”ってところなんですけど。映画内で描かれる“華やかさ”…まあ3人とも、外から見たら華やかに見えるんだけれども…。モデル、ミュージシャン、オシャレな雑誌の編集部っていう仕事だと、そういうふうに見られるだろうし…見る人が多いだろうなと。けれども、彼女たちの裏側まで描いている…というより、そっちがメインになっているところが、すごいリアルだなと。そう思っていて。…監督は、彼女たちに対してどういう立ち位置なんでしょうか?それこそさっきおっしゃっていたように、オーディションで「大丈夫だよ」って言ってあげたいっていうのがあったというのが「ああ、なるほど」と思ったんですけど。
(宇賀那健一)そうですね。うーん…見ている人がいることって、すごく幸せなことだと思うんですよね。でもたぶん、渦中の人間って見ている人がいることに気づきにくいじゃないですか。要は自分だけが抱えていると思ってしまいがちだし、自分が悪いと、逆にいうと追い込んでしまったりするし。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)でも何かそれを…頑張っている姿って…だから僕もある種、観客と同じ目線というか。彼女らに何もすることはできない…背中を押してあげることすらできないのかもしれないけど、ただそれを…あなたたちの魅力を分かっている人がいるよっていう立ち位置でいようと、そうずっと思っていましたね。だから本当に僕はこの3人のことを、少なくとも…いま観ている人がいない状況で、誰よりも愛しいと思っているし、誰よりも肯定したいと思っているけど、何もできないことも分かっているというか。だからあくまで、そばにいる人間という立ち位置で、肯定的な目線を送る人という意味でそばにいようと努めていたし、まあそういう作品かなと思いますね。
(折田侑駿)宇賀那さんは監督をされたり、役者もされたり、だから周りにも多い…ですよね?…僕も周りに多くて。映画を撮っている友達だったり、モデルはそんなにいないけど…ミュージシャンとか。それこそ僕もルームシェアしてたことがあって。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)4人でルームシェアしてて、僕以外の3人がバンドマンで。いまメジャーで売れてきてて…みたいな…すごい面白い感じなんですけど。だからその…いまだけを見たら華やかに見えるけれど、苦労してるところとか…まあ人によっては腐ってしまうときがあったりもすると思うんです。まあただ、彼女たちの場合はまだ20歳だったりする…っていうのが、29歳の僕からすると、最近のことというか、いまだにそういう感覚を抱えているし。人から見ると「いい感じじゃん」って言われても、自分の中では「どうなんだろう…」っていう。だからその感覚が、監督がいま30…
(宇賀那健一)35歳ですね。
(折田侑駿)だからなんていうんだろう…これはもし悪かったらカットして欲しいんですけど…。年配の監督とかが映画を撮られてて…若い子の映画を撮られてて。キラキラ映画とかはまたある種、別だとは思うんです。けどそうじゃないもので、“これがいまの若者のリアル”みたいな感覚を出してるのが…「うーん、何かズレてねえ?」みたいな。「いまの若者の感覚とはまったく違うんですよね」みたいなことを、ここ数年、何作か観てて感じています。それが久々に…まあ歳が近いからというのもあるとは思うんですけど…。といったことを感じた作品でした。
(宇賀那健一)まあでも僕も、最終的には“分からない”っていう前提で作っているのが大きいかなとは思いますね。やっぱ分かろうとしても無理じゃないですか。これは全然ポジティブな意味でなんですけど、それはもっというと同じ年代だろうが、同じような出自をおってようが、やっぱり人によって考え方や状況は違うし、分からないことも分からないこととしておいておくこともすごく大事だし、分からない人も全然いいじゃないですか。自分の範疇を超えた人がいても全然いいと僕は思うので、分からないことをあくまで分からないこととして描いたのが、まあ1つ大きいところかもしれないですね。あとけっこうセリフに関しては、周りで本当に言われた人がいることばっかり…
(折田侑駿)絶対そうですよね。僕も何か聞いたことがあるような言葉がすごく多かったです。
(宇賀那健一)で、やっぱり今回すごくやりたかったのが、他人から見たら「全然大したことないじゃん」ってことでも、本人にとっては辛いことってあるじゃないですか。周りからしたら褒め言葉に聞こえることも、本人からしたら辛かったりとか。何かそういうことの積み重ねって、日々起こると思うんですよね。そこを、もちろん全部は無理かもしれないけど、掬い上げていきたいなという思いがすごくありますね。だからある種、なんでもない話なんですよ、本当に。でも彼女らにとっては辛いことというか。日々起こるそういうことを、なんていうんですかね…えー…分かったふりをしないで描きたいなと思いました。
