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Fate/Revenge 6. 聖杯戦争二日目・夜-②──キャスター参戦

割引あり

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。


 ライダーの駈る白鳥は伯林ベルリン郊外からオストクロイツ地区へ向かって飛んでいた。
 その姿は哀れなほどに傷ついていた。白鳥は痩せた羽でやっと空をかいているようで、あれほど輝いていた真鍮の鎧は煤をおび、薔薇色のマントは茶色く焼け焦げていた。ライダーの力は破れかけていた。
 それでもシュプレー川が見えてくると、そこにありえざる者が立っていることに気づいた。
 月明かりの上空に小柄な青年が浮いている。赤い亜麻の上衣アシートゥが風にはためき、白い毛織の身体に沿った細い足通しをはいている。腰を細い紐のようなもので縛っているが、それには小さな金具がついていて、きらきら星に光っている。足元はアッシリア風の編み上げサンダル。風にたなびく髪は茶金、騎士を真っすぐ見つめる瞳は薄い水色──彼はただ空中で腕を組み、ライダーたちが近づいてくるのを待っていた。
 ライダーは白鳥を止めることなく近づいていく。
たれか! 名乗りたまえ」
「僕はランサー。キャスターと戦ってぼろぼろだな、ライダー?」
「貴様は相手の疲れたところを不意打ちするというわけか。なんと卑怯な」
 ライダーが怒りに口を引き結ぶ。セイバーは真に尋常なる戦士であったが、この青年は違うようだ。
 彼は月を背後に右手だけをくっと上げてみせた。
「卑怯だったらどうするのだ? 戦に卑怯も正当もない。あるのは殺すか殺されるかだ」
 ライダーが戦斧を構える。だが、ああ、なんということか。さっきまで前にいた青年が戦斧ポールアックスの柄の上に爪先立ちに立っている。彼はゆらりと身体を曲げてライダーの顔を覗きこんだ。
「遅いな。セイバーよりもずっと遅い」
「ああああっ」
 後ろに乗っているエヴァが悲鳴をあげる。彼女にとっては何が起こったかさえも分からなかった。それは青年の興味を惹いた。彼は無造作に腕を伸ばし、後ろのエヴァをつかもうとした。
「ぐあっ」
 ライダーが青年を載せたまま、戦斧ポールアックスを大回しにする。彼はふわりと風に乗るように身体をひねり、白鳥の背に降りようとした。それを見てとるや、白鳥の騎士は意外な行動に出た。
「逃げよ! エルザ」
 なんと、エヴァを蹴り落としたのだ!
「騎士様ああああ……」
 エヴァは悲鳴を引いて落ちていく。彼女の髪が夜風に広がり、その姿は夜の川面に呑まれて消える。下は墨を流したように暗い。
 だがランサーが空中で身体をひねりながら、ちっと舌打ちした。
「最初の獲物を逃したぞ。もうお前とは遊ばない」
 ランサーが白鳥の背に足をついた瞬間、身体をふたたびひねって踊る。彼の足は軽やかにライダーの手から戦斧を蹴りだした。
「なっ……」
 ライダーが気づいたときにはランサーは白鳥から消えている。彼は飛んだ戦斧を追って自ら飛び、その手にライダーの武器を掴みとった。彼はぴたりとライダーの顔に視線を据えた。
「僕の目は星の光で出来ている。だから、お前の中にいる真のお前が最初から見えている。むしろ、それが見えぬ者が分からぬよ」
「……貴様も余を謀らんとてか」
「謀る? まさか」
 ランサーの青年は苦しげに笑い、斧を肩に担いだ。
「我が唇は真実こそ紡ぎけれ。そなたの最期に見るは天神アンの映し身たる我ぞ。冥府キガルで亡者に自慢するがいい」
 彼が身体を翻したと思った。
 だがライダーに分かったのはそこまでだった。
 川向かいの建物の屋根でウォルデグレイヴは戦いを見守っていた。それは信じられない結末を迎えた。ライダーは白鳥の腹の下から自分の身体までを串刺しにされていた。ウォルデグレイヴは凄惨な光景に口元を拳で押さえる。声が出ない。
 白鳥と同時に●●●●●●刺し貫かれると、騎士の身体はぼやけていき、白鳥は光の渦となって消え去った。白鳥の夢は破れたのだ。夢に惹かれて集まり、力を貸していた死者の魂も散っていく。
 セイバーが白鳥を断てなかったわけ──それは白鳥が白鳥ではなく、魂の集合体だったからだ。セイバーの剣はあくまで実体を斬るためのものであって、人の魂を断つことはできない。
 だが彼女の『約束された勝利の剣エクスカリバー』は無駄ではなかった。
 彼女の光は魂を洗い、ライダーの夢に囚われたものたちを目覚めさせた。そうでなければ、彼女は魂たちの奔流に巻きこまれ、あっというまに連れ去られて●●●●●●いただろう。
 浄められた魂は望外の幸福に輝き渡って夜空を飾った。
 後には麗しい美貌の男が自らの戦斧で腹を貫かれていた。ランサーは戦斧の柄をひょいと離して、また掴み、刺さった男を手元に引き寄せる。
 するとウォルデグレイヴからも仰け反った顔が見えた。陶器板や肖像画で何度も見られた顔だった。

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