【読書3】ぜんぶ、すてれば

 思いついたことから後先考えず発言する、言ったことが少し前と違う、つまらない仕事はやらない。
 「一度決めたことに責任をもつ」「嫌な仕事を率先してやる」
ことが美徳とされる世の中において、このような人物は、まわりから敬遠されるように思います。
 しかし、本当にそれが正解なのでしょうか。
今までの美徳を覆し、自分らしい思考を持つことの重要性を与えてくれる一冊です。

中野喜壽/ぜんぶ、すてれば


作者の中野氏は、大手百貨店を渡り歩き、奇抜な発想や大胆な組織改革で活躍された方です。
 また、家や車を持たないどころか、生活に必要なお金以外をほとんど寄付するなど、「持たない」人生を突き詰めた人物でもあります。

この本は「持たない」ことを様々な方向から書かれております。
その中で私が特に感銘を受けた「持たない思想」についてです。
 世間一般で「美徳」とされていることと、「本書」での見解を、並列して書かせていただきます。

・思いついた順に、なんでもすぐやる
 美徳:「結果や成果の終着点から逆算して、ものごとを取り進める」
     「今日しなくてよいことは、明日やる」
 本書:「思いついた順に、なんでもすぐやる」
     「今日できることは、今日やる」

 段取りよく、無駄なく取り進められるほうが当然ベストです。
 しかし、とりかかったり決断するまでに時間がかかり、やらなくてはならないという負担が自分に大きくのしかかります。
 細かいことを考えずに思いついた順にすぐやれば、精神的な負担もありません。
 本書では、「準備万端な日など一生やって来ない。まだ早すぎる、準備ができていないなんて言っていたらいつまでたっても何もできない。どうせ上には上がいる。」
 と書かれているとおり、新たなことに飛び込むタイミングも、まさに「今」ではないでしょうか。
 また、残業削減がうるさい昨今において、今日しなくても良ければ、明日にまわせという風習も根強くなってきている感覚があります。
 しかし、「この仕事が残っている」という心の中のわだかまりは、やはり精神的によくありません。
 今日できることは今日やり、解決できなくても少なくともボールを手離れすることの重要性を感じさせます。

・反骨精神をもつ
 美徳:「先生や上司、先輩のいうことに従う」
 本書:「自分に対して恥ずかしいことは、絶対にしたくない」

この美徳も、根強く残っている文化であります。
 上司や先輩だから正しいというバイアスがどうしてもかかってしまいますが、本書では「数年長く生きただけの先輩と自分に、天と地ほどの差があるはずもない」と書かれています。
 とはいえ、当然学ぶことも多いです。
 その場合、「どこか批判的な目で経営層や先輩を見る」ことの重要性も本書では説いています。
 自分だったらこうするのに、と常に考えていれば、いざ自分がその立場になったら戸惑わなくてよいことにもつながります。
 著者の中野氏も、反骨精神のあまり先輩と衝突して退職を余儀なくされたようです。
 本書を読んでいると、自分の軸さえぶれなければ必ずどこかで必要とされ、一時的に職を失うくらいのことはたいして重要ではないと感じさせます。

・会社はただの箱でしかない
 美徳:「愛社精神をもって会社に尽くす」
 本書:「愛社精神なんて持たなくてよい」
 自分は、何のために働くのか。
 それは「自分のため」と本書で書かれています。
 会社のため、家族のために自己犠牲して働くとどうも美しいように聞こえますが、それはどうなのでしょうか。
 過去に「会社のために死ね」などと言われたこともありましたが、違和感しかありませんでした。(同調圧力もあり、「死ねます!」と答えていましたが・・・)
 今日、自分が楽しく仕事ができることが一番大事で、会社や家族は本来その次くらいになるはずです。

・慣れを捨てる
 美徳:生まれ故郷や古くからの友人を大切にする
    安定した職業に就く
 本書:来るもの拒まず、去るものは追わず
    生まれ故郷や住んでいるところに縛られない
    世の中安定なんてない

 これは少し寂しい気もしますが、居住地・仕事・人間関係に縛られていたら、新しいチャレンジの機会を失ってしまいます。
 また、本書では「慣れ」は怖いことであるとして、慣れない環境に飛び込むことにより新たな知見を得る重要性が書かれています。
 行動をルーティン化することで思考の負荷を減らすことも重要ですが、日常の中でルーティンを崩していき、負荷をかけていくことも必要なのではないでしょうか。

 こういう本と出合えるから、読書はやめられません。
 常人とは一線を画した、新たな知見を得られます。

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