(折田侑駿)そこはやっぱり監督が、ご自身も俳優でもあるからというところもあるんですかね。表現者という意味での。
(宇賀那健一)まあ、それもあるかもしれないですね。それこそ主人公の愛のオーディションとかのことに関していうと、僕も過去に通ってきた道ではありますし。あとは…そうですね…僕が俳優部だからこそ、俳優部から相談されることとかもありますし、そのへんはすごく活きてきたかなと思いますね。
(折田侑駿)似たような職業や、近い年齢だったり…年齢というよりは、まあ同じような環境にいる人は、身につまされるというか。こう…「うっ」とくる作品ですよね。この感じ(作品ポスターを指しながら)からはちょっと想像…される方もいるかもしれないですけど…。それを、なんだろう…年齢とか職業とか関係なく、彼女たちはたまたま特殊な、華やかな世界にいるけれど、そうじゃないところでもある種の“生きづらさ”というか、他者からの視線、評価…とかに、苦しんでいる人がいるかもしれない。それは年齢は関係ないかもしれない。それが僕はもう山中(崇)さんの…セリフは1つもないですよね?
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)あそこでバーっと泣いてしまったんです。素晴らしかった。
(宇賀那健一)やっぱり何かそれこそ、山中さんはサラリーマンの役で、何もセリフはないし…
(折田侑駿)設定もこっち(観客)は分からないですよね。
(宇賀那健一)裏設定は山中さんと決めていて。僕もそれこそ、一時期は夢を諦めて…諦めてはいなかったですけど…映画から離れて、サラリーマンやってた時期があるので。そういう想いは、あそこに込められたらなと思っていました。
(折田侑駿)だからけっこう…あそこのシーンは何か大きなアクションが起きちゃうのかなと想像しましたけれども、そうではない。
(宇賀那健一)そうですね。今回は、“逆ロードムービー”を撮りたいなっていうのをずっと思っていて。
(折田侑駿)逆ロードムービー…?
(宇賀那健一)普通ロードムービーってこう…主人公たちが移動していくなかで、何かしら成長して、ゴールを迎えるじゃないですか?
(折田侑駿)はいはい。
(宇賀那健一)じゃなくて彼女らの場合は、周りが変わっていく…再開発で渋谷がどんどん変わっていくなかで、人々は行き交って、過ぎ去っていくなか、どこにも行けずにいて。でもどこにも行けないからこそ、何かしらを学ぶことができる。要は、全員が進むことなんてできないじゃないですか。そんな簡単に進むことができないなかで、「そういうことがあってもいいんだよ」ってことを描きたいなと思っていて。そのなかの…さっき言ったように、ワンシーンしか出ない人が多いというのは、過ぎ去っていく人がいるということを描きたかったんですよ。オーディションで何回か会って、それ以降会わない人だとか。あとは、ミュージシャンとして演奏してるところに来てくれたけど、急に来なくなる人とか。過ぎ去っていって、その人の背景までは分からないけれど、きっとその人にも物語があって、そういう人を見ることによって、何かしら…本当に些細な成長かもしれないですけど。…が、あってもいいんじゃないかと。そういったことを今回すごく意識して作りましたね。
(折田侑駿)逆ロードムービー…面白いですし、いい言葉だなと思いました。たしかに今泉さんが歌っているところを山中さんが度々見に来ているというシーンが何度かあって、彼女が、なんだろう…みんな(他の2人)に、「お客さんが来てくれた」とか言っているわけではないから、観客しか知らないわけですよね。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)あの関係性を。だから彼女が、何を思ってあそこで歌っているかは分からないけれども、やっぱりその、“あなたを見てくれている人は、ここにいるよ”っていうのは、あそこからひしひしと感じました。だからこう俯瞰して見たときに、やっぱり自分たちにも、そういう人たちがいるのかもしれないということを改めて気付かされました。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)すごく俗な言い方になりますが、“オシャレ映画!”みたいな感じなんだと思っちゃってましたし、だけども、年齢層、職業など関係なく、幅広い射程を持った作品だと思います。
(宇賀那健一)そうなんですよね。“オシャレ映画!”だと思われることは、NYLONさんと組む時点である程度は覚悟していたので、それを良い意味で裏切りたいなとは思ってましたね。
(折田侑駿)ええ。…この主な舞台になるのがルームシェア、共同生活しているところで、そこはもう取り壊しが決まっているということですけど。経験とかあります?
