ミラーワールドとゲームAIは社会をどうなめらかにするか?

なめらかな社会とはなにか?

なめらかな社会とは、2013年にスマートニュース代表の鈴木健氏の著書「なめらかな社会とその敵」にて構想された社会像です。
具体的には、生命システムを基軸として二項対立のない社会や、2つ以上の異なる考え方を共存させた社会をなめらかな社会と説明しています。
例えば、国籍は日本人だけれど20年アメリカに住んでいたことから、日本語や日本文化には精通していない人がいるとします。その人は日本とアメリカという複数のアイデンティティを抱えて生きていますが、現在の社会システムでは国籍が日本である以上、日本人という一つのアイデンティティで生きることを半ば強制されています。
他にも、政治の文脈である政党に投票することを考えます。大抵の場合、一つの政党だけを支持することは少ないのではないでしょうか。ある一部分に関してはAの政党を支持し、ある一部分はBやCの政党を支持するといったように、複数の意見を同時に抱えているのが本音ではないかと思います。
これは国籍や投票だけでなく、家族や会社などの所属意識や障害者と健常者の分断、経済的な格差、政治的分断など、様々な場所で0か1かという2つの離散的な選択を迫られることが多くなっている現在の社会の一例です。
このように、世界に多くある離散的な選択や決断を連続値として選べるようにし、異なる世界を繋ぐことを目指した社会像がなめらかな社会と言えます。

なめらかな社会がなぜ重要か?

現在の社会では、人々が社会的な制約を内面化してしまい、自由な感性や生き方を選ぶことが制約されています。
例えば、先程説明した国籍や国境であったり、家族や会社での働き方などは社会制度によって形作られています。その社会的な制約条件に従う形で、いつの間にか私たちの精神や意思決定も影響を受け、離散的な決断以外の生き方や想像性を失っています。
本来ならばできるはずの生き方や活動が制約されて不自由になり、自分らしい人生を歩むことが難しくなっています。この不自由さや社会的なシステムによる不自由さ、理不尽さを解消したいと思う人は多いはずです。
そのため、なめらかさを追求することは、人々が日々生きる中での不自由さや理不尽さを解消するという意味で重要です。
鈴木健氏は、このなめらかな社会を実現するために、テクノロジーを使って伝播投資貨幣PICSYや伝播委任投票システム、文人民主主義、構成的社会契約論などを構想しています。
ここからは、このなめらかな社会の実現に追随する形で、私が考えた社会をなめらかにする方法の一つを説明していきます。

ミラーワールドとゲームAIはいかにしてなめらかな社会を実現するか

ある国の皇帝が、地図師に極めて正確な実物大の地図を作らせた。すると地図が帝国を覆ってしまい、やがて地図がボロボロになると帝国も一緒に滅亡した — ホルヘ・ルイス・ボルヘス

「シミュラークルとシミュレーション」では、哲学者のジャン・ボードリヤールがホルヘ・ルイス・ボルヘスの寓話を引用し、国家の姿を鏡のように写した地図という虚像が実物を凌駕してしまうという主客逆転のパラドックスを説明しています。
ボードリヤールは現代社会をシミュレーションの時代として位置づけ、メディアやテクノロジーが現実に先立って私たちの認識を作り上げていると主張しています。
上記の地図と帝国のおとぎ話はただの寓話として説明されていますが、現代のIT産業やデジタル社会を見渡すと、どうやら寓話では済まされない現実味を帯びてきているように思います。
では、未来においてその寓話がテクノロジーによってどのように現実味を帯びていくのか、その要素技術は何かを考えていきたいと思います。

ミラーワールド

WIRED編集長のケヴィン・ケリーはインターネットの次に来るものはミラーワールドだと主張しています。ミラーワールドとは、現実の都市や社会のすべてが1対1でデジタル化され、鏡のように映し出された世界のことを指します。そのミラーワールドがウェブ、SNSに次ぐ第三の巨大なデジタルプラットフォームになると予言しています。
縮尺1分の1の地図を3Dにしたものが未来で次の巨大なプラットフォームになると説明しています。
ミラーワールドは現実世界で検知されたデータで作成され、主にゲーム技術によって表現されます。もともと提唱したのはデイビッド・ゲランターという人物ですが、当時の文脈ではいまでいうユビキタス・コンピューティングやIoTのことをほとんど指していました。
ケヴィン・ケリーのいうミラーワールドはまだ定義の粒度が粗いため、ここから自分なりに補足しながらその輪郭を明確にしていきたいと思います。
ミラーワールドを一言でイメージするならばGoogle Earthを例に出すのが良いと思います。しかし、Google Earth=ミラーワールドというわけではありません。現実の都市を3Dへ変換した都市モデルだけでなく、社会全体も表しているからです。
ミラーワールドとデジタルツインの違いはしばしば人によって定義が異なることから、あえてここでは下記のように定義します。
デジタルツインは、現実の特定の物質的なオブジェクトをデジタル化したものと定義します。それに対してミラーワールドは、デジタルツインの集合体をリアルタイムにフィードバックし続けるシステムと定義します。簡単に言うならば、現実世界と対になるデジタル世界がリアルタイムにフィードバックされたものです。デジタルツインのオブジェクトがたくさん集まって現実世界をすべて包括したようなものがミラーワールドです。

