見出し画像

読書録「無人島のふたり」山本文緒

山本文緒さん本は20代の頃愛読していたが、最近はすっかりご無沙汰だった。闘病記と聞いて、家族の話かと思ったくらい何も知らなかった。まさかご本人の遺稿とは。
余命診断からの4か月余りをつづった日記で、闘病記にありがちな悲壮な感じ、生への執着は前面には出てこない。家や荷物を片付け、周りの人とお別れを言う過程が淡々とつづられ、山本さん自身のことなのに、他人を観察しているかのような冷静さがある。その分、花があふれるカフェの美しさ、友人や旦那さんとのやり取り、マンションを引き払う際のエピソードなどに、最後まで大事なものを大事にできる作者のあり方がにじみ出て心を打たれる。やはり、プロの作家は文章が違う。
あと、「死ぬ直前」だけど、山本さんは本や漫画も楽しんでおり、(症状がコントロールできていればだろうけど)好きなものは最後まで楽しめるのだと知ったのはちょっと驚きだった。最後まで、読みかけの本の続きは気になるのか。そうして日々の楽しみとして出てくる作品は、どれも自分でも読んだことがある、好きなものばかりで、好きな作家の好きなものはやはり好きなんだなと納得した次第。いくえみ陵さんのマンガだけは読んだことがないから、読んでみようと思う。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?