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『廻る椅⼦』作家インタビュー 武田宜裕さん(前編)

2021年9 ⽉13 ⽇(⽉)から5週連続公開がスタートしている演劇集団ふらっとのYouTubeラジオドラマ『廻る椅⼦〜出会った椅⼦は、あなたの椅⼦でした。〜』の作家インタビュー!

今回は第二話「ハルとキャサリン」(https://www.youtube.com/watch?v=WUTvcN-Xhis)の作者である、武田宜裕さんへのインタビューの前編です。竹峰のインタビューに武田さんが答えてくださったのですが、途中キャサリンのチャットコメントもちょいちょい入って大いに盛り上がりました。

武田宜裕さん

*作家プロフィール
武田宜裕(たけだ・よしひろ)
群馬県出身。高校から演劇を始め、コンクールそっちのけで演劇部による小劇場公演を連発。大学内での劇団活動や卒業後大阪の野外公演出演、ミュージカル劇団所属などのキャリアを経て、2006年に男優だらけの演劇ユニット「INAGO-DX」を始動。脚本・演出・出演の3足のワラジを履きながら、外部執筆や俳優としての舞台客演などもこなす現役公務員。

◆亜流な二人

――完成した作品を聞かせていただきましたが、何段階も場面が変わりましたね。最後はそうなるのか!みたいな。奇想天外で面白かったです。

僕自身はそんなに奇はてらってないつもりなんです。お話の展開で盛り上げるより、お二人の会話の方が大事なので。奇想天外という印象を持たれたのであれば、俳優のせいです(笑)。いろんな意味で変な方にエッジが効いてるなって。最初お二人の話を色々聞かせていただいた時、「なんか本流から逸れてるなこの二人」みたいな印象を持ったので。

――(キャサリン「え?私たちが?!」)

(笑)細かいところは省きますけど、なんか正統派…って何だって感じですけど、正統派じゃない気がしたんですよ。

――二人とも?

うん。本人たちは至って真面目に正面からぶつかっていると思うんですけど、見てる方からすると、ちょっと亜流な、アウトローな雰囲気で。ならもう、そっちに振ってしまっていいんじゃね?っていう気になりました。そういうお二人の雰囲気も作品が立ち上がっていくきっかけになったと思います。

――(キャサリン「私は飲みながら聞いてます」)

そういうところですよ、不遜な感じというか(笑)。

――春人くんがアウトローな感じというのは今お聞きして意外な感じもしました。

あくまで僕が感じたことなんですけどね。彼、ちゃんとしている人ですよね(笑)。

――はい、とてもちゃんとしている人です(笑)。

けど、ホントはそうじゃないだろ?って思ったりして(笑)。多分賢いんですよ彼は。だから、もし彼の中にすごく獣みたいな部分があったとしても、周りをそれに巻き込むことはしなくて、でも自分の内側の方で屈折していくみたいな。その感じを役に当てたいという思いはありましたね。で、相手役のキャサリンさんですけど、自分の話より子どもの話ばっかりするんです(笑)。だからこれは子どもの話を入れたほうがいいかなと思って、お母さん役にしました。でもキャサリンさんのお子さんの実話を春人くんにそのまま当てはめるのもどうなんだろう?と思いつつ…結果的に「親子」の話になりました。

――それで「親子」の設定になったんですね。

稽古を拝見していると、僕の想像以上に春人くんが前にグイグイ出す演技をしていたのが面白かったですね。もうちょっと内に秘めたお芝居するタイプかなと思ってたので。完成した録音を聞くと、ヤンキー風に「うっせえわ!」とか喋ってて、逆に面白かったです(笑)。結果的にそれがお二人にとっての、この作品のリアリティであるなら、僕はそれで全然良いと思います。

――どんどん開花させていった感じでしたね。特に物語の後半春人くんが変化していって。

◆演出の粘り、役者の粘り

こういうこと言うのもあれですけど、お二人ともすごく苦しんでらっしゃいましたね。七転八倒しつつ、それを梅屋さんが演出していって。今回一番面白かったというか、興味深かったのは、どうやってこれをラジオドラマとして仕上げるのかなっていうところでした。

――(キャサリン「(春人くんが)毎回仕掛けてくるので大変でした」)

そうそう、春人くんが色々考えて仕掛けてくるんだけど、キャサリンさんがそれを分かっていない時が多くて。「キャサリンさん!気づいて〜!!」って(笑)。それを梅屋さんが見ると、反応できてないことがちゃんとバレてるんですよね。それで、セリフを発した意図とか、二人の間でキャッチボールできてるのかとか、その役がどういう状態だからそういう音(声)になったのか、といったことを粘り強く追求していって、何回も何回も。こういう粘り強さは僕にはないなって思いました(笑)。

――(キャサリン「子育てより難しい」)

(笑)。演出も含めて粘り強いなと。

――今回は声だけで伝えないといけないから、梅屋さんはいつも以上にそこにすごくこだわったと思いますね。

僕らはどうしても舞台の人間なんで、音だけじゃないものも含めて伝えるので。今回のお話は、ちょっとした間(ま)を空けるだけでも、役の心情なり二人の間に流れている空気なりを表現している瞬間がかなりあったと思います。最初は「ラジオドラマ」ということで、耳でしか聞けないお話をどういう風に書こうかなと。ある程度説明は必要だろうけど、説明のためのセリフはなるべく書きたくない、ナレーション的なものは絶対入れたくない、でも独白のように喋る、物語を語る、言い聞かせるようなセリフならアリかなとか。でも俳優お二人のやりとりを聞いてたら、そこまでラジオドラマ云々は気にしなくてもいいのかなって。聞く人が想像しながら、色々感じてくれるかなと思ったので、結果的には演劇の脚本を書くのとあんまり変わらない感覚で書き切ったと思います。

◆行間を読め!