(宇賀那健一)実は僕、引っ越し先を探していたときに…実際にあったんですよ。期間限定だからこそ、すごく安く住める場所が。実在する場所があって。彼女らが住んでいる場所の設定もそこにしてるんですよ。もういまそこは取り壊されちゃって、違うマンションが立ってるんですけど、一応設定上の彼女らの向かっていくところは僕の見ていた場所で。そこは本当に古いから、床が曲がってて。で、実際にビー玉とか転がしたら、途中で止まって、片方に向かっていくような…そんなすごく古い場所だったんですけど、周りから工事の音もしていて。何かここでの共同生活の話を撮りたいなというのが、1つのきっかけではあったかもしれないですね。
(折田侑駿)うんうん。
(宇賀那健一)渋谷の工事って、要は“新しく変わっていくこと”の象徴じゃないですか。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)彼女らも期間限定の暮らしっていうのは最初から分かっているわけで。そこに住んでいるのって、けっこうキツイなと思ったんですよ。周りから工事の音がして、どんどん変わっていて。で、自分らは楽しくご飯を食べるふりはしているけど、実際、いつか出ていかなければいけない。いつかというか、ある程度の期間で出ていかなければいけないことは、絶対に頭の隅にある。だけど、楽しく生活するふりをしている。これは住む場所だけの話ではなくて、そういうことってあったりするじゃないですか。夢を追うのに、なんとなく親に期限を言って、夢を追っていて。だけど、気づかないふりをして頑張っているけども、ずっと頭の隅のどこかに残っているとか。そういうものを場所として象徴づけるために、ああいう設定になりましたね。
(折田侑駿)なるほど。あそこはいまも実際にあるんですか?
(宇賀那健一)あそこの場所自体はある…あれ実際には全然違うスタジオなんですよ。もうがらんどうの会議室みたいな。
(折田侑駿)え、そうなんですね。じゃあ、外から萩原さんが見上げるショットがあるじゃないですか?あれはまた別で繋げたと?
(宇賀那健一)あそこも同じ場所なんです。会議室のような何もないスタジオを見上げているんですよ(笑)
(折田侑駿)すごいグッとくるシーンですが、そうなんですね(笑)
(宇賀那健一)実は『転がるビー玉』はすごい順調で、撮影が押した日もほぼなくて、追加で4シーン撮っているくらいすごい順調だったんですけど、唯一トラブルがあったとしたら、撮影の1週間前に、もともと予定していたロケ地が…その3人の住む家が使えなくなって。
(折田侑駿)え…
(宇賀那健一)そうなんですよ。で、急遽…
(折田侑駿)それはキツイ…。
(宇賀那健一)何もない場所に美術部が作り込んで、3人の住む部屋を作ったっていう。あれはけっこう…ま、僕がじゃないですけど、美術部がすごい大変だったなと。
(折田侑駿)そうなんだ…。え、だってあれ、作り込みがすごい細かいですよね。もともと劇中で使われている部屋って、壁がない部屋というか、仕切りがない…
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)そんな部屋じゃないですか。もともとはどうだったんですか?
