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馴染みのダイニングバーの仲良くしてくれているシェフから連絡があった。
「ちょっとお話すべきことがあるので、お時間があればお店に寄ってください」と。

シェフとはかれこれ6~7年の付き合いになる。
彼の作る料理はとても美味しいし、料理やお酒の知識がすごいし、接客も実に心地よいので、1人でフラッと飲みに行くときや、すごく親しい友達とか大事なゲストがいるときに、よくお店に足を運んでいるし、お店がはけたあとにたまに二人で飲みに行くこともある。

ずいぶん友達寄りの店員と客、といったような間柄である。

そんなシェフから「話すべきこと」と改まって連絡があったので、何事だろうと考えてみるも、思い当たる節はない。ひょっとして閉店とか移転とかだろうか??

なんとなく不穏な予感を感じながら、店を訪問した。
私が着いた時、お客さんはテーブルに1組だけで、カウンターはガランと空いていた。いつものようにカウンターの端に腰を下ろす。

1杯目のお酒が運ばれてくるが早いか、シェフが少し顔をよせて小さな声でつぶやいた。

「Kさんが亡くなったんですよ」

Kさんというのは、シェフのお店と目と鼻の先にあるバーのオーナーで、そのお店にはシェフに紹介してもらい、何度か一緒に飲みに行ったこともある。夜中の12時に開店して翌朝の8時まで営業しているという、シェフ曰く飲食店で働いている人向けのバーらしい。

私のような飲食業者ではない人間でも、ほどよい対応でとても居心地がよくて、1人でも何度か飲みに行ったことがある。というか、先週もフラッと飲みにいって、楽しくなってずいぶん遅くまで居座ってしまったくらいだ。

Kさんは私とほぼ同年代(アラフォー)で、先週もカウンターに立って元気に接客していた。そんな人の訃報に触れて、あまりにいきなりすぎて、何のことか全く分からなくなるくらい、事態がを飲み込むことが全くできなかった。


しばらくして、1組いたお客さんが帰り、アルバイトのスタッフが帰り、店内にはシェフと私だけになった。
静かな時間が流れ、それぞれにKさんを偲びながらグラスを傾ける。

いつもは2~3杯でホロ酔いになるのに、その日は全く酔いが回らずに、いつもより多く飲み過ぎてしまった。

いつもなら、そんな風に遅くまで飲み過ぎてしまった時は、どちらともなく「Kさんのお店に顔出しますか~」なんて言っていただろうに、もうその店にKさんは居ない。

こうやって文字にしていても、実感が湧いてこない。それくらい唐突で、ショックの大きな報せだった。人の生き死にというのは、思っている以上に身近にあるものなのだな。
なんか、久しぶりに感傷的になって引きずってしまっている。

献杯。

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