ミラーワールドを構築するための3つの要素

上記の定義からミラーワールドを構築するためには3つの要素があります。それが以下です。

  1. 万能性

  2. リアルタイム性

  3. フィードバックシステム

万能性はあらゆる物事に対応できる性質のことを指しますが、ここでは物理空間の情報が高精細にモデル化され、検索や編集可能な状態を指します。例えば、国土交通省が提供しているPLATEAUは建物の3Dデータに建築の材質や築年数、高さなど多くの情報が含まれており、それらが検索や編集可能な形で提供されています。他にも同様にGoogle Earthは建物や商業施設に関する情報を検索することができます。この2つはあらゆる物事の情報の検索や編集可能という点で、万能性を備えています。日々情報のアップデートによって万能性を追求しています。
次にリアルタイム性ですが、こちらは現在のPLATEAUやGoogle Earthにはあまり備わっていない性質になります。ミラーワールドはリアルタイムに情報が更新され、ミラーワールド内で人々がリアルタイムにコミュニケーションを取ることができます。ミラーワールド内で何かしらの編集作業が行われると、それが即時に共有されミラーワールド自体も更新されます。
最後に、フィードバックシステムです。こちらはデジタル空間を動的に調整・更新する仕組みのことです。都市中に張り巡らされたセンサー系が車体の交通情報や気象データ、建物の利用状況などを収集し、自身の物理環境での行動や操作から得られるデータも含めて、それらを解析し、ユーザーの次の行動を促す情報をフィードバックします。つまり、物理世界での行動や意思決定をデジタル空間に集積し、解析して、また物理世界にフィードバックする仕組みです。
このように、万能性、リアルタイム性、フィードバックシステムが備わっているものをミラーワールドと定義します。

ミラーワールドは世界をなめらかにするか?

上記の3つを仮に満たしたミラーワールドが世界をなめらかにできるかどうかはわかりません。そして、ミラーワールドを実現したとしてそれをなめらかな社会を実現するために使われるかどうかもわかりません。また、ミラーワールドが実現した未来を予測することにも大した意義はありません。我々がやらなければならないのは、未来を予測することではなく未来を作り出すことです。
そのため、現在考えているミラーワールドを使って社会をなめらかにするための方法を2つ考えました。