(宇賀那健一)あ、あれより狭いんですけど、もともとそういう設定ではありました。
(折田侑駿)やっぱりその…境界線がないというか。
(宇賀那健一)そうなんですよ。何かやっぱり、物が侵食してく様…例えば、部屋の中でも設定があって。愛の場所はここ、瑞穂の場所はここ、恵梨香の場所はここ…だけど瑞穂はだらしないから、どんどん自分のものを他の人のところに置いていくでしょ、とか。いろいろ決めてて。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)そういうところは、事前に決めてはいましたね。
(折田侑駿)あの部屋の、ちっちゃな空間というか…その仲良し3人組の共同体が住んでいる場所ですけど、あれがこう、仕切りがないことによって…なんていうのかな…それこそ渋谷だったりとか、ある種の縮図的なものではあるのかなと。実際、仲良しに見えるけれど、みんな抱えているものはあるし、それは劇中のセリフにも出てきますけど、それを飲み込みつつ、みんな生活している。そんなことを感じたりしました。
(宇賀那健一)部屋はそうですね。すごく象徴できたし、たぶん3人も、あの部屋に入ってすごくやりやすくなったんじゃないかなと。わりと美術部と、「○○はこういう音楽が好きだ」「こういうもの好きだ」など話し合ったので、たぶんそれぞれのパーソナルな部分も部屋に入ってグッと落とし込めただろうし、彼女らにとっても部屋の存在はすごく大きかったんじゃないかなと思います。
(折田侑駿)撮影日数はどれくらいだったんですか?
(宇賀那健一)15日ですかね。
(折田侑駿)2週間ちょっと。彼女たち3人はほぼ毎日一緒に過ごしていたんですか?15日間。
(宇賀那健一)いや、例えば、瑞穂と啓介のシーンを撮る日は、愛と恵梨香はなかったりするし。例えば恵梨香とサラリーマンのシーンでは他の2人はなかったりしたので、意外とバラけてはいましたね。まあ、部屋のシーンはずっと一緒ですけど。
(折田侑駿)何か部屋のシーンの撮影が続いた後に、1人のシーンがあったりすると、寂しくなったり…
(宇賀那健一)たぶんあると思いますよ。
(折田侑駿)それはありそうですよね。
(宇賀那健一)あと、音の仕上げとかでは、部屋の…僕、工事の音はかなり意識してつけていて。普通だとあんなに聞こえないようなものなんですけど。
(折田侑駿)ちょっとヤバいくらい…(笑)
(宇賀那健一)そうそう、そうなんですよ。でも僕が前に住んでいた家も実際そうだったんです。そこはある種…僕が撮ってきた映画って、『黒い暴動❤』は“ガングロギャル”、『サラバ静寂』は“音楽が禁止された世界”、『魔法少年』は“童貞が魔法使いになる話”で、わりと突飛な設定の中でやってて。でも突飛な設定だと、どんだけリアルにやれるかが大事だと思ってて。今回は逆に、部屋の中にいるときはちょっとファンタジーにしようと思って工事の音を上げて。まああと、環境音…そうですね、渋谷であることとか、街なかにいることってすごい大事なことだと思ったので、恵梨香の演奏シーンとかも、普通だったらもっと演奏の音を上げるんですけど、わりと人混みの音を上げたりして。
(折田侑駿)うーん。たしかにたしかに。
(宇賀那健一)そのへんのバランスはすごく意識して作りました。
(折田侑駿)あそこはあれですよね。宮下公園の前の歩道橋。
(宇賀那健一)そうですそうです。
(折田侑駿)あの近くで僕はバイトしてたので。
(宇賀那健一)ああ、そうですか!けっこう工事中の場所を映したいという思いがあって。だから宮下公園も…この間ちょうど、この作品の取材で行ってきたんですけど、全然いまは工事の場所も変わっているし。それこそパルコもチラッと映っているんですけど、もうパルコも出来上がっているし。7月に撮影したんで、まだ半年経ってないんですけど、もう渋谷は本当に変わったなと、すごく思います。
