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『廻る椅⼦』作家インタビュー 武田宜裕さん(後編)

2021年9 ⽉13 ⽇(⽉)から5週連続で公開した演劇集団ふらっとのYouTubeラジオドラマ『廻る椅⼦〜出会った椅⼦は、あなたの椅⼦でした。〜』は、4 ⼈の作家による書き下ろし作品で構成されています。

作家インタビューもいよいよ最終回。
第二話「ハルとキャサリン」(https://www.youtube.com/watch?v=WUTvcN-Xhis)の作者である、武田宜裕さんへのインタビューの後編です。
作品のアイディアはいったいどこから湧いてくるのか、熱く語ってくださいました!

◆現実とファンタジーのはざまで

――梅屋さんが最初にプロローグを書いたわけなんですけど、そこからどういう風に引き継いでやろうと考えられましたか?

こう言っちゃうとアレだけど、ああいう始まり方だから、みたいなことはあんまり意識しなかったです。ただ、最初に「この椅子です」って画像を見せられた時に、「あ、海だ」って思いました。色もですけど、実際海を渡ってやって来たんだろうなあって。最初の構想の段階では、「この椅子は最初は青色じゃなかった、次第に青色になっていった」っていう設定も考えました。海にまつわるお話にしたかったので。ファンタジック過ぎるのでやめましたけどね。ファンタジーにしちゃうと、今実際にある椅子だっていうことの価値が薄まっちゃう気がしたので。物語に引っ張りすぎないよう、所詮椅子は椅子だって、最終的に割り切ることにしました。

――椅子は猫の家っていうことにして。

そう。今回の話で言えば、たまたまそこにあったから、猫が自分の家にした。でもそういうことが、もしかしたら10年、20年、100年と続いてきたかもしれないですよね。ある時は誰かの椅子で、今回はたまたま猫のおうち。椅子自体は生まれ変わらないから、ある場所にずっとあったり、誰かに運ばれて旅をしたりもする。これに対して猫は、二人(二匹)は、今は全然他人同士として出会って親子のような関係になっていくけど、ある時は、物語の中にも出てくる「王妃と王子」みたいな関係だったかもしれないし、でもある時はまた全然違う関係…みたいなことが繰り返されてきてるんじゃないかっていう。ラストで「猫に九生あり」という言葉でまとめていますけど、そこは少しだけファンタジー要素を盛り込ませてもらいました(笑)。

――何か、生まれ変わりとか、場所は違っても繋がっている関係っていうのが大きなテーマなんだろうなと思いながら聞きました。

人間同士だと「魂の輪廻」が強すぎちゃうけど、猫だったらいいかなっていうのはありました。猫も亡くなる時には姿を見せなくなるとか、色々不思議な面がありますよね。僕らにも分からないことがいっぱいある存在だからこそ、逆に信じてもらえるかな、みたいな。

――確かに、そこを人間で設定しちゃうと別要素が絡んできそうですね。

そう。「いや猫でもそんな話ありえないでしょ」て言われたら「まあまあ、そういう話もあるかもですよ」って許してもらって(笑)。あとは、ラストを現実の春人くんとキャサリンさん、いわば人間世界のお話に落とし込む形にして。猫のお話で終わったら、本当にただのファンタジーになっちゃうから。

◆よし、とりあえずタイトル書こう

――何でこのタイトル(『ハルとキャサリン』)にしようと思ったんですか?

僕タイトルつけるのめちゃくちゃ苦手なんですよ。だけどタイトル決めずに進めるとうまくいかない気がして、「とりあえず何かつけとけ」ってなって(笑)。「えー、役名がキャサリン、とハル…ハルとキャサリン…これだ!」みたいな感じで。ほんと申し訳ないけどそれぐらいのもんです。

――仮称がそのまま本タイトルになっちゃったみたいな。

そんな感じですね。こういうタイトルにしてしまえば、「これはハルとキャサリンの物語である」って、実際そのまんまなので(笑)。僕、タイトルに苦手すぎて良い思い出が1個もないんです。唯一、あっという間に決まったのが、2016年にINAGO-DXの10周年公演で上演した『十』って作品で。劇団の10周年で10人の俳優が出てくるから『十』(笑)。一番早くタイトルつけたのに、人生で一番脱稿が遅かったっていう…結局タイトルが苦手どうこうの前に、お前に実力がないからだろって話で(笑)。まあ今回は結果的にこれで良かったんじゃないでしょうか。

――結果的に物語を表しているタイトルだった気がします。

他の作品の、上田さんとか田村さんとか、すごいなと。上田さんの『カレイドスコープの景色』、多分僕の人生で絶対出てこない言葉です(笑)。田村さんの『ピンクの肉食獣』なんて、どうしたら出てくるのこんなタイトルって(笑)。この2作に囲まれた『ハルとキャサリン』。単純で良いじゃないですか(笑)。

――結果的にものすごくバランス良くなりました(笑)。

オシャレワードとパワーワードの間で、そのまんまワードが出てきたっていう(笑)。

◆アイディアはきっかけもらうと湧いてくる

――これまで数多くの公演を重ねておられる武田さんですが、やはり、常に何かアイディアが湧いてきたり、やりたいことがあるという状況なんでしょうか?