でもやっぱり演劇のように俳優同士が応酬し合うだけだと、多分伝わらない気もしたので、今回の台本は、セリフとセリフの間にあえて2行分の空白を設けました。

――台本上で2行空けにしたと。

その分ページがかさばりましたけど(笑)。でもこれは、「間(ま)を空けろ」っていう意味じゃなくて、二人の間に何が起きて、どんな状態になっているのか色々考えてもらえたらと思って、こういう形にしました。

――そういうことだったんですね。それって俳優二人には伝えてたんですか?

忘れた…伝えてないかもしれない(笑)。台本の形式って、書き手によってスタイルが全然違うんです。行間の広い人や、逆に狭い、すごくツメツメで書く人、2段書きの人、横書きの人、フォントも違って。いまだに手書きで書いてる人も僕は知ってます。で、僕は割と、台本の見た目から、その人の世界観的なものを感じ取ります。何となく性格的なものも見えたり。書いた本人は特に意識したりこだわりはなかったりもするでしょうけど、作品自体が持ってる空気とかも感じたり。だから台本をもらったときに感じることがあるかな?というのもあって、今回は行間を空けてみました。

――じゃあ武田さんは作品によって台本のフォーマットを変えてらっしゃるんですか?

普段はそんなに変えないですよ。今回のラジオドラマはってことで…まあ空いてるから何だっていう気はするけど(笑)。読みづらいとか言われるかなとも思ったし。メモしやすいとかはあるかも(笑)。

――それは大事かも(笑)

◆猫にしたわけ

――そういえば、何で登場人物を猫にしたんですか?

何で…何でなんでしょう(笑)?

――(キャサリン「テストに出ます?」)

出るやつですね(笑)。ええと猫にした理由…最初は人と猫の話にしようと思ってたんです。猫がいるお家のお話とか。あ、キャサリンさん猫飼ってたっけ?犬じゃないよね?もう俺、記憶が定かじゃない(笑)。

――(キャサリン「実家です」)

あー、実家か。そう、その話を聞いて、僕、たまたま椅子に関することをネットで検索していた時に、椅子の上に猫が座っている絵があって、それが結構印象的で。どなたの作品かは忘れてしまったんですけど、その絵の椅子がたまたま青い椅子だったんです。青い椅子の上に猫が座って、何だか椅子を自分の家のようにして居着いてる。犬は人に居着くから、家が変わった時にご主人様についていくけど、猫は場所に居着くから家に残りたがる、みたいな話を聞いたことがあって。猫にとってその椅子は家で、家と猫の、ある種の歴史なり何なりにアプローチできないかなって思って書き始めた気がします。

――(キャサリン「猫は家につく」)

そうですね。で、二人が単に親子として会話するのも何となくしっくりこない感じがしていたので、何ていうか…ヘンなものを一個被せたいなと思ったんです。アウトローな二人だし(笑)。それでもう猫同士の話にするかって開き直りました(笑)。「擬人化」っていうと安い言い方になっちゃうんですけど、何かしらのフィルターを通した方が、人間の在り様みたいなものを描きやすいことがあるので。で、猫同士が人間みたいに会話するなら、よりわかりやすくしようと、セリフは全部「にゃ」をつければいいかってなりました(笑)。

――そういうことだったんですね、なるほど!最初に台本を拝見した時に「猫語」になってるって思って。

多分ですけど、ちゃんとお二人の間で人と人、親と子の心の交流みたいなことがお芝居として成立していれば、「にゃー語」が効いてくるかなと思ってたんです。わざとらしさを超えて伝わるというか。ていうか「にゃー語」って何だよ(笑)。

◆二人にしかできないヘンなもの

――実際できあがったものを聞いてみていかがでしたか?

大変そうでしたけど、最後は楽しんでやってくれたのかなって思いますけどね。僕は面白かったですし。あ、キャサリンさんが王妃になるシーン、最初はZoomだし、家の中だから大きい声出せないのかな?とか思ってたんです。それかすっげー恥ずかしがってるのかな?とか。「ザッパーン」っていう音とか、「ニャッハー」っていう声とか、多分人生の中で口に出したことないでしょっていうセリフ、「テンションあげみさわだわ!」とか、こういうセリフをサラッと言えば恥ずかしくないのに、キャサリンさんはしっかり言うんです。それが逆に面白くて。いやいやそんな言い方する人いないよって(笑)。キャサリンさんの中で、ある種の葛藤がすごくあって、その葛藤の中から結果的に「ヘンなもの」が出てきたのかなと。あんまり感想になってないですけど、二人の葛藤の結果が生んだ、「二人にしかできないヘンなもの」をたくさん見せられた気がします。脚本を書いた時には想定してないような。まあ別に正解なんてないんですけどね。演出の梅屋さんの粘り強さもあって、この二人同士だからこそ、こうなりましたってことなんだろうなって。そういう意味でも何だか微笑ましい作品でしたね(笑)。

(後編に続く)

武田宜裕さん作品のご視聴はこちらから▼

『廻る椅子』第二話「ハルとキャサリン」

(https://www.youtube.com/watch?v=WUTvcN-Xhis)


インタビュー:2021年9月23日 Zoomにて

聞き手:竹峰幸美、キャサリン

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