(折田侑駿)たしかにたしかに。だから今泉さんと山中さんのツーショットを…2人越しの工事現場…あそこらへんもグッと込み上げてくるものがあったりしたんですけど。
(宇賀那健一)たぶんいま、公開のタイミングで観ていただくのと、また1年後とか、5年後、10年後に見ていただくので、全然思いは変わるんだろうなとすごく思います。渋谷の風景も全然違うでしょうし。
(折田侑駿)だから物語もそうですけど、“変わっていく街”を残しているという意味でも貴重ですよね。最近だと『わたしは光をにぎっている』(2019)もそうでしたけど。
(宇賀那健一)あと地味に、映画館オマージュを勝手にしていて。今泉さんが演奏しているところはヒューマントラストシネマ渋谷前で。
(折田侑駿)はいはいはい。
(宇賀那健一)で、3人が風船を手放すところがあるんですけど、あそこはTOHOシネマズ 渋谷前で。今泉さんが歌詞を書き出すシーンは、ホワイトシネクイント前なんですよ。で、3人が帰っている道は、アップリンク裏。
(折田侑駿)(笑)
(宇賀那健一)僕の映画館愛を、勝手にやっているという。
(折田侑駿)そっかそっかそっか(笑)
(宇賀那健一)香盤表には、“アップリンク裏”とか、“ヒュートラ前”とか書いてましたね。
(折田侑駿)そうなんですね。アップリンクだけは、ちょっと気づかなかったです。
(宇賀那健一)そう、真裏は厳しかったんで、もうちょっと先に行ったんですけど。
(折田侑駿)この…音にすごくこだわられたという話ですけど、彼女たち3人の世界の外側の音も印象的ではあったんですけど、やっぱり3人の生活音というのはすごく好きで。特に一番グッときたのは、先ほど話した、萩原さん演じる瑞穂が、外から帰ってきて、疲れて…疲れてというか、疲弊して帰ってきたところ、部屋を見上げたときに、今泉さん演じる恵梨香が歌っているという、あのシーン。あそこがすごく好きで。その…やっぱり一緒にいれば疎ましいこともあるだろうし、楽しいこともあるだろうけれども、やっぱりふとした瞬間に誰かがいてくれる。それは部屋にかぎったことじゃなくて。まあ本当に渋谷の街とか、隣にいる誰かだったりとかかもしれないんですけど。何かそういう瞬間が収められているなあというのをすごく感じました。
(宇賀那健一)そうですね。部屋に誰かいるのって、おっしゃられた通り、すごく良いことだなと思いますし、「ただいま」「おかえり」「いただきます」「ごちそうさま」を言い合えるのって幸せなことだなと。その瞬間は映したいと思ってました。
(折田侑駿)それこそ、“ひとりじゃない”、“ここにいるよ”、“ここにいていいんだよ”…最近だと『殺さない彼と死なない彼女』(2019)がありましたけど、あれすごく好きで。あの作品に感じたことを、この作品にも強く感じて。で、3人で「ギュッてしよ」って…あれが一番好きなセリフです。僕は友達とかと会うたびに、すぐにハグをしてしまうんですけど。
(宇賀那健一)(笑)やっぱりだから、“触れる”って大事ですよね。だからまあ、ここまでのシーンでは触れるってことがなかったんで。“体温を感じる”とか、肌の感触を感じるとか。それがうまく出ればすごくいいなと。僕もあそこのシーンはすごく好きですね。
(折田侑駿)男女の“触れる”とはまったく違うし。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)女性同士の…なんだろう…もっとこう、根源的な人間同士の温もりみたいなものをあそこのシーンに感じました。
(宇賀那健一)そういう、感覚…感覚っていうのは“感触”だとか“匂い”とかもそうですけど、そういう部分を感じさせたい。彼女らそれぞれの存在をちゃんと感じさせるような映像にしたいというのはすごく意識してましたね。
