人間のバグ

 肉体にしろ、知識にしろ、また財産にしろ「成長」することは良いことだと、現代社会の多くの人は思っているわけです。だから、肉体の「ピーク」とかいう言い方も出てくるし、記憶量のピーク、という言い方もある。そういう文化を見ていて思うのは、じゃあ死んだらどうするんだ、ってことです。ま、それをどうにかしようと思うから「不老不死」への技術投資、ということになるんでしょうが。

 不老不死が実現するかどうかはともかくとして、成長というのは死んだらおしまいだし、普通は死ぬ前から成長しなくなっていくわけです。で、これを乗り越える王道の文化(考え方)は、子孫へ繋ぐ、ということです。自分の子に限らず、会社とか、思想とか、作品とかを後世に残すということですね。

 しかし、この方法の問題は、会社とか思想とか作品とかで後世に残るものは、ほとんど無いということ。残したい人はたくさんいますけど、大半のものは残されない。ゴッホは残ったけど、残ったことを知れなかったし。ってことで、普通は、子供に託すということになるわけですが、子供だって恵まれるとは限らないし、受け継げるような相手とも限らない。毎度言うように、人間はランダム性が高いですから、自分の子供が、自分の夢を引き継ぐとは限らないし、大抵は夢を押し付けたら迷惑がられます。

 そもそも、そういう悩みを持ってしまうことがおかしい、という考え方もあります。夢とか、成長とか、全ては幻想なのだから、あるがままを受け入れて、死も受け入れればいいじゃないか、という考え。僕は、詳しくない素人考えとして適当に言いますが、仏教的な考えというのは、そういう方向だと思っています。ただ、このルートも、多くの宗教家が一生をかけても悟れなかったりするわけで、悟りを開く確率は低いです。

 僕が言いたいのは、なぜそういう欲を持ってしまうのか、という問題です。欲というのは、何かをしたいということ。これをメタ視点で見れば、遺伝子的な仕組みは「人間に何かをさせたい」と思わせることにより、どうしたいのか、ということです。全生物的ネットワークの中でのバランス、とかになっちゃうと、ちょっとぶっ飛びすぎだけど、人間という種族の枠組みで言えば、その種族がどうしたら発展するのか、そのために、個体の人間に「どう思わせれば」良いのか、どういう欲を持たせたらうまく回るのか、ということです。

 成長、そして成果を残したい、というのは、群れが前提に在るからです。群れがあれば、その「欲」は正常に回る。自分が死んでも構わない、だって、群れは存続するんですから。人間、色々な「欲」がありますが、それは、群れ(共同体)という環境が無くなったから、正常に働かなくなったモチベーションなんです。今の社会が正しい、とするならば、その欲(モチベーション)を否定するしか無い。もしくは、その社会の中で認められる程度の、欲の発散をするしか無い。ただ、これは「欲の発散」ですから、消費活動になります。現代社会では。

 その欲の発散を、ニーズとも言って、無駄に資本主義社会を回しているわけです。そもそも、その欲はなぜ発生しているのか、という問題です。僕は、前提として「人間が正しい」と思っていますから、変な欲を抱いてしまうならば、それは、人間にそう思わせる社会システムが未成熟なのだ、と思っています。

 この人間社会最大のバグと言っても良い、社会システムを構築できないという問題。人間が本能的に社会システムを作れるのは、せいぜい100人までです。そして人間個人は、社会システムを前提として受け取るしかない。我々のバグは、社会システムを「問題と思えない」ということです。社会は前提として存在し、正しいものである、と、思ってしまう、というか、思いもしない。ほとんどは「社会」なんていうものがあるとも感じていない。

 遺伝子が想定する環境なら、それで良かったんです。人間個人が社会システムを作れるわけもないし、その前提たる社会を受け入れて生きるしか無いのですから、社会がおかしい、周りがみんなおかしい、なんていう発想を抱くことは無いんです。抱いたら、生存不利ですから、そういう遺伝子は淘汰されます。僕だって、別に感じていませんよ、感情的には、社会は正しくて、みんなが正しいと思いますよ。そういう感情を抱いてしまいます。でも理屈で考えると、社会が間違っている、と結論づけているわけです。人間の感覚のバグです。

 社会システムというのは、まず、人間がいる。人間の周りには、人間を支える環境(動植物とか自然界)がある。そして、社会が目指すべき形がある。どのような形を目指すにしろ、最低限「存続」しなければいけない。というように、前提(人間と環境)とゴール(理想状態)があれば、その間を結ぶのが社会システムです。

 で、その社会システムがどのような形になるかは分からないけど、少なくとも、現代社会は存続という面では可能性が低いし、個体のストレスも溜まっていて、社会が存続できなくなりつつある。その改善策の一つとして、群れ(共同体)を作るという方向は、とりあえず、間違いでは無いと思っているわけです。ざっくり、第一手はこれで正解だよね、という感じです。はい。またあした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?