ルイボスティー

 新宿駅の某チェーン喫茶店で一人でお茶をしていたら、隣の席の見るからに20代前半の髪の毛にメッシュを入れている若者が必死そうになにやらノートにメモをしている。何の勉強しているのかなと思ってそれとなく見てみると、理解不能な右肩上がりのグニャグニャの線と、その隣にもう一つグニャグニャの線と、なにやらぐりぐり押し付けるような丸が描かれているのが見えた。かと思えば彼はページを捲り、そこには「FX 9勝 1負」とまま書かれているのがまた見えた。私は落ち着きを取り戻すために美味しくもないルイボスティーを一回すすった。
 彼の書いたノートにヴォイニッチ手稿のような異質の美しさが込められているのではないか気が気でならなくなってきたところで、「おい、このあと集まるよ」と声をかける人物が現れた。最初から一緒に座っていないという点でも一体意味がわからないが、彼は素直にわかりましたと答える。素直で、勉強熱心な若者なのだろう。いつのまにか彼は席を外していた。
 帰り際にふと目をやると、彼の指導をしていると思わしきホストクラブのような見た目をした若造が、彼含む数人になにやら熱心に教えている。彼も熱心そうに聴いている。私はそれを見てもう胸がいっぱいになってそそくさと店を出た。外は夏目前の生暖かい居心地の悪い空気が充満していた。なんだかもう全部どうでもよくなってしまったのでそのまま家に帰った。
 まあ「9勝」と書かれているのだからそこそこそういうこともうまくやっていけているのだろう。若さはすばらしい才能なのだから。

***

 遅ればせながらワクチンの三回目接種を受けた。引っ越し直前にコロナに罹り、免疫を獲得してしまった直後はあまり効果がないということで、少し時期を待ってこのタイミングになった。前住んでいた世田谷区は人口が多いだけあって接種会場の予約は瞬殺するしやっとの思いで会場へ着いても大量の人でごった返しているしで気乗りしなかったが、新しい地域は予約もガラガラでよかった。受付で「何回目の接種ですか?」と尋ねられて私は正直に「3回目です」と答えたところ、周りの10人くらいが全員「1回目です」と答えていて、アンチワクチンに唆されてしまっていたのだろうかというなんともいえない気持ちと、ワクチンを打とうとしてここへ来た決意と、いろいろ想像してしまって勝手に変な気持ちになってしまった。しかしながら今一回目を打つというのはある意味賢いのかもしれない。ワクチンを大抵の人が打つのを見届けてから、おかしなことが何も起こらなかったことを確認してから来た、という人もいたのだろう。それはアンチワクチンでもなんでもなく警戒心の問題だ。アンチワクチン論者を否定こそしないが、悪意を持って人を貶める行為をいかなる理由(金儲け、政治etc)があっても行うことは人間を辞めた何かの行いだと私は思っているだけである。ここでいう悪意とは、乱暴な善意を含んでしまうのがつらいところだ。それにしてもたとえばワクチンを打って5G通信が本当にできるようになるとしたら、余計私は打ちたくなってしまう。打ちたいに決まってるだろうが。5G通信は、便利だから……

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