(折田侑駿)はい。…で、宇賀那監督の作品を並べてみたときに、“変化を求める若者”というのが主題だなと思ったんですけど。それが今作がやっぱり一番リアルというか、現実的…まあ彼女たちが…これからお客さんは観ることになるわけですけど、実際に彼女たちが変わったのかどうかが分からないところも、まさに現実的。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)それこそ、クラブで知り合った人、映画館で隣り合ってちょっと喋った人とかが、その後どう変わっていったのかはもちろん分からないわけで。そういうところも現実的だと思ったんですけど…余韻がすごく残る。だからずっとこう、考えさせられるところがありますね。
(宇賀那健一)だからモノとしての…モノという言い方はちょっとおかしいかもしれないですけど、明確に変わったことって、曲ができたことだけなんですよね。
(折田侑駿)うんうんうん。
(宇賀那健一)それが唯一の、時系列を表すものにはしようと思っていて。それが別に良いことかは分からないじゃないですか。ただ、何かしら時間が流れていて、何かしら彼女らが葛藤した証が残るものにはしたかった。だからそうですね。結果どうなったかは分からないけれど、まあある種、“曲が残った”というか。彼女らの住んでいたところで生まれた曲がある、というのは最初から決めていて。
(折田侑駿)曲もだし、瑞穂も瑞穂で、自分で意思決定というか、選択をしますし。
(宇賀那健一)そうですね。みんな些細な選択はしますし。
(折田侑駿)愛もあれはある種、何か変化なのかなと…悪い変化ではないんじゃないかなと思いました。そういうふうに捉えられるなと。
(宇賀那健一)実はラストカットは、全員…『黒い暴動❤』のラストカットで、主人公を演じる馬場ふみかさんがカメラを見るというところで終わっていて。で、『サラバ静寂』では、最後が“血の海”で画面が覆い尽くされて終わっていく。『魔法少年』はそれも最後に主人公がカメラを見て終わっているんですよ。今回の『転がるビー玉』でも、3人がカメラを見るというカットを実は撮っていて。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)“完全に変化した”というカットを撮っているんですよ。だけど、そうじゃなくても伝わるなと思って、バッサリ切ったんですよ。それは3人の芝居が、本当にささやかかもしれないけど、変化を映し出すというか、芝居で出してくれたので、もうそれでバッサリ切りましたね。
(折田侑駿)そうなんですね。個人的には今回の本編のあのラスト、すごい好きですね。最後に3人で盛り上がって、何もない部屋…まあ、部屋が一番象徴していますよね。変化という意味では。完全に無くなってしまうというのが。
(宇賀那健一)はい、そうですね。
(折田侑駿)…この流れで、いま絶賛公開中ということで、『魔法少年』にも触れたいんですけど。公開館もいま、広がりつつあると。
(宇賀那健一)そうです。1月からシネマ・ロサとか、2月に宇都宮とかでやります。
(折田侑駿)あっちも…あっちはあからさまな変化を求める話ですけど。僕はちょっと劇場で見逃してて、『転がるビー玉』を観て、その後に『魔法少年』を観たんです。…まあかなり面食らってしまって(笑)
(宇賀那健一)(笑)
(折田侑駿)だから監督の幅の広さ…興味の幅の広さがすごいなと。どういうものから影響を受けているんですか?何を考えているのか(笑)
(宇賀那健一)何を考えているんですかね(笑)どういうものから…
(折田侑駿)すごい、こういう(『転がるビー玉』)ようなオシャレな感じもできちゃうし、ああいう(『魔法少年』)…「アホだな」っていうのも…(笑)
(宇賀那健一)分かんないですけど、僕、映画は雑食なんですよ。本当に何でも観るんです。ホラー・コメディとかも好きだし。わりと僕は、『魔法少年』はホラー・コメディだと思っているんですけど。『転がるビー玉』みたいな映画も好きだし。
