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泣きながら微笑んで ~AKB48・大島優子の懐古録~ #20

■ 2009.7.8 「13thシングル選抜総選挙」

2009年4月26日、NHKホールでのコンサート「神公演予定」の最終公演にて、8月発売予定のAKB48の13枚目のシングル曲における選抜メンバーをファン投票で決定する「選抜総選挙」を実施することが発表された。私の推しメン・大島優子は「選抜メンバーに選ばれる側」であり、既にファンの人気度も十分高いメンバーであったので、選挙をしたところで選抜されることはほぼ確実な情勢であったのだが、第1位を獲得した者に対する「特典」は、これまで優子がAKB48シングルで得たことがないものであった。

シングル曲でのセンターポジション

優子の人気・実力とも申し分ないことは誰もが認めているが、どうしてもセンターに据えられるのは、AKB48の第1期メンバーである前田敦子や高橋みなみであり、前年10月のキング移籍第1弾シングル「大声ダイヤモンド」では、SKE48の新人・松井珠理奈が抜擢され、優子がフロントメンバーを外されるという事態まで起きていた。当時個人的には選挙によって優子に順位付けをすることに意味がないと思っていたが、「ファンの力で優子をセンターにすることができるチャンス」という思いが強かったのも事実だった。当時投票権利は(1)「涙サプライズ」通常盤購入者(2)柱の会会員(3)AKB48モバイルサイト会員(4)AKBライブオンデマンド会員に与えられており、メンバーは国政選挙さながらの「政見放送VTR」により選抜入りへの熱い思いと自分への投票をファンに訴えた。そして投票受付初日に「開票速報」、投票締切1週間前に「中間発表」を行い、ファンに更なる投票=通常盤の購買・FC等への加入を促していた。中間発表の時点で第1位は「大本命」前田敦子で、優子は第2位で敦子を追いかける展開となっていた。

そして迎えた開票当日。劇場支配人の戸賀崎智信氏と衣装担当スタッフの茅野しのぶ氏が司会、マネージャーの山本学氏や芝智也氏らがプレゼンターを務め「自前感」あふれる雰囲気で進行する。選抜メンバーは21位以上のメンバーであるが12位以上がテレビの歌番組等でプロモーションを行う「メディア選抜」という位置づけ。惜しくも選抜に届かなかった22位から30位の9名にも「アンダーガールズ」としてC/W曲を与えられることとなる。速報では選抜圏外から大きく順位を上げ選抜入りしたメンバーやこれまで選抜入り経験が無く今回ファンの後押しにより念願の選抜入りを果たしたメンバーは嬉し涙を流しファンへの感謝を述べる。一方運営からのプッシュを受けながらも票が伸びず順位に納得できなかったメンバーはファンへの感謝を表しながらも悔し涙を流し次回でのリベンジを誓う。このメンバーのスピーチはグループ内の生存競争に晒されるメンバーの心の内を吐露するものであり、その生々しさが従来のAKBファンだけでなく、これまでAKBを良く知らない人々に対しても強烈な印象を与える。この総選挙の開催をきっかけにAKB48は本格ブレイクを迎えることとなり、翌年以降の総選挙においてメンバーによる数々の「名言」が生まれていくこととなる。

第3位(篠田麻里子)の発表が終わり迎えた第2位の発表。会場の一部の客から「前田、前田」という声があがるも、第2位は大島優子。ところが優子は舞台袖からプレゼンターに支えられて登場する。実は優子は体調不良により前日のチームK公演を休演しており、当日もなんとかステージに現れたものの、右腕の点滴の針を刺していたと思われる箇所に絆創膏が張られていた。それでも優子は必死にマイクスタンドに寄りかかりながら投票してくれたファンに感謝の言葉を述べた。そして第1位に輝いたのは下馬評通りに前田敦子となり、選抜固定に反発するファンの意向を尊重して行われた初めての選抜総選挙は一部を除いてほぼほぼ「いつもの選抜の信任投票」的な結果となった。しかし、今思えばこの最初の総選挙は「試験的な意味合い」があって、「推しメンを応援したい」というファン心理を巧みに利用し、CD購買やコンテンツ会員の拡大に繋げることができるという十分な手応えをAKB運営やキングレコードは掴むこととなる。

翌月にリリースされた13thシングル「言い訳Maybe」は、総選挙の投票券こそ入っていなかったが、推しメンに直接声を掛けることができる「握手券」を求める新規ファンを中心に売り上げを大きく伸ばし、劇場盤握手会は東京ビッグサイトにてAKB・SKE全メンバーが集結し12時間にわたり個別握手を行う大イベントとなる。しかし、その後シングル曲をリリースするたびに握手会の開催規模は拡大の一途をたどり、握手券1枚あたりの時間はついに一桁秒台となる。私がAKBに出会った頃の「楽しい握手会」はもう望めないと思ったし、エンタメコンテンツとしての魅力も低下し、下世話な話「ここに金掛けたくない」とも思ってしまった。また、猛暑の時期も悪天候の時も長時間にわたり握手をさせられるメンバーのことを慮ると自分が握手会に加担するわけにはいかないという思いも生まれ始めていた。そして何よりも「握手会>劇場公演」という運営の姿勢に私は迎合することができず、徐々にAKB48握手会から手を引いていくこととなる。 (#21につづく)

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