湯水のようにアイディアが湧いてくるというのは若い頃だけで、もうそんなに出てこないです。でも、どういう企画でどういう人が出演して、どんなことをしたいっていう話を聞きながら、じゃあこれが面白いかもねって思いつくことが多いかもしれません。具体的にこんな場所でこんな設定ならこんなお話ができる、というふうに着想していくことが多いかも。ゼロから何かを書くってなると「何書いたらええねん…」ってなって、机に向かっても、タイトルすら出てこない(笑)。

――何かきっかけを与えられたら「あれができるこれができる」っていうのが湧いてくるわけですね。

人と話しながらのほうが思いつきますね。だから僕を一人にしないでっていつも思ってます、寂しがり屋なので(笑)。

――じゃあ今回台本を書く時は、キャサリンさんと春人くんとの打ち合わせがそういう場だったんですか?

そうですね。まず椅子があって、何がどこでどうパーンと繋がるかみたいなことを探して、繋がったら一気に書くっていう感じで。微妙に繋がりかけてるぐらいの段階だと、まだ試行錯誤しながら、パラパラと書いてみて俳優さんに「ちょっと読んでみてもらっていいですか」って。で、それを聞いて、またそこからスゲー変わるなと思ったら「すみません変わります」って引き取って、また自分の中で揉んで。それぐらいやってようやく「あ、これで繋がる。やっと椅子が落ち着いてくれた」みたいになりました(笑)。それまでは延々椅子が漂ってた感じです。海行ったまま帰ってこねーみたいな(笑)。迷惑はかけましたが、面白かったです。僕も苦労して、俳優さんも苦労して、最後に「あー、どうにかできそうだ」って。余談ですけど、台本ができて稽古も進んでちょっと落ち着いた頃のある休日に、僕の家の近くの海沿いを散歩してたら、港の近くで、青っぽい椅子が、足が折れた状態で横倒しになってたんです。物語の設定そのままの感じで。あ、すごい、あのシーンみたいだなって。

――シーンが実際の風景を呼んだみたいな。

思わずツイッターに上げました。「『ハルとキャサリン』乞うご期待!」みたいな気持ちで(笑)。

◆いつか公務員を書きたい

――今もたくさんの原稿を抱えておられるということなんですが、次どんなことをやりたいとかってあるんですか?

僕、ちゃんと公務員のことを書こうって思ってるんです。公務員といっても、消防士とか警察官じゃなくて、役所の職員。

――いわゆる事務職のことですね。

これ別に世間に反抗したいわけじゃないんですけど、映画やドラマで出てくる公務員って「まだそんな描かれ方なの?」って思うことがあって。いまだに定時になったら全員が帰る、それまでは窓口で暇そうにしている、みたいな。最近だと「文書改ざんしてんだろ?」とか(笑)。10年経っても100年経ってもあまりイメージが変わらないというか。

――実際はありえないですね。大抵の人はすごく真面目に働いているし、かなり多忙。

政治家と公務員を同じ物みたいにくっつけられちゃうこともあって、(描かれ方が)雑だなあって。警察モノとか医療モノは数多いから、どれも相当取材して、きちんと調べて作られてる。ディテールに気をつけて書かれてるって思うんですけど、公務員はそうじゃない。でもそれはちゃんと伝えてない側の責任もあるんだろうなって気もするし、そもそも公務員自身、発信がヘタなので。そういうこともあって、いつか公務員を主に書こうって思ってます。僕自身が公務員で、仕事上知り得た秘密は漏らせないので書けないこともありますけど、この仕事を続けてきて、一見すると演劇と結びつかない仕事だけど、続けてきた意味みたいなことを、ずっと考えています。たまたまですけど、今年「あ、こういうことかな?」って思うことがいくつかあったので、戯曲にできるんじゃないかなと。物語を書くための動機というか、衝動みたいなものが生まれたので。そういうものが生まれるのが遅いからなかなか書けなくて、いつもメンバーに謝ってます(笑)。

――武田さんの公務員演劇、ぜひ見てみたいです。それにしても、面白過ぎて時間があったという間に1時間経ってしまいました。ほんっとにありがとうございました。

演劇の脚本で書いたものをラジオドラマにしてもいいかなってものがあれば、やってみたいなって前から思ってたんです。会話劇であれば、ナレーションを入れなくても会話だけ聞いてわかる内容ならラジオドラマ向きだなとも思って。耳だけで聞くことで、逆に緊張感が高まったり。そういうことも今後できたらいいかな…ってこれ別に営業じゃないですよ(笑)。

――すごく魅力的です。本当にこれで終わらずいつかご一緒させていただければ、ふらっととしては大変嬉しく思います。ありがとうございました。

(おわり)

武田宜裕さん作品のご視聴はこちらから▼

『廻る椅子』第二話「ハルとキャサリン」

(https://www.youtube.com/watch?v=WUTvcN-Xhis)

インタビュー:2021年9月23日 Zoomにて

聞き手:竹峰幸美、キャサリン

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