(折田侑駿)うん。
(宇賀那健一)だからやりたいことは本当にいっぱいあるし、試したいこともいっぱいあって。で、『魔法少年』である種デフォルメしたものは一回やりきったんですよね。逆に言うと、『魔法少年』がなかったら、僕は『転がるビー玉』を撮っていないと思います。毎回、同じテンションで作っているつもりなんですけど、どっちかというと、周りに驚かれるという。
(折田侑駿)あれを撮られたのはいつ頃ですか?まあ公開タイミングは近いですが。
(宇賀那健一)『転がるビー玉』の、ちょうど1年前なんですよ。
(折田侑駿)あ、けっこう前…
(宇賀那健一)去年の7月に撮影してて、今年の7月に『転がるビー玉』を撮ったので。
(折田侑駿)こっち(『転がるビー玉』)がむしろ早いという感じなんですね。公開が。
(宇賀那健一)そうですね。ちょっとその…15周年記念映画ということもあったので。15周年度中に公開しないといけないというところがあって。『魔法少年』はCGとかがあるので、けっこうポスプロに時間がかかっちゃったって感じですね。
(折田侑駿)じゃあまあその…筋書きでいうと、“30歳まで童貞でいたら、魔法使いになる”という。…そういうすごいお話なんですけど…。だから『魔法少年』はある種、すごく男性目線的だなと感じたので。この振れ幅がやっぱり違うから…なんていうんでしょう…職人的に撮られているというか…
(宇賀那健一)いやでも、全部、自分企画で自分脚本なんですよ。
(折田侑駿)ああ。
(宇賀那健一)だから…いままでの企画も全部自分から出してるんですよ。
(折田侑駿)そのタイミングごとに興味が…
(宇賀那健一)だから1つ何かをやると、違うことをやりたくなるのかもしれないですね。一回全部使い果たして。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)でも何か共通しているのが、『魔法少年』はそこまでじゃないですけど、音楽モノだなと僕は思っていて。
(折田侑駿)ええ。。
(宇賀那健一)『黒い暴動❤』という映画は、“ガングロギャルはパンクだ”っていうテーマで、「白い暴動」っていう“ザ・クラッシュ”の曲があるんですけど。それをパロったというか。“日本であのとき生まれたパンクは、ギャルだった”というテーマで作っていて。『サラバ静寂』は、まさに音楽が禁止された世界の話で。『魔法少年』はどっちかっていうと、劇伴…映画音楽という意味で盛り込みまくった。ええと、ジョン・ウィリアムズみたいな大作っぽい音楽もすごくかけてやっていて。『転がるビー玉』も、ローリング・ストーンズから取っているので。まあ、“転がる石ころ”…でもない。でも、宝石にもなれない…そんな間にいる子たち。で、先ほどお話しした、1つ起こる大きな出来事というのが、曲ができることだったりするので。それもまさにローリング・ストーンズの…まあゴダールが撮った『ワン・プラス・ワン』(1968)とか。あれも「悪魔を憐れむ歌」ができるまでの話…スタジオレコーディングしているのをずっとかけているだけの話なので。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)だから曲というか、音楽というのは自分の中で…何かしらあるかなと、ずっと思ってますね。
(折田侑駿)音楽はもともとかなり…
(宇賀那健一)好きでしたね。そんなにめちゃめちゃ詳しいとかじゃないですけど。だから今回も…脚本を書いているときにずっときのこ帝国の曲を聴いていて。そこから佐藤千亜妃さんにオファーさせていただいたんですけど。
(折田侑駿)これは僕、すごく気になってて。
(宇賀那健一)はい。
(折田侑駿)最後に…やってぱり恵梨香が歌うんじゃないかなと思っていたので。
(宇賀那健一)うん。
(折田侑駿)でも佐藤さんだったんで…。そのへんはどうだったんでしょう?