  1. 都市拡張メディアとしてのミラーワールドを実現すること

  2. ゲームAIとミラーワールドの融合によってスマートな地球を作り出すこと

1つずつ解説していきます。

メディアとしてのミラーワールド

メディアという言葉を聞いて想像するのは、大抵の場合、テレビで天気予報やニュースを放送しているマスメディアだと思います。メディアという言葉をより広く捉えその本質を的確に表した人物がいます。それがマーシャル・マクルーハンです。
マクルーハンは、メディアとメッセージの関係を分析し、メディアを単体ではなくメディアと人間との関係を含むものとして広く定義しました。彼のいうメディアとは「人間の身体および神経の組織を拡張したもの」と捉えました。そして彼はメディアの本質を「メディアはメッセージである」「メディアはマッサージである」と2つの格言として残しました。メディアはメッセージであるという格言のメディアとは、メディアが発信した内容そのものではなく、メディアが個人や社会に及ぼす結果のことを指します。メディアが人間や社会に及ぼす効果に注目して、その潜在的な効果をメッセージと考え「メディアはメッセージである」と言いました。彼は新たなメディアが登場するときに人々の意識や思考・行動様式が無意識のうちに変化し、その渦中で社会的感覚の変化や影響があると考え、メディアそれ自体がメッセージであると捉えたのです。
2つ目の「メディアはマッサージである」というのは、メディアそれ自体が身体性を持っており、人間の身体の諸感覚を呼び起こすようなマッサージのようなものだということです。
ここから説明するメディアというのは単なるテレビ放送やニュースメディア、SNSという枠組みではなく広い意味で人々の諸感覚を拡張するものとして捉えます。そのため、ミラーワールドもある種のメディアとして捉えてください。難しければ、ほとんどSNSと捉えていただいても構いません。
では、メディアとしてのミラーワールドがどのように社会をなめらかにできるのでしょうか?
それは仮想空間上での国境を超えた観光を実現できるという意味で社会をなめらかにできると考えています。どういうことかというと、なめらかな社会では人々は国境や社会制度、地理的な区域に過度にとらわれること無く自在に生きていくことを指します。どこまでも高精細な都市モデルが完成し、リアルタイムで状況が刻一刻とフィードバックされたミラーワールドが実現した未来では、HMDやスマートフォンを使ってアバターを操作し、世界中のどこへでも旅や観光に出かけることができます。そして、ARグラスを掛けることで自身の外国の友人と遠隔でコミュニケーションを取ることができるようになるでしょう。さらには戦争が行われた後の現場や被災地の惨害などを3Dの身体性を持った状態で体験することができるようになります。地理的な制約を解消し、国境を超えてコミュニケーションを取ることができるようになった未来では、少なからず自身の国籍に対する違和感や地理的な制約に疑問を持つようになり、なめらかな意思が芽生えるかもしれません。
また、ARグラスを誰もがかける未来が仮に登場した場合、医療保険に大きなインパクトを与えると考えています。保険市場では、医療保険に加入する人は自分の健康状態がわかるが、保険会社にはその人の健康状態がわからないという情報の非対称性が存在しています。その保険加入者と保険会社の間の情報の非対称性が引き起こす問題として、逆選択とモラルハザードという経済学的な現象があります。
逆選択とは、保険市場において、保険契約者(消費者)が自身の健康状態やリスクについて保険会社よりも多くの情報を持っているために、高リスク者(健康状態が悪い人)が保険に加入しやすく、低リスク者(健康状態が良い人)が加入しにくくなる現象です。このような逆選択が続くと、保険会社は高リスク者ばかりを多く抱えることになり、保険金の支払いが増加します。これにより、保険料が上昇し、さらに低リスク者が保険から離れてしまうという悪循環が発生します。
モラルハザードとは、保険に加入することで、保険契約者が本来なら避けるべきリスクを軽視し、リスクの高い行動を取る可能性が高まることです。医療保険では、保険により医療費がカバーされるため、過剰な医療サービスを利用したり、健康管理を怠ったりすることがあります。
このような経済学的な問題が発生していますが、ARグラスを誰もがかけ、即時に自身の行動や選択が計算機によって解析され、フィードバックされる未来ではこの情報の非対称性を少なからず緩和することが可能です。
通常、保険会社は逆選択を防ぐために、加入前の健康診断を義務付けたり、加入後一定期間は保険金の支払いを制限する待機期間を設けたり、リスクに応じた保険料を設定するなどの対策を講じます。それに加えてARグラスをかぶり、心拍数などをウェアラブルデバイスで検知するようになると、その人の保険料を下げるような行動を画面表示で提案したり、位置情報のログを元にその人の運動量をトラッキングし、その運動量に応じた保険料の低下を実現できたりするでしょう。
モラルハザードを心理学や行動経済学的に抑えたり、ミラーワールドを運営する企業が保険会社としても運営することで情報の非対称性を解消するという点でなめらかな社会に近づけることができるかもしれません。
このように、人々の地理的な制約や国境意識を変えるメディアとして、保険加入者と保険会社との情報の非対称性を緩和するという意味でなめらかな社会をミラーワールドで実現していきたいと考えています。
次に、ミラーワールドのさらなる真価を発揮することができるゲームAIの紹介を行い、マクロな都市計画や物理環境に影響を与えるような技術的構想を描いてみたいと思います。

ゲームAIとはなにか?

