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僕は多売を畏れている。

左ききの道具店が2周年を迎えた。
これに伴うお店的なことは店長が書いてくれたのでこちらを参照。いろいろ始まっていく予定。

たった2年ではあるけれど、訪問者が増え、品揃えが充実し、売上も少しずつ伸びてきた。数年で指数関数的に成長するスタートアップ企業とは比べるべくもない、亀の歩みではあるけれど、僕らの手が届く範囲で着実に前進していると思う。

とはいえ、もともとが極小市場の“クリアオーシャン”市場だ。単独で事業として成り立つかといえば心許なく、事実、これまでは僕のクリエイティブ事業の売上をつぎ込みながら成立させてきたのが本当のところ。

ただ、そろそろ次のフェーズが見えてきた。事業として独り立ちし、人を増やし、成長していく段階だ。実はこの傾向は少し前から見えていて、いつアクセルを踏むかの問題でもあった。

でも僕は、ずっと二の足を踏んできた。この気持ちをストレートに表現すれば恐怖。怖いのだ。拡大してリスクを負うことが。さらに言えば、身の程知らずではないかという畏怖がある。そう、僕は「多売」を畏れている。

たくさん売りたい。たくさんの人に商品を届けたい。けれど僕らみたいに未経験で資本もなく家業未満の規模で、多売を目指していいのだろうか。そのリスクを背負い切れるのだろうか。手が届く範囲でちいさく続けた方がいいんじゃないのか……。

根っこにある多売への躊躇は、おそらく僕に小売経験がまったくないこと、そしてキャリアの大部分を占めている受託の制作業が持つ特性が影響しているのだろう。

受託の制作業には元手が必要ない。
受託の制作業は場所を選ばない。
受託の制作業には在庫が必要ない。
受託の制作業の単価は個人差が大きい。(上げられる余地が大きい)
受託の制作業はごく少数の関係者で完結する。
受託の制作業は一人でもできる。etc…

という、これまで馴染んできた仕事の当たり前に対して、多売はまったくの逆だ。元手がいるし、場所は必要だし、在庫は確保しなきゃだし、定価は簡単に上げられないし、人を増やさなきゃだし、一人ではできないし。

小売世界にいる諸先輩方からすれば「当たり前やろ」と鼻で笑われるようなことが、僕にはあまりにも未知なのだ。無知ともいえる。具体的に数字を目の当たりにするとリアルに足がすくむ。

ああ、怖いぜ。

そんな臆病を内心に秘めつつ、足は前に出ている。姿勢は前傾。視線はずいぶん先の方だ。そう、僕はとっくに気づいている。小さいままでは先細りするしかないことに。長く続けることはできないことに。

僕らの事業は「儲かりそうだからやってみよう!」と始めたものではなく、妻である店長が「本当にほしかったお店をつくりたい」という、願いを動機にスタートしたもの。ガチで30年ぐらい撤退する予定がない。つまり退路はない。

そして、ありがたいことにこの2年で、少なくないユーザーの方から感謝や応援のメッセージやリアル手紙が届いたりして、オンラインストアでありながらもお店に期待してくれる方の熱を感じている。求めてくれる人がいる。

やらいでか!

というわけで、僕は多売を畏れつつ、多売のための動きを加速させていきます。事業が始まって2年と少し。子どもなら走り出す子がいても不思議じゃない。おっかなびっくりだけど、その気持ちでいきます。転んでこその上達だ、ということも頭の隅に入れつつ。3年目も、みなさまどうぞよろしくお願いします。

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