(宇賀那健一)あのう…“映画としての終わり”にしたかったんですよ。だから、ある種…突き放したかったというか。まあ、よくあるパターンじゃないですか。恵梨香が…劇中の人物が歌というのは。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)っていうことよりも、そこでもう物語は終わりにして、映画としてのふっと“引いた目線”に戻したかったというのがありますね。
(折田侑駿)そうか。はい…腑に落ちました。いや…なんでなんだろう、なんで彼女に歌ってもらわなかったんだろうとすごく思っていたので。でもたぶんこれって、僕が彼女たちに寄り添い過ぎていたからなのかもしれない。
(宇賀那健一)うん。
(折田侑駿)映画が終わって、エンドロールが流れていても…けっきょく離れられなかったのかもしれないです。でも、捉え方によっては…“ああ、そっちなのか”と。
(宇賀那健一)そうですね。佐藤さんが今回、劇伴も作ってくれていて。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)で、僕、最初すごい曲数…すごいってことはないのか…。それを半分くらい削って。曲、すごい良かったんですよ。めちゃくちゃ良くて。でもこれ、観にくい方がいいなと思って。『転がるビー玉』に関しては。だから冒頭から50分くらいまでは、ほぼ音楽がかからないんですよね、実は。まあ、恵梨香の曲はもちろんあるんですけど。そこまでは音楽を使わず。けっこう観づらい仕様にしていて。だからそういう意味での音楽にも、ある種こだわった部分ではありますね。
(折田侑駿)でも、彼女たち3人のテンポ感が音楽的ではありますよね。
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)…ちょっとまた『魔法少年』の話に戻ります…このキャスティングはどういう…事務所が一緒なんですよね?
(宇賀那健一)そうですね。前野(朋哉)くんも、芹澤(興人)さんとかも…
(折田侑駿)長く一緒におられる…
(宇賀那健一)はい。でもそれは特に関係なく、あの企画を思いついたときに浮かんだのが前野くんと芹沢さんの顔だったんです。なので、うちの事務所からその2人を筆頭に、たくさん出ていますけど、特に縛りはまったくなく。それこそワークショップの参加者からも30人くらい出ていますし。あれはあれで好き勝手やった映画ですね。
(折田侑駿)今回その…NYLONさんと組んでいながらも、基本的に監督に任されたという話でしたけど、とはいえやっぱり、どこかと組んでいるのと、『魔法少年』みたいに監督のある種の…なんだろう…実権が強いというか…そういう場では、違ったりしますか?
(宇賀那健一)いや、それはまったくなかったですね。NYLONさんが、すごくクリエイティブを尊重してくれたからだと思うんですけど。これがまた別のところだったら、違うと思うんですよ。
(折田侑駿)はい。
(宇賀那健一)だから僕も過去に、VP(ビデオパッケージ)とか撮ったことがあるんですよ。会社用の。やっぱりいろいろ制約あるし、大変だなと思ったんですけど、今回は一切そういうのはなく…まあ話し合いはするんですけど。それに報告もするし、相談しました。だけど、「映画として良いものを選んでください」と毎回言ってくださって。それはありがたかったし、逆にそうじゃなければ大変だっただろうなと思います。
(折田侑駿)なるほど。
(宇賀那健一)本来あるべき姿でいさせてくれた、という感じですね。
(折田侑駿)この物語が成立したこともそうですし、この映画が出来上がったということもそうですけど、すごくいまの若い人たちのことを信じてくれる大人がいるんだなと、希望になりました。観ていて。
(宇賀那健一)ええ。
(折田侑駿)まあ…そういう方もいっぱいいるんでしょうけど。良い方も(笑)
(宇賀那健一)うん。でも映画が…映画ってどうしても映画の中で完結しがちですけど、こうやって例えばNYLONだと…雑誌とかと組んで何かをしていくとか、そういう可能性もいろいろある気がしますね。
(折田侑駿)広がりますよね。それこそ公開劇場もどんどん広がっているということですけど…個人的には渋谷で観ていただきたいと(笑)
(宇賀那健一)そうですね。
(折田侑駿)で、ちょっとこう…聖地巡礼的な感じで行くと楽しく、切なく、良いんじゃないかなと思ったり。
(宇賀那健一)劇中にも、まだ工事前の…いや工事中の姿が映っているので、ビフォー・アフターじゃないですけど(笑)
(折田侑駿)そうですよね。はい、公開が楽しみです。じゃあ、今日はこのへんで。
(宇賀那健一)ありがとうございました。
(折田侑駿)番組を楽しんでいただけた方は、「#活弁シネマ倶楽部」で投稿をお願いします。活弁シネマ倶楽部のTwitterアカウントもありますので、そちらの方もぜひフォローしてください。それでは、今回はここまでです。本日のゲストは『転がるビー玉』の宇賀那健一監督でした。ありがとうございました。
(宇賀那健一)ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?