読者の方は普段ゲームをされるでしょうか?ゲームを行う中でプレイヤーに攻撃してきたり、ゲームマップ全体の地形の特徴を把握し、経路や位置を示してくれたりすることはないでしょうか?
普段何気なく行っているゲームの中にも多くの人工知能が知らずのうちに組み込まれています。そしてそれがいかに巧みで将来的に我々の社会に影響を与えていくのかを見ていきたいと思います。
ゲームAIには大局的には3つの種類があります。

  • キャラクターAI

  • ナビゲーションAI

  • メタAI

それぞれ詳しく説明します。
キャラクターAIは、ゲーム世界で飛んだり、銃を撃ったり、話しかけてきたりします。そのキャラクターの頭脳がゲーム空間内の五感や身体を通じて得た情報を蓄積しアクションを起こします。フォートナイトやApex、ドラゴンクエストなどでゲーム内でNPCが現れたり、敵が攻撃してきたりすることがあります。それは、NPCや敵に対してキャラクターAIが搭載されているためです。このような動作を行うのがキャラクターAIです。
ナビゲーションAI(スパーシャルAI)は、ゲームのマップ全体の地形の特徴を解析し、経路や位置取り、最適な探索を計算するAIです。人間だと例えば、地図を見たときに東京から北海道までの道のりはどのように移動したら早く行けるのかは直感的に北に行けばよいとわかるかと思います。しかし、AIはそんな人間の位置把握の直感を理解することが難しいです。そこで、ゲームのマップの特徴やどの道がどうつながっているのかなどを計算するアルゴリズムがナビゲーションAIです。例えば、A*パスファインディングなどがあります。ある意味、パス検索システムとしてはGoogle EarthやMapなどの経路探索はゲームAIとも言えますね。このように、経路検索や位置検索、ゲーム内勢力図の計算を行うのがナビゲーションAIになります。
最後にメタAIはゲーム全体を制御し管理するAIになります。メタAIは都市シミュレーションゲームでありSimCityの開発者であるウィル・ライトが最初に使った言葉だと言われています。メタAIはキャラクターAIのように身体を持っておらず、ナビゲーションAIの世界表現やキャラクターAIの動きなどゲーム全体の空間状態を客観的に、大局的に認識し、NPCへの命令や地形、天候、音楽、物語の生成などを変化させます。そうすることで、ゲーム全体のユーザー体験を変化させます。ゲームは緊張と緩和の連続で、そのバランスをユーザーに応じて動的に変化させることが今後のゲーム技術にも求められています。そのうち、FortniteなどのMMO内のプレイヤーの活動に応じて、最適なゲームワールドをリコメンドし、AI自ら生成する技術も将来的にはメタAIがその一部を担うかもしれません。
これらのキャラクターAI、ナビゲーションAI、メタAIなどのゲーム技術を組み合わせて、現実世界の都市に応用することはできないでしょうか?
それを実現するためには現実世界をそっくりそのままデータ化したミラーワールドが非常に重要なキー技術になります。それでは3つのゲームAIとミラーワールドが連携した未来を構想してみましょう。

ゲームAIとミラーワールドでなめらかな都市を実現する

上記で説明した3つのAI(メタAI、キャラクターAI、スパーシャルAI)の連携システムは「MCS-AI動的連携モデル」と呼ばれます。このゲームAIの連携システムを現実の都市空間に応用したスマートシティの実現を考えてみます。
ミラーワールド上に現実空間上で検知されありとあらゆるたデータをゲームAIに学習させ、集合知を作り上げます。

  • 人間の位置情報に基づく動きのデータ

  • ARグラスによる視線や行動データ

  • 衛星写真から取得した都市画像データ

  • 都市に張り巡らされたセンサーによるデータ

  • 人間の使用したエネルギー量や発電所が消費生成したエネルギーとその資源のデータ

などを挙げ始めると切りがありませんが、都市や環境にまつわるデータと人間の行動や挙動を収集し、解析します。
そして、一つの人工知能によって全体を統制するのではなく、都市空間をレイヤーごとに分けてゲームAIを活用し社会や経済活動を監視・制御していきます。
具体的には複数の層に分かれたAIシステムを構築するために以下の構造を大まかに作ります。

  • メタAIによって都市全体を監視・制御するレイヤー

  • ナビゲーションAIによって都市の地形情報や空間情報を抽出し、メタAIとキャラクターAIに伝達するレイヤー

  • キャラクターAIによって各ビルや街ごとの監視や制御を行うレイヤー

上記のように都市を複数のレイヤーに分けます。そして都市や街、マンションなど一定の区域ごとに分けていきながら、現実世界でのお金や物の動き、人、動物、自然の動きなどを取り込み同期します。そうして集まった集合知をミラーワールドから現実世界へフィードバックします。ナビゲーションAIによって検知、抽出された都市の地形情報や空間情報をメタAIやキャラクターAIへと伝達します。そしてロボットやAI、ARグラスなどのキャラクターAIを通じて人々に情報提示を行います。続いてメタAIによって全体を監督しながら、上記の連携を行っていきます。そうして社会全体としても最適で、人々の個々の意思決定にとっても最適な行動を空間知能が支援することができるのです。
このようにゲームAIとミラーワールドを連携させながら、現実の都市空間へとフィードバックを重ねていくと、空間それ自体が知能を持っているかのように振る舞うようになります。
それでは次に、このゲームAIとミラーワールドが連携した未来で人々はどのような感覚で生きていくのでしょうか?

