息子を慣らす、母は忍ぶ。
泣き声が聞こえた。私はさっと腰を落として身を潜めた。
先生が叫んだ、「お母さん、そこに置いてって!」
返事もせずに、振り返ることなく、私は息子のくつを置いて駆け出した。
慣らし保育が始まって1週間。
息子の泣くタイミングが徐々に早まる。
教室、園のゲート、園の駐車場。
今日は雨だからいけない。
傘やらレインコートに気を取られて、息子の靴を娘の教室に置いてきてしまった。
靴を取りに行き、また息子のいる部屋に向かい、靴箱まで行こうとしていた。
そのとき、一人を抱っこ、一人をおんぶひもに背負った先生が、ちょうど出てくるところだった。
大泣きしている、そのうちの一人は息子だった。
先生と目が合った瞬間、私は反射的にしゃがんで身を隠したし、先生は後退りした。
そして、冒頭のやり取り。
背中に息子の泣き声が刺さる。
彼はすっかり赤ちゃん返りしている。帰ってからもぴったりくっついているし、昨晩は夜中3時に起きると、そのまま眠れなかった。私に何か話したり、もぞもぞしていた。
年度はじめの1歳児クラスは、泣き声が反響し続ける。みんなほぼ新入園だし、泣いていない子だって、他の子の涙に引っ張られる。
泣く子2人を抱えた先生を思い返しながら、ぼーっと、自分の傘を探して帰ろうとする。
と、また息子の声が近い。
泣く子たちの気を散らそうと、先生は外に出てきていた。まだいる私を見つけて、はっとする先生。
ぱっと傘をとって、慌てて帰る。
先生、本当にごめんなさい。さっさと園は離れるべきでした。そして、本当にお疲れ様です。
そして、息子くん、帰ったらぎゅっとするから。どうか、迎えにいくまで、なんとか。
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