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『空の青さを知る人よ』を観よう。

レンタルで。9ヵ月ぶり3回目。去年の劇場公開時、とても良かったので、立て続けに2回観た。Blu-ray欲しいなあと思いつつ、レンタルが始まったので借りて来た。

あの花、ここさけに続く長井龍雪作品で……とかはまあ、長くなるので置いといて。

物語自体も勢いがあって面白い。いろんな切り口で見所でたくさん。

そういう作品評も今回は置いといて。                 

この作品はやっぱりあかねを中心とした人物相関が面白いというお話を。

主人公はロックなベーシスト女子高生あおいであることは間違いないけれど、物語の中心にいたのはその姉のあかねだったと思う。
ここに大人しんのすけと高校生しんのを加えた主要人物が4人、さらにその周辺の人たちで全体を構成しているわけだけど、その多くがそのあかねのために、あかねの心を思いやり、あかねという存在を意識して生きている。
それもそのはず、高校生にして両親を亡くし、幼い妹を独りで育てることになり、恋人と共に上京するはずだった進路まで諦めることになった彼女は背負うものが多すぎてキャラクターとして突出しているのだ。しかもきちんと市役所に就職して働き、あおいを高校生にまで育て上げている。地域にも馴染み、誰もが彼女を立派だと思っている。そりゃもう誰もが彼女を意識しないわけが無い。

そしてそんな彼女にはキャラクター性を強めるもう一つのバイアスがかかる。こんな彼女が、幸せなはずがないという悲劇のヒロイン像を誰もが求めてしまう。
そんな中、当のあかねは笑顔のポーカーフェイスであまり感情を露わにしない。両親を亡くした高校生時代から、淡々と13年間を生きてきた、ように見える。自分の感情を露にしない、いつも笑顔でいる彼女の姿に、周囲は余計に内に秘めたものを勝手に想像する。

妹のあおいですら、自分は姉の負担でしかないと感じていた。自分がいなくなれば姉は幸せになれるのにとずっと自分を責め続けている。この辺り、あおい自身の逃避をあかねに仮託している部分もあるように思えるので、まだまだ深堀りはできそうだけど。

でもあかね自身は、妹のあおいと共にあることを自らの意志で選び、そのために尽力し、あおいとの暮らしに幸せを見出していた。確かに高校生にとって両親や恋人との別れは辛いものだったのだろうけど、彼女にはあおいがいた。
それこそが、彼女の生き甲斐であり、井戸の中で得た空の青さだった。どの段階からそうだったのかは分からないけれど、彼女にとって、空は最初から青かったのだろう。

あかねを取り巻く人たちは、故郷を狭い井戸だと見立て、彼女の見ている空の青さを知ろうとせず、ひたすら井戸から抜け出そうとし、あかねもそこから抜け出したいと願っていると思い手を差し伸べたがっていた、それがこの物語だったんじゃないかと思う。

高校生しんのはあの時の自分で今のあかねを見て、故郷から離れていたしんのすけは改めて自身のスタート地点を確認して、あかねの見ている空を知った。そこでようやく、あかねに寄り添うことができるようになった。この双方向からの流れも美しかった。

この、主人公とは違う中心点を持つという構図が、決して話を複雑にするわけではなく、面白みを深めているっていうのがすごい。こうして書いてみて改めて見所を思い知った気分。やっぱりBlu-ray買おうかな。

蛇足。井戸の壁ばかり見ていたあおいと空の青さを知っていたあかね。この2人が劇中でよくやっていた仕草の対比も興味深い、あおいは何かがあると大きく空を振り仰ぎ、あかねはいつも静かに前を見ている。目で見ているもの、心が認識しているもの。その違いを表現していたというのは考えすぎというか考えに浸りすぎというものだろうか。

もう一つの見所、つぐ君の初恋物語についても、書きたいことはたくさんなので、また近いうちに。彼だけは、あかねではなくあおいを見ていた。そんなお話。


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