都市に優しく抱かれて生きていく

上記の構想は一見すると監視社会を実現してしまうため否定的に感じる読者もいるかもしれません。世界を一つの人工知能によって統制し、監視するというディストピア的な世界観はSF作家によって描かれてきました。しかし、監視社会の問題点の本質は適切なフィードバックシステムが構築されていないことにあると思います。人間の生体的なデータや都市活動での情報、気象情報や資源、動物などあらゆる情報を集約し、それをレイヤーごとに適切に管理しながら、細かく分割されたレイヤーごとにフィードバックを行っていけば、中央主権的な知能によって統制されていることを忘れ、一人ひとりがなめらかに生きている感覚を得ると思います。
昨今の社会ではChatGPTを中心にAI市場が大きく盛り上がりを見せ、人々の生活を大きく変えていると思います。今後、人工知能の波及先はメタバース空間やミラーワールドへと広がり、都市そのものが知能を持つようになるでしょう。都市そのものが身体のように振る舞う世界が到来すると考えられます。例えば、都市で事故が起きたら消火ロボットなどが免疫系のように鎮火し、大規模な都市は人間の各部位のようにある一定機能ごとに分化していく可能性もあります。空間の知能化は都市にとどまることなく、地球全体に共鳴していき、地球それ自体がスマートになっていくでしょう。この仕組み自体は地球だけでなく月面や火星にも応用できるため、宇宙全体で環境と人間とがなめらかに連携し合う未来を描けます。
最終的には人々はどのような感覚で生きていくのでしょうか?それは、「都市とは私であり、その全てではない」という感覚だと思われます。さらに世界中に広がっていけば、「世界は私であり、その全てではない」という感覚を持つことでしょう。世界へ私が働きかけられているという「共鳴感」と同時に、世界の全てへ働きかけることはできないという「諦念」の気持ちを持って、無数のつながりの中で生きていくことができます。

最後に

ここまでお読みいただきありがとうございました。
なぜこんなことを考えたんだろうと思うことが自分でもありますが、振り返ると様々なきっかけが僕の今を作っていることを思い出します。小学生の頃インドネシアに引っ越し、国境を超えた瞬間に法や貨幣、社会制度、人種、言語、宗教など今までの常識が変わり、国境に対する漠然とした違和感を持ちました。そして、小学生の頃に自己と他者の境界がどこにあるのかという疑問を持ち、その疑問は心の片隅に居続けながら、高校生になると当時ドハマリしたエヴァンゲリオンで、ATフィールドという自己と他者を隔てる壁が登場して再び関心が蘇りました。

また、自分自身が発達障害を持っていることもあり、健常者と障害者とのグレーな境界を日々感じながら生きてきたことも一つのきっかけかもしれません。さらに、自身のインターン先が仮想空間を作る企業だったこともあり、現実と仮想という曖昧な境界にも関心がありました。このように、僕は人生を通じて「境界」という二文字に執着して生きていたことに気づきました。

人間として生きていくことは境界を引き続けることだと思います。境界を引いてはそれに従い、違和感を感じたらまた新たな境界を描いて、その区域内で生きていくのです。しかし、その境界線が国家によって社会制度やルールという形で引かれたとき、その縛りが内面化されて人々は本来できた生き方ができなくなることがあります。その反面、社会制度やルールなどによって自由になることもあります。そんな制約を人々の意思を反映させる形で自在にデザインできるようにしたいと次第に考えるようになりました。
その矢先に、「なめらかな社会とその敵」を大学の図書館でたまたま手に取りました。その思想に非常に感銘を受け、自身の持っていた境界に対する違和感が払拭されました。それと同時に、もっと世界の境界をなめらかにしたいと志すようになりました。

それらがきっかけとなって、いつの間にか上記の構想を描いていました。そしてこのページを手に取ったあなたがもし共鳴したなら、ぜひ一緒になめらかなミラーワールドを作り上げられたらと思います。

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