リリースしました

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アルバム「おもいでの街」曲目
・想い出の街
・夜を歩く
・透明な男の子
・想い出になろう!
・素晴らしい人生
・夜を取り戻せ!
・#ラブソング
・彼者誰
・別れ話
全9曲

当初描きたかったテーマは「カミングアウトしなかった、できなかった人」でした。そこから考えを掘り下げていったら段々と「同性愛者自身が抱いている同性愛に対する差別意識と対峙する」ことになりました。カミングアウトができなくなってしまったことは、すなわち、本人が同性愛に対する差別意識を強く抱いていることの表れだと考えたためです。これらのテーマを描き切るために選択したストーリーは後述します。
私のバックグラウンドの話をします。私の両親は同性愛に対して明確な差別意識を持っているタイプの人で、私自身も幼少からそういった類いの思想を刷り込まれながら大人になったような気がします。テレビにおすぎとピーコが出てくるたびに「この人たちは〜…」とつらつらといかにオカマという存在が不快で害を及ぼすのかという説明をされたりとか。大人になった今でこそ、親にもカミングアウトをして(ちょっと大変でしたが)、なぜか新宿二丁目系シンガーソングライターということをやっているのですが…。しかし、両親には新宿二丁目系シンガーソングライターという音楽をやっている、とまで話をしていません。何か音楽をやっているっぽいな、とはわかっていると思います。
話がそれました。私は先述したような環境で育った同性愛者ですが、同性愛者として日々いろんな同性愛者(ゲイがほとんどですが)に接するたび、たとえば自虐的だったり、うっかり嘲笑してしまったり、あるいは冗談の文脈でもどこか同性愛に対して後ろめたさが見え隠れするような発言を結構耳にしたり。ひょっとして私だけのみならず、同性愛者でありながら同性愛に対して多からず少なからず差別意識がある状態の人は多いのかもしれません。
しかし私はそれでいいと思っています。人間である以上、差別意識を「完全に」無くすということは、難しい。差別無くそうと躍起になるのではなく、リスペクトを無くさないことが大切だと考えています。法治国家であること、人権があること、が守られればそれでいいはずだと。それにそもそも我々は人間であり、機械やプログラムではないので、矛盾した思想が混在していても大いに結構なのではないでしょうか。矛盾しているとダサいかもしれないけど、ダサくても別にいいじゃん。生きるとは、自らのダサさを世界にバラしていく行為だと思うし。
先述したような環境で育った私は、もう少し要因があれば、違う人生を選んだかもしれません。つまり「カミングアウトしない未来は自分にもあったかも知れない」と感じました。私自身、今でこそ友人にも恵まれてゲイとして暮らしていますが、カミングアウトをしていなかったら、もし異性愛者を偽装するようになっていたら…想像するのは容易い。私はたまたま今の人生を選んだ。それだけのことですよね。
そういうわけで今作ではさまざまな人生を選んだ本人の決意や葛藤すら、作品に落とし込めないか腐心しました。当初は「カミングアウトできなかった人」を「透明」という色に見立て、その人含む皆が朝日に照らされて可視化されていく…という感じのアルバムを空想していたのですが、それまで出揃っていた楽曲たちの要所要所に「想い出」という単語が入っていることに気がつき、タイトル曲となる「想い出の街」を作成し、これをアルバムのタイトルに据えることを決心しました。その後、9曲目『別れ話』という曲を作った5年くらい前のことも想い出し、構成を練り直しました。
かつて私は「なぜ同性愛者は子供を作れないのに恋愛をしたがるのか」が本当にわからなくなってしまったことがあって、そんな自分に折り合いをつけるために導いた理屈が「誰かの想い出になること」でした。この一連の思考手順は紛れもなく私自身が同性愛者が同性愛に対する差別に縛られたままだったのだと今では思います。情けない話ですが、その理屈に曲がりなりにも助けられて今がある気がします。今でこそ年齢を重ね、そんな理屈に頼らなくても恋愛していいと思えるし、生きていけるようになりました。今作はその頃の自分と対峙する内容になったようにも思います。
つらつらと書きましたが結果今作では『透明な人との想い出になるということ』という最終的な仮想ストーリーに辿り着き、このような構成になりました。

  1. 想い出の街
    ソウルの歌。ずっとこういう曲をやりたかったという曲になったと思います。愛はわたしにとっては慎重に取り扱うべきものでとても恐ろしいものです。

  2. 夜を歩く
    お水の世界から逃げ出す歌。たまにはこういう曲をやりたいなと思いました。手売りで売っていたCDの名前をつけています。仮タイトルは「逃げ出した街」でした。

  3. 透明な男の子
    逃避の歌。カミングアウトしていなかったらこうなっていたのかなあという歌です。

  4. 想い出になろう!
    別れの歌。今作はほぼ全部別れの歌なのですが… 別れる時に言う「(今まで)ありがとう」というセリフがなんだか最低だなと思って歌詞にしました。

  5. 素晴らしい人生
    シーンの歌。親が子供に同性愛者にならないようにああだこうだ無駄なこと言うのも、結局それ自体は愛による行為だったと思うのです。きっと生産性という名前の愛があって、それを子供に伝えたにすぎない。子供に幸せになって欲しくて差別を植えつける、という構図になってると思うんですよね。

  6. 夜を取り戻せ!
    祈りの歌。てか生産なんかしなくていいですよね?生産するためにやることやってるわけでは、ないでしょう。もっと本能的な理由があるはずです。あとタイトルは○○党のキャッチフレーズのモジりです。

  7. #ラブソング
    ラブの歌。以前自分が「でもなんだかんだ40過ぎのオッサンとヤる、みたいな感じじゃないですか?」と何かの文脈で発言したのが自分でも恐ろしすぎて歌詞にすることにしました。

  8. 彼者誰
    夜明けの歌。彼者誰=夜明け前の薄暗い時間帯のこと。読み方は「かわたれ」。対義語は「たそがれ=誰者彼=黄昏」です。現代日本のLGBTを取り巻く環境は夜明け前に近いと思いこのタイトルにしました。結局、生きるしかないんですよね。

  9. 別れ話
    先述していた、なぜ恋愛するのかわからなくなって「想い出」という理屈に縋っていた時期の自分が作った曲です。7年前。若い。いつかの自分に対峙できたような気がします。

以上、セルフライナーノートみたいなものでした。いつか未来の自分が想い出せるように書き留めておこうと思います。

引き続き、ぜひアルバムをお楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。

新宿二丁目系シンガーソングライター
かつ江
2022.12.03


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