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生命創出のアーキテクチャ:空間と時間、多様性と循環

はじめに

生命の起源を探求する試みをしてきましたが、その分析を通して、生命を産み出す本質的な構造を抽出するところまでたどり着くことがでました。その構造は、以下のようなものです。

  • 空間的多様性、時間的多様性、空間的循環、時間的循環、これらが相互に強化しあう構造

解説

下の記事で、生命の起源についての仮説をまとめました。有機物と化学反応から、細胞が誕生するまでの流れを書いています。

この有機物と化学反応が生命を織りなす現象について、結局、何がポイントだったのかを自分なりに振り返っていたのです。
そして「はじめに」で挙げたような、空間と時間、多様性と循環の4つの概念を各々組み合わせたものが、本質的なポイントだったと気が付きました。
それぞれ、私の生命の起源の仮説の中で、何を示しているのかを簡単に説明します。

  • 空間的多様性

    • 有機物の種類が多様であること、および、有機物の入れ物の数が多様であること

  • 時間的多様性

    • 化学反応の連鎖が多様であること、および、化学反応が同期せずばらつきがあること

  • 空間的循環

    • 複数の有機物の間、あるいは複数の有機物群の間で、やり取りが循環的に行われる構造にあること

  • 時間的循環

    • 複数の化学反応が連鎖し、かつ、循環する構造にあること

空間的多様性と時間的多様性について

まず、細胞は非常に複雑な構造をしているため、これを生態系的なシステムの仕組みを使えば達成できないか、というのが私の仮説の出発点でした。そして、生態系的なシステムで複雑な構造を作り上げるためには、とにかくたくさんの種類の有機物を生み出して、その中から有用なものを残していくということを考えなければなりませんでした。

有機物は連鎖上に連なることで際限なく長いものを作ることができますから、ポテンシャルとしての空間的な多様性自体は十分にあります。しかし、ただ長いものを作ればよいのではなく、無数のパターンから有用なものを残すということが必要になります。そうなると、とにかくたくさんの種類を作って、その中から有用なものを探していくしかありません。

多様な有機物をつくるためには、さまざまな有機物を作って、それを組み合わせる、という作業が必要になります。

複数の有機のスープが、地球の水の循環で、時々混ぜ合わさったということを仮説の中で述べました。この混ぜ合わせの時、もとになる水たまりの数が多いと、それだけ様々な有機物の組成割合を持つスープ同士が混ざり合うことができますので、多様な有機物の組み合わせができます。

また、スープが活性状態にあることも、重要です。
化学反応が止まった非活性状態のスープよりも、化学反応が進行中の活性状態のスープの方が、スープの中の有機物のパターンが多様になるはずです。それはスープ内で無数の化学反応が進行している時、それぞれの化学反応は同期せず、ばらばらに進行しているはずです。そうすると、ある一瞬を切り取ると、それぞれ化学反応の様々なステップの途中状態にあり、非活性化状態時には見られない、多様な中間状態の有機物も含まれているはずです。そして、その活性状態のスープ内起きている化学反応の種類も多様であればさらに多様な有機物がスープに含まれます。

こうして非活性化状態のスープ同士が混ざり合うよりも、活性状態のスープ同士が混ざり合う方が、組み合わせの多様性の観点では圧倒的に有利です。このため、おそらくある程度発展してきた段階では、ほとんどの場合、有用な組み合わせが見つかるのは、活性状態のスープ同士が混ざった時だったと考えられます。

また、仮説の中で、イノベーションの1つとして、有機のスープが膜に包まれるようになったということも挙げていました。膜に包まれた有機のスープ同士についても、多様な有機物の組み合わせのためには、活性状態である必要があります。活性状態であれば、膜の外に有機物を放出し、また、膜の外から有機物を取り込むことで、有機物の新しい組み合わせができます。非活性状態ではそれができません。ですので、膜に包まれた後も、活性状態の有機のスープが、新たな有用な有機物を作り出していったと考えられるのです。

このように、有機のスープが活性状態で交じり合いが進行することが、多様性の観点で非常に重要でした。そして全体として、有機物の種類と化学反応の種類が多様化し、それがまた多様化を促進するという関係です。

このように時間的な多様性と空間的な多様性が、相乗効果を発揮しながら、それぞれの多様性を広げていくという構造が、そこにはあったのです。

空間的循環と時間的循環について

地球で最初の細胞は、生きている状態で組みあがるはずだ、というのが私の仮説のもう一つの出発点でした。

さきほど多様性のところで述べたように、有機のスープが活性状態であることが重要なため、循環構造にある化学反応の連鎖が不可欠だったと考えられます。
また、新しく作られた有機物が、有機のスープ内で存在し続けるためには、周囲の有機物に取って有用であることと、周囲に自分にとって有用な有機物があること、が重要になります。このため、有機物同士が循環的にやり取りする構造も不可欠だったと考えられます。

化学反応の連鎖の中で行われる有機物のやり取りをする循環構造と、有機物同士の有用性の循環関係は、似ていますが、明確に異なります。また、必ずしも有機物のやり取りの関係が有用性と直結はしていません。有機物の受け渡しをしているものの、どちらにも特にメリットもデメリットもないというケースもあるでしょう。
しかし、化学反応の連鎖の循環構造が、有用性の循環構造と合致すると、お互いの循環構造がより強固になるという効果があります。

多様性と循環について

加えて、多様性が新しい循環構造を生み、より強固な循環構造を見つけることに貢献することは容易に想像できます。また、多様の説明の中で述べたように、循環構造が多様性を生むという関係もあります。
このように、多様性と循環の間にも、相補的な関係があることもわかります。

生命とはどのようなものか?

以上で見てきたことをまとめると下記のようになります。

  • 空間的多様性と時間的多様性が、お互いを強化する

  • 空間的循環と時間的循環が、お互いを強化する

  • 多様性と循環が、お互いを強化する

つまり、最初に述べたように「空間的多様性、時間的多様性、空間的循環、時間的循環が、相互に強化しあう構造」になっています。

生き物が持つ、驚きべき複雑さと逞しい生命力は、この構造が支えているというのが、私の結論です。

さいごに

私の生命の起源の仮説がもしも真実だとしたら、この構造が生命を支えてきたということになります。
科学の領域では、真理はシンプルで美しい、という話を聞いたことがありますが、生命を産み出したアーキテクチャがこのようにシンプルで美しいというのは、なかなか鋭い発見ができたなと思う一方、話がうまくいきすぎていて何だか複雑